世界の都市はなぜ木を植えるのか~「都市の森」減らす日本 増やす世界~ 第5回

日本全国で失われる「都市の森」大阪編

大澤暁

 大規模な樹木伐採が問題となっているのは、神宮外苑だけではない。日本の全国各地で、貴重な都市の森が失われている。背景には、無理を押し通す行政、蚊帳の外に置かれる市民、資本に飲まれ消える緑など、神宮外苑と同じ構図が見て取れる。まずは副首都を目指す大阪の状況をリポートする。

1万9000本の街路樹・公園樹を伐採した大阪市

 大阪市で1万9000本もの樹木(高木)が伐られている──私がこの話を聞いたのは、神宮外苑再開発見直しを求める署名の発起人ロッシェル・カップさんの声かけで2024年に開かれた、「緑を守る活動を行う全国の市民グループ」のオンライン集会でのことだった。

 神宮外苑再開発による樹木伐採のニュースが大きく報道されると、同じように都市の緑が失われる危機に直面する全国の市民グループがSNSなどで声を上げ、横の連携を取るようになっていた。

 1万9000本の高木を伐採するということは、神宮外苑の高木の伐採本数(619本)の約30倍という数である。オンライン集会に出席した「大阪市の街路樹撤去を考える会」のメンバーは、次々と伐られていく街路樹・公園樹の状況を写真を見せながら伝えた。道路沿いの街路樹が全てなくなり、伐り株が点々と並んでいる異様な光景には言葉を失った。しかもそれが、1ヵ所だけではなく大阪市内のいたるところで見られるという。

 大阪市によると「街路樹・公園樹の安全対策事業」として、2018~2024年度までに55億円の事業費で、この大規模な樹木伐採を行っているとのことだった。市のHPには次のように事業の説明が出ている。

伐採された街路樹が点々と並ぶ道 (写真:大阪市の街路樹撤去を考える会)

「大阪市では、昭和39年の「緑化百年宣言」を契機として、街路樹や公園樹をはじめとした緑の量的拡充に重点をおいて、市民・事業者・行政が一丸となって緑化に取り組んできました(中略)しかし、長い年月をかけて生長した多くの樹木が大木化・老木化した結果、街路樹では、樹勢が衰えてきたものや、通行障害、視認障害・視距阻害など安全な道路交通に支障を来すおそれが生じ、また公園樹では、樹勢が衰えてきたものや、民有地への越境、公園施設の損壊など公園内外の安全に支障を来すおそれが生じるようになりました」

 たしかに高度経済成長期の後半に、経済成長に伴う環境悪化の問題が深刻化し、日本の多くの都市では緑化が進められた。例えば、近隣の政令指定都市である神戸市では1971年に市街地の3割を緑化する「グリーンコウベ作戦」を開始している。また、横浜市や名古屋市でも1960~70年代から街路樹の数が急増していることが確認できる。

 そして半世紀ほどたったそれらの木が大木化して管理上問題となっていることも共通している。例えば名古屋市のHP「街路樹再生の取り組み」には「植栽後40年以上が経過し、大木化や老朽化、生育環境の悪化が進み、従来の維持管理手法では解決できない多くの課題を抱え転換期を迎えています」と書かれている。

 しかし、だからといって2万本近い高木を、数年の間に伐採してしまうという話は聞いたことがなかった。大阪市の樹木数が、他の自治体と比べて飛びぬけて多いということはない。国交省が2023年度に公表した調査(「我が国の街路樹Ⅸ」)で大阪市の高木の本数は7万8681本で、人口千人あたりの高木本数は29に対して、横浜市は11万5140本で31、名古屋市は6万7640本で29となっている。

 なぜ大阪市はここまで大規模な樹木伐採を行ったのか? 詳しい理由を知るために、私は大阪へ向かった。

「ここに204本のアメリカフウが植わっていたのですが、それが全部伐られてしまいました」と、大阪市の街路樹撤去を考える会の渡辺美里さんは悔しそうに語った。案内してもらったのは、大阪市の南東部に位置する東住吉区の高速道路が走る下の道路だ。ここの街路樹を守ろうと渡辺さんたちは最後まで大阪市と交渉を続けたが、全て伐られてしまった。「現地説明会で市の職員に対して、何十人もの市民が伐らないで欲しいと伝えたのですが、全然聞き入れられなくて、最終的に伐られてしまいました。倒木の危険があると診断されていれば、もちろん伐って欲しいのですけれど、元気な木が伐られるというのが、やっぱり納得ができませんでした」(渡辺さん)

 現在、木陰をつくる木が一本もなくなった歩道では、夏場は日陰を求めて車道へ出て、高速道路の高架下を歩く人もいるという。

大阪市の街路で伐採される樹木(写真:大阪市の街路樹撤去を考える会)

 大阪市は「公園樹・街路樹の安全対策事業」の中で、街路樹を1万2000本、公園樹を7000本伐採した。当初は事前に告知もなく伐採されたが、途中から伐採する木には張り紙がされて、そこに木を伐る理由が示されるようになった。

 街路樹の伐採理由としては、樹勢が弱まり倒木のリスクがある「健全度の低下」だけでなく、信号や道路標識、交差点の見通しを遮る「視認障害・視距阻害」、歩行者や車両の通行や施設利用に支障をきたす「通行障害」も含まれた。例えばある木は、健全度には問題がないが、標識の上に葉がかぶり見えなくなる恐れがあるという理由で、伐採となった。また別のある木は、街灯の灯りが暗くなるという理由で伐られた。

 大阪市の街路樹撤去を考える会の谷卓生さんは、市が示した伐採理由の多くは根拠が乏しいという。「街路樹の葉が伸びて標識が見えなくなる状況がこれまであったのか、と担当課に聞きましたが、そのようなことはないが『見えなくなる恐れがある』とのことでした。また、街灯がどれだけ暗くなるか、データを取ったのかとも聞きましたが、取っていないとのことでした。夜暗い時に調べたのかと聞いてみると、それもしていないとのことでした。大阪市のあげる伐採理由はめちゃくちゃです」

 大阪市が示した伐採理由が、途中で変わることもしばしばあった。例えばヒマラヤスギは根を浅く張る性質のある木のため、台風の時などに倒木リスクが高いとして、全て伐採する方針が取られたが、ヒマラヤスギなので伐採とされた18本の木が、サワグルミだったことがあった。大阪市に確認すると、伐採理由が「植栽密度」や「植栽場所」など別の理由に変更された。

 ある木は「植栽密度」が高いため伐採と初めに理由が示されたが、その樹木に隣接する樹木はなかったため市に確認すると、理由が「施設損壊」に変更された。根が上がっており、1mほど離れている遊具を壊す恐れがあるとのことだった。

 どの木も理由は変更されたものの、伐採するという結論に変わりはなかった。

「施設損壊」に理由を変更し伐られた木。矢印の遊具が損壊の恐れがあるとされた(写真:谷口るり子)

 また、大阪市の各公園事務所が2022年度に作成した樹木伐採の理由が、情報公開請求によって明らかになったが、「樹高が10m以上であるため」「別の木の伐採を行うための通路を確保するため」など合理的とは言いがたい理由が多くあった。

 伐採の理由が納得できるものではなかったので、大阪市の街路樹撤去を考える会らは独自に、伐採対象となっている木を樹木医に見てもらった。一般社団法人「地域緑花技術普及協会」の細野哲央代表理事(樹木医)に依頼し、伐採予定の街路樹・公園樹からランダムに選んだ36本の木を診断してもらった。その結果、安全上の問題があり伐採が妥当であると判断された木は6本(17%)にとどまった。残る30本(83%)は「現在・将来とも市民の安全・安心に支障をきたすとは考えられない樹木や、維持管理上の課題もとくに見当たらず撤去する理由が全く不明」ということだった。

 また先に述べたように、ヒマラヤスギは根が浅く、台風の時などに倒木リスクが高いという理由で、全て伐採するという方針を大阪市は取ったが、樹木医の細野氏はこの対応もおかしいと指摘した。「ヒマラヤスギは浅根性の樹木として知られるが、本事業のようにそれだけを理由として健全な樹木を撤去するという措置は国内外に他に例がない。そのような措置は科学的な合理性を欠くものであり、都市の緑に多様性が求められる世界的な潮流にも逆行する」(細野氏)

ヒマラヤスギは倒木リスクが高いと全て伐採されたが、樹木医の細野氏は「合理性を欠く」と批判(写真:大阪市の街路樹撤去を考える会)

 大阪駅から約1kmの場所にある扇町公園のケヤキの木も、樹木医の細野氏によって「活力・樹形とも非常に良好」と判断された木だった。丘に立ち、公園のシンボルツリーとも言われるほど、枝ぶりが見事な木だった。高さは10mほどで周囲に大きな木陰をつくっていた。大阪市の街路樹撤去を考える会がケヤキの横のアスファルト舗装された通路で温度を測定したところ、木陰が27.4℃だったのに対して、木陰から出た日向では54℃だったという。

 大阪市はこのケヤキを「腐りや空洞等により樹木の健全度が低下」「根上がりなどにより施設を損壊するおそれ」を理由として伐採するとした。しかし、この樹木に関しては大阪市が委託して2020年度に行った調査でも健全度に大きな問題はなく、「剪定または保存」という判断が下され、「伐採すべき」とはされていなかった。わずか数年で樹木の健全度に変化が生じたとは考えづらい。

 伐採の理由に納得できなかった市民たちは、大阪市に依頼し、説明会や協議の場を開かせた。平日でも50名を越す市民が参加して、意見や質問が相次いで出された。「なぜあの木を伐るのか」「残すことはできないのか」と住民側は市の職員に何度となく尋ねた。協議は最も長い時では10時間以上に及び、日をまたぎ午前2時まで続いたこともあった。それでも住民に納得のいく説明はなかった。

 そして2024年6月26日の夜、住民たちの監視の目を避けるようにして、ケヤキの木は伐採された。近隣住民が夜中に公園で大きな物音が聞こえると言い、朝行ってみるとケヤキの木は伐り株になってブルーシートがかぶせられていた。

樹木医に健全と評価されながら伐採されたケヤキ(写真:大阪市の街路樹撤去を考える会)

 扇町公園ではこのケヤキを含む56本の木が伐採される計画となっていた。しかし、そのうちで1本だけ伐採されなかった木がある。それが「根上り等により施設を損壊する恐れ」があるため伐採するとされていた桜の木(ソメイヨシノ)だ。他の55本は2週間ほどで全て伐採されたが、1本だけ伐採の張り紙がされたまま残っていた。大阪市に情報開示請求すると、地元の連合町会の要望を受けて、伐採を取りやめていたことがわかった。

 市民がどれだけ要望しても、「変更はできない」(公園事務所所長)と頑なに全て伐採する姿勢を崩していなかったにも関わらず、地元議員にも影響力を持つ連合町会の要望はすんなりと聞き入れていたのだ。しかも、その事実は住民に一切知らされず、伐採理由を示す張り紙はひっそりと剥がされた。

 大阪市の街路樹撤去を考える会の谷さんは、一般市民の要望は聞かずに、連合町会の意見だけを聞くのは公平ではないと批判する。その上で、「市民や専門家、行政が入った検討機関などを設けて、樹木1本ずつ精査して、撤去するしないを決めるべきでした。街路樹や公園樹は長い間かけて育まれてきた、市民の共通財産です。住民や専門家の声を聞かず、納得がいく根拠も示さず、1万9000本もの木を伐ってしまうのは民主的な方法ではありません」と言う。

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 第4回

プロフィール

大澤暁

(おおさわ さとる)

テレビ東京で「WBS(ワールド・ビジネス・サテライト)」など報道番組の記者・ディレクターを担当。現在はジャーナリストとして活動。明治神宮外苑の再開発に近隣住民として反対し、新宿区に対する樹木伐採許可取り下げ訴訟の原告団長を務める。X(旧Twitter)フォロワー3.9万人「ミド建築・都市観測所」(https://x.com/Mid_observatory)を運営。早稲田大学第二文学部卒、京都大学公共政策大学院卒。1983年生まれ。

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