昨年2018年12月に刊行された『安倍政治 100のファクトチェック』は、朝日新聞でいち早く「ファクトチェック」に取り組んできた南彰と、官房長官会見等で政権を厳しく追及する東京新聞の望月衣塑子がタッグを組み、日本の政治を対象に、何がフェイクなのかを明らかにした本格的ファクトチェック本。
刊行前後から今にいたるまでも政権与党の周囲では検証されるべき発言が相次いでいるため、ここに連載として最新のファクトチェックをお届けします。本書と合わせて日本政治の今を考える一助としていただければ幸いです。
【ファクトチェック】首相、閣僚、与野党議員、官僚らが国会などで行った発言について、各種資料から事実関係を確認し、正しいかどうかを評価するもの。トランプ政権下の米国メディアで盛んになった、ジャーナリズムの新しい手法。
Check 6 菅義偉官房長官(2019年4月12日午前の記者会見)
記者 WTOの上級委員会が福島原発の事故後、韓国による日本産水産物の輸入禁止措置の是正を求めたWTO紛争処理委員会の過去判断を破棄すると発表しました。受けとめをお願いいたします。
菅義偉官房長官 今般、WTO上級委員会が公表した報告書において、韓国側の輸入規制措置がWTO協定に違反するとした第一審の判断について、その分析が不十分であるとして取り消されたことは事実であり、わが国の主張が認められなかったことはまことに遺憾であります。
他方、同報告書においては、日本産食品は科学的に安全であり、韓国の安全基準を十分クリアするものであるとの一審の事実認定は維持されております。また、韓国が措置を強化した際に求められる周知義務などを果たさなかったことについて、WTO協定違反を認めた一審の判断も支持されています。
したがって、本件事案についてわが国が敗訴したとのご指摘は当たらない。いずれにしろ、わが国としては、韓国に対して規制措置全体の撤廃を求めていくという立場に変わりはなく、韓国との2国間協議を通じ、措置の撤廃、緩和を求めていきたい、こういうふうに思います。
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菅義偉官房長官 「安全基準クリア」の認定を取り消し
韓国による東京電力福島第一原発事故の被災地などからの水産物の全面禁輸をめぐり、世界貿易機関(WTO)の紛争を処理する上級委員会(第二審)が2019年4月11日、「不当な差別」として韓国に是正を勧告した小委員会(第一審)の判断を破棄。禁輸を容認する報告書を出した。
韓国のWTO協定違反の判断が維持されると考えていた日本政府の目算は狂った。直前に「わが国としては韓国の輸入規制措置が日本産水産物を恣意的、不当に差別していることと、必要以上に貿易制限的なものであることなどを主張しており、これを十分踏まえた判断がなされると期待している」(同月8日午後の記者会見)と輸入再開の判断に期待感を示していた菅氏は、「敗訴したとのご指摘は当たらない」と「逆転敗訴」との見方を打ち消そうとした。
しかし、第一審の報告書には「日本産食品は科学的に安全」と断定する記載はない。また、日本産食品が「韓国の安全基準を十分クリアする」と認定した第一審の判断についても、上級委員会は、韓国が「適切な保護の水準」と設定した3つの要素のすべてを判断したものではないとして、取り消していた。経済産業省所管の独立行政法人「経済産業研究所」のリポートでも、ファカルティフェローの川瀬剛志氏(上智大教授)が韓国の基準に「日本の水産物が適合しているかどうかは、正しくは、『判断されていない』というべきであろうし、上級委員会もまたその点については何も判断していない」と指摘した。
「敗訴」の現実に向き合わない政府の姿勢には、自民党の会合でも「完全に外交の敗北だ」「敗訴以外の何物でもない」などと批判が出た。(南)
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昨年2018年12月に刊行された『安倍政治 100のファクトチェック』は、朝日新聞でいち早く「ファクトチェック」に取り組んできた南彰と、官房長官会見等で政権を厳しく追及する東京新聞の望月衣塑子がタッグを組み、日本の政治を対象に、何が「嘘」で、何がフェイクなのかを明らかにした本格的ファクトチェック本。 刊行前後から今にいたるまでも政権与党の周囲では検証されるべき発言が相次いでいるため、ここに連載として最新のファクトチェックをお届け。本書と合わせて日本政治の今を考える一助としていただければ幸いです。
プロフィール
南 彰(みなみ・あきら)
1979年生まれ。2008年から朝日新聞東京政治部、大阪社会部で政治取材を担当。政治家らの発言のファクトチェックに取り組む。2018年秋より新聞労連に出向し、中央執行委員長をつとめる。 著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったか』(朝日新書)
望月衣塑子(もちづき・いそこ)
1975年生まれ。東京新聞社会部記者。2017年、平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞受賞。著書に『新聞記者』(角川新書)等。共著にマーティン・ファクラー氏との『権力と新聞の大問題』(集英社新書)、前川喜平氏、マーティン・ファクラー氏との『同調圧力』(角川新書)等がある。『新聞記者』を原案とした映画「新聞記者」も全国劇場で大ヒット公開中。https://shimbunkisha.jp/