世界の都市はなぜ木を植えるのか~「都市の森」減らす日本 増やす世界~ 第8回

中国の都市が日本より“緑豊か”になった理由

大澤暁

中国の都市というと、「工場から立ち上る煙で空気が濁り、PM2.5濃度が健康を害するほど高い」というイメージを持っている人も多いのではないだろうか? かく言う筆者もそうだった。しかし近年、中国の都市部の大気汚染は改善されており、EV(電気自動車)が多く走る道には、驚くほど豊かに街路樹の緑が茂っている。その背景には、怒涛の勢いで植樹を進める中国政府の姿があった。

2030年までの10年間で700億本の植樹を目指す中国

 2024年に私は中国東部の上海や蘇州を訪れた。別にこれといって目的があるわけでもなく、妹夫婦が仕事の転勤で上海に引っ越したので、遊びに行ってみようという軽い気持ちでの訪問だった。

 中国もコロナ前に訪れたきりだったので、数年ぶりだった。話で聞いていた通り、田舎のどんなに古ぼけた露店でもスマートフォンを使った電子決済が利用できた。財布のいらないすべてがオンラインに接続された社会が、日本よりも早く到来していた。

 そして街を歩くと、緑の葉を豊かに茂らせた街路樹が、ほとんど途切れなく続いていた。日本のように枝葉を短く切り詰めた木は1本もなく、どの木も伸び伸びと生長している。夏の厳しい暑さの時も、街路樹の木陰の下はかなり涼しいという。

木が次々と植えられ、緑化が進む上海の中心市街地

 驚いたのは、上海市内に2100km以上(2026年2月時点、国家林業・草原局)も整備された「上海グリーンウェイ」などの緑道だ。例えば、中心部を流れる黄浦江沿いには20kmにわたる緑道が整備されており、上海のランドマークである東方明珠電視塔などの超高層建築群や、19世紀後半から20世紀前半にかけて築かれた西洋建築が立ち並ぶ、かつての租界地区である外灘エリア(ザ・バンド)などの観光名所を眺めながら、サイクリングやランニングを楽しむことができる。

「こんなに中国って緑豊かだったっけ」と目を疑った。私の頭の中にある中国の都市のイメージは、工場の煙がたちこめ、空気が濁った灰色の街というものだったが、そんな姿はどこにもなかった。それどころか、中国の都市は日本よりもずっと緑化が進んでいるようだった。データで確認してみると、上海市の森林被覆率(樹冠被覆率に近い、特定のエリアを覆う森林の比率)は約19%に上昇しており、東京23区の樹冠被覆率7.3%(2022年)を大きく上回っていた。日本よりも中国の都市の方が緑豊かだという現実に衝撃を覚えた。

上海市内を2100㎞以上にわたって伸びる緑道

 中国の街路樹の様子を撮った動画をSNSで投稿してみると、予想外に多くの反響があった。300万回以上閲覧され、1万以上の「いいね」がついた。知り合いのテレビ局の記者も「中国ってあんなに緑多いんですね」と驚いた様子だった。SNSで寄せられたコメントを見ると、「この20年中国は物凄い勢いで植樹しています」と書いてあった。やはりアメリカと同じように、中国も意図的に木を植えて増やしているのだ――私はその背景に何があるのか、調べることにした。

 2022年5月、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)で、中国の気候変動担当特使である謝振華氏は、2030年までに中国国内で700億本の植樹を行うと宣言した。

「中国の森林面積と森林蓄積量は過去30年間増加しており、世界の新たな緑地の25%以上を中国が占めています。中国は世界経済フォーラムの1t.orgイニシアチブに積極的に貢献しており、地球を緑化し、気候変動と闘い、森林の炭素吸収源を増やすために、今後10年間で700億本の植樹と保全を目指すことをここで発表します」とダボス会議のスピーチで謝氏は述べた。

「1t.orgイニシアチブ」とは2020年の世界経済フォーラムの年次総会で、クラウドコンピューティングの世界的企業セールスフォースの共同創設者兼CEOマーク・ベニオフ氏と妻のリン氏の基金が資金提供して立ち上げられた、「1兆本の樹木(1 trillion trees)」の育成や再生、保全を支援する取り組みである。

 気候変動を「世界史上最大の詐欺」と否定するアメリカのトランプ大統領でさえも、「樹木や森林の再生、育成、そしてより良い管理において、強力なリーダーシップを発揮したい」と述べ、2020年に1t.orgイニシアチブへ参加している。そこへ2022年に中国も加わることになったのだ。

アメリカと中国は世界経済フォーラムの1t.orgイニシアチブでは共に植樹を進める(写真:アメリカ国立公文書記録管理局)

 中国は2021年から始まった「第14次5カ年計画」では森林被覆率を24.1%に、森林蓄積量を190億㎥に引き上げることを目標としており、2025年12月には森林被覆率は25%を超え、これを達成したと発表している(2025年12月12日、新華網)。また中国は、2022年までの過去10年で、日本の国土(37万8000㎢)の倍近い70万㎢もの森林を再生させたという。

 セールスフォースCEOのマーク・ベニオフ氏はトランプ大統領が1t.orgイニシアチブに参加を表明した際に「樹木は超党派的な問題だ。誰もが樹木を支持している」と語ったが、政治的なイデオロギーも超えて、米中両国は共に木を植えて森を増やしているのだ。

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 第7回

プロフィール

大澤暁

(おおさわ さとる)

テレビ東京で「WBS(ワールド・ビジネス・サテライト)」など報道番組の記者・ディレクターを担当。現在はジャーナリストとして活動。明治神宮外苑の再開発に近隣住民として反対し、新宿区に対する樹木伐採許可取り下げ訴訟の原告団長を務める。X(旧Twitter)フォロワー3.9万人「ミド建築・都市観測所」(https://x.com/Mid_observatory)を運営。早稲田大学第二文学部卒、京都大学公共政策大学院卒。1983年生まれ。

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