大阪市の樹木伐採“裏の目的”はコストカット?
なぜ大阪市はこんなに無理を通してまで多くの樹木の伐採をしたのだろうか?この街路樹・公園樹の安全対策事業についての論文を執筆した甲南大学の谷口るり子教授は次のように指摘する。「大阪市議会の議事録を読んでいくと、街路樹の安全対策事業は『道路交通の安全性向上が主目的』であるという答弁をしています。主ということは何か二つ目の理由があるはずです。その答弁の中で、二つ目はという言葉はなかったのですが、次の話がコストの話でした。ですから、第二のとは言っていませんが、裏の目的は『経費削減』と考えざるを得ません」
これを裏付ける数字もある。大阪市の公園樹と街路樹の維持管理費は、2023年までの10年間は9億5000万円程度で横ばいだったが、人件費の高騰などにより、剪定本数は2012年度の12万6000本から2020年度は6万2000本へ半減した。
大阪市の公園緑化部緑化課長は2023年の議会答弁で次のように話している。「人件費などの上昇や消費税の引上げといった要素もございまして、維持工事におけます剪定などの年間延べ施工量は目減りしております。しかし、こうした状況におきましても、樹木を起因とする事故などが発生しないよう一度に大きく枝を刈り込み、剪定の間隔を延ばす強剪定を行うなどの工夫をしながら、安全の確保を第一に維持管理を実施してきております」

強剪定とは、木の枝葉を短く切り詰める剪定方法だ。千葉大学名誉教授の藤井英二郎氏によると「樹勢を大きく損ね、腐朽菌が侵入し易くなり、倒伏や幹・枝折れの危険性が増す。また、木陰が減り緑陰効果も損なわれる。さらに、手荒な剪定は人々の心を荒み、景観を大きく損ねる」という。つまり大阪市は「安全の確保」どころか、経費を抑えるための強剪定によって、倒木や枝折れの危険性を自らの手で高めているのだ。この悪手に頼らざるを得ないところに、大阪市の苦しい状況が見える。
また大阪市は、1万9000本の樹木を伐採する安全対策事業についても次のように述べている。「緊急安全対策事業予算を活用し、市民の安全に支障を及ぼすおそれのある大木化した樹木などを撤去し、若木や成長が緩やかな樹木に植え替えることにも取り組んでおり、安全の確保とともに管理しやすい樹木とすることで、経費の削減にも努めております」(公園緑化部緑化課長)
ここでは明確にコストカットの狙いが示されている。しかし、「管理しやすい樹木とすることで、経費を削減する」とはどういうことなのだろうか?谷口氏は安全対策事業によって1万9000本の高木が伐採されたのに対して、その後に植えられたのが小さな木であることを指摘する。

例えば、2023年度には2617本の高木が伐られたのに対して、新たに植えられた高木は396本(高木→高木の更新率15.1%)にとどまっていた。そして、新たに植えられた高木416本の樹種を見るとサルスベリと桜が全体の65.1%を占め、伐採される高木と比べ小さな木が植えられていた。
小さく細い木に植え替えると維持管理費は削減できる。樹木1本あたりの剪定費は、幹周が240cm以上300cm未満の樹木は120cm以上180cm未満の樹木の倍になるという。つまり大きな太い木を伐って、小さな細い木にすることで維持管理費を大幅に削減できるのだ。
このように伐採や植え替えによってコスト削減を図ったと考えられる大阪市だが、市全体の財政状況は安定している。税収が多い年度に積み立てる財政調整基金は2869億円(2024年度決算)まで積み上がっている。予算規模が近い横浜市の財政調整基金が463億円、名古屋市が161億円であることから、財政状況にかなりゆとりがあると言えるだろう。こうした財政状況をふまえた上で谷口氏は「無理に経費削減を行うのではなく、既存の樹木を損なわず維持管理できるように予算をつけるべきだ」と主張する。この連載の第1回で紹介した台湾のように、街路樹や公園樹などの樹木を、電力や水道と同等の重要なインフラと捉え直し、予算を拡充するなどの措置が求められるのではないだろうか。
プロフィール

(おおさわ さとる)
テレビ東京で「WBS(ワールド・ビジネス・サテライト)」など報道番組の記者・ディレクターを担当。現在はジャーナリストとして活動。明治神宮外苑の再開発に近隣住民として反対し、新宿区に対する樹木伐採許可取り下げ訴訟の原告団長を務める。X(旧Twitter)フォロワー3.9万人「ミド建築・都市観測所」(https://x.com/Mid_observatory)を運営。早稲田大学第二文学部卒、京都大学公共政策大学院卒。1983年生まれ。
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