半世紀前の植樹の努力を無にした「木を切る改革」
大阪市で緑が大きく失われたのは、この安全対策事業だけではなかった。大阪城公園では2015年から2017年度に行われた商業施設などの建設によって約1200本の樹木(高木)が伐採された。これは先の安全対策事業による1万9000本とはまた別の伐採である。
大阪市は、民間企業に公園を管理運営させる「パークマネジメント事業」(Park Management Organization:PMO)という仕組みを使って、電通 大阪支社・讀賣テレビ放送・大和ハウス工業 大阪本店・大和リース・NTTファシリティーズから構成される企業に2015年から大阪城公園の管理運営を委ね、大規模な再開発を行った。そこでカフェやレストラン、コンビニといった商業施設を造るために、大量の樹木が伐採されたのだ。
このことについて大阪市民は管理者から事前に情報を全く知らされていなかった。前出の谷口教授は、自転車で公園内を行き来する時に偶然、工事フェンスの中で伐採された木の枝や幹が山積みとなっている光景を目にしたという。谷口氏は大阪城公園の樹木伐採について記した論文で「大阪城公園の利用者にとっては、『突然囲いがされ樹木が伐採され建設工事が始まる』ということの繰り返しであった」と書いている。
この再開発について、市民から大阪市に次のような苦言が寄せられたという。
「大阪城公園の木々がどんどん伐採されレストラン街やコンビニに変えられている。もうこれ以上木々を伐採し緑を無くさないでほしい。公園で会った人々も怒っておられる。公園管理当局は公園の最大の財産である自然を壊してしまう事よりも収益の方に目が行っているのか。長い目で見ればとんでもない事をしているのではないか」

「最近の大阪城は市民の公園では無くなって、商売ありきの公園になっているように思う。以前は、大阪城公園には貴重な緑が多く有って、鳥の声が森の中に響いていて、そこらかしこでバードウォッチングを楽しめたが、現在は公園内の木々を片っ端から切り倒し引き抜いて、その後には公園内に不似合いな変な店舗だけをどんどん作っているのに疑問を感じる」
大阪市民が商業化していく大阪城公園に違和感を覚えていることが、コメントから読み取れるだろう。
大阪市がこの大阪城公園パークマネジメント事業について説明した資料のタイトルページには「大阪市における公共資産の民間開放」とその狙いが書かれている。あまりにも直接的な言い方に驚くが、要は「公園という公共資産を民間企業に売り渡す」ということだ。ここでも神宮外苑再開発と共通する構図が見て取れるだろう。公園という公共財が民間の私企業の手に渡り、商品化される中で、利潤を生まない緑は排除され消えていくのだ。
この大阪城公園に商業施設を建設することによる樹木伐採については、伐採本数などの規模は示されていなかったものの、大阪市会(※大阪市の議会。大阪、横浜、名古屋、京都、神戸の5大市は議会を「市会」という)の了承は得ていた。
しかし2019年に大阪城公園内に開業した「クールジャパンパーク大阪」の建設は、事前に議会への説明もなかった。
「クールジャパンパーク大阪」は吉本興業や在阪民放テレビ局など民間企業13社と、官民ファンドのクールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)によって立ち上げられた、大中小3つの劇場からなるエンタテインメント施設である。大阪市は「大阪城公園の世界的観光拠点化を一層進めていく上で、さらなる集客力の向上と賑わい創出を図るために必要」という理由をもって独断で建設を認めた。この「クールジャパンパーク大阪」の建設によって、338本の中高木が伐採された。これは大阪城公園で商業施設建設のために伐採された本数としては最も多い数である。

なお、「クールジャパンパーク大阪」の経営は苦戦している。コロナ禍によるイベント規制などの打撃もあり、2023年3月期決算では約15.7億円の累積赤字を計上。2024年にはクールジャパン機構が保有株式を全て売却。2026年にはクールジャパン機構の累積損失が540億円に達し、廃止や統合が検討されている。
こうした大阪城公園のリニューアルによる新たな商業施設や劇場のオープンは、盛んにテレビなどのメディアで報道された。一方、その裏で行われていた樹木伐採については全く報道されなかった。初めて伐採について報道されたのは、再開発が始まった2015年から4年たった2019年のことだった(2019年7月3日朝日新聞夕刊)。報道はそれに加え、2023年に大阪市の1万9000本の樹木伐採が問題となった時に3回出ただけだった。
谷口氏は偏った情報ばかりが伝えられる状況に危機感を覚えているという。2025年に大阪・梅田駅前にできた、敷地の半分を公園とした再開発施設「グラングリーン大阪」を引き合いに出して、次のように語る。「大阪駅の北側に『グラングリーン大阪』という施設ができて、都心に大きな緑ができましたと宣伝しています。今一生懸命木を植えていて、600本の高木を植える予定と書いてあるんですね。それで、ものすごい森ができますって宣伝して、『さすがや』とか皆さん言っていますが、でも大阪城公園ではその倍の数の木を伐っています。1200本の伐採の方は数回新聞などに出ただけで、それを読んでなかったら誰も知らないわけです。1200本伐った方は多くの人が知らないのに、グラングリーンに600本植える方はめちゃくちゃ宣伝するので、すごく大阪に緑が増えているイメージがするわけですよ。でも、実際は減っているんです」
大阪市は緑化を測る指標の1つとして、樹木・樹林などの枝葉で覆われた面積の割合を示す「樹木・樹林率」を採用している。これには低木や灌木の面積も含まれるため、木陰をつくる樹冠の面積の割合を示す「樹冠被覆率」とは少し異なるものだ。今回私が情報開示請求すると、大阪市の2000年以降の「樹木・樹林率」は2006年には6.9%だったが、2024年には5.5%に低下していることがわかった(※06年以前は航空写真、以降は衛星写真を使ってデータ算出)。大阪市ではこの20年で2割ほど樹木・樹林率が低下しているのだ。さらに、先にも述べたように大阪市は高木を伐って低木に植え替えることを進めていることから、「樹冠被覆率」はよりいっそう低下していると考えられる。仮に「樹冠被覆率」が5.5%であったとしても、東京の7.3%(22年)よりも1.8%低く、ニューヨーク、パリ、上海など世界の都市と比べると圧倒的に低い。

冒頭にも述べたように、大阪市は1964年(昭和39年)に「緑化百年宣言」を行った。この宣言の中では「大阪をうるおいのある健康な町にするため、ここに強力な緑化運動を開始する。この運動は全市民の変わることのない願いとして、今後100年間これを継続する」と誓われている。
この緑化運動がはじまった1964年の樹木・樹林率が2.3%だった。それから大阪市は大規模な植樹をはじめ、樹木の量的な拡大を続けた。1964年に大阪市で行われた市民による緑化運動の誓約「緑の誓い」では、「私たちは、1本でも多く、木を植え、家の木も、町の木も、みんなたいせつに育てます」と謳われている。このように行政と市民が一丸となって、緑を増やしていった。大阪城公園で伐採された木々も、この時期に植えられた樹齢50年ほどの木々だ。先人たちが半世紀前に行った植樹の努力を、大阪市は近年の大規模な樹木伐採で、無にしてしまっている。
もちろん50年たてば健全度に問題のある木も出てくるし、交通の支障となる木もあるだろう。1万9000本全てを残せたはずだというつもりはないが、維持管理の予算がつけば残せた樹木も多かったはずだ。
今後この連載で見ていくように、世界の多くの有力都市では植樹を進め、「都市の森」を広げ、樹冠被覆率を高めようという政策が取られている。赤字を出すエンタテインメント施設の建設や、大阪市の予算規模からすれば大きくない10億円程度の維持管理費を惜しむために、樹冠の緑を失っている現状はもったいない。
こうした一連の樹木伐採は、維新の会が市政を握る中で行われたことから、維新の会のスローガン「身を切る改革」をもじって「木を切る改革」と揶揄
されている。副首都を目指そうという都市の緑の在り方がこれで良いのか?真剣な議論が求められる。
参考文献
『大阪市における公園樹・街路樹管理の課題と提案―公園樹・街路樹の安全対策事業を中心に』(谷口るり子、2024年)
『大規模な都市公園の商業化問題について : 大阪城公園を例に』(谷口るり子、2019年)
プロフィール

(おおさわ さとる)
テレビ東京で「WBS(ワールド・ビジネス・サテライト)」など報道番組の記者・ディレクターを担当。現在はジャーナリストとして活動。明治神宮外苑の再開発に近隣住民として反対し、新宿区に対する樹木伐採許可取り下げ訴訟の原告団長を務める。X(旧Twitter)フォロワー3.9万人「ミド建築・都市観測所」(https://x.com/Mid_observatory)を運営。早稲田大学第二文学部卒、京都大学公共政策大学院卒。1983年生まれ。
大澤暁





服部孝洋×唐鎌大輔

原田曜平×田中渓

朱喜哲×能條桃子×丸山央里絵
伊藤潤一郎