対談

1億人が集まるインドの奇祭「クンブメーラ」奮戦記

名越啓介×辛酸なめ子対談
名越啓介×辛酸なめ子

 インドにある4都市(アラハバード、ハリドワール、ウジャイン、ナシク)を3年周期に巡回する、ヒンドゥー教の大祭・クンブメーラをご存知だろうか? 一説には5000年以上前から開催されていたとされ、最も古い記述は『西遊記』のモデルになった『大唐西域記』(646年)に遡る。

 2019年は、聖地・サンガムを有するインド北部の都市、アラハバードで開催された。現地では期間中(1月15日から3月4日までの45日間)に、1億人を超える巡礼者が押し寄せたと報道。その巨大すぎる規模の割に、日本ではあまり知られていないクンブメーラは、2017年にユネスコの世界無形文化遺産にも登録されている。

 インド全土から集まった巡礼者たちは、「一度で千回以上の価値がある」とされる沐浴を行うため、サンガムの各所に設置された沐浴場を目指して大移動をする。クンブメーラエリアには万を超えるテントが設営され、食堂や露店がひしめき合う。さながらひとつの街が誕生するかのようだ。

クンブメーラの主役と言えるのがサドゥと呼ばれる修行者たち。ヒマラヤ山麓で苦行に励む者もいれば、ヨガの求道者や放浪の修行者など、そのビジュアルは多種多様で、全裸に白い灰を塗ったり、ドレッドヘアだったり、色鮮やかな装飾品を身につけたり、千差万別のサドゥがクンブメーラに集結する。

 この未知なるクンブメーラを中心に、インドの深淵に迫った作品集『バガボンド インド・クンブメーラ 聖者の疾走』を出版した写真家・名越啓介氏と、プライベートで2度にわたってクンブメーラを訪れているコラムニスト・辛酸なめ子氏に、インド、クンブメーラ、サドゥについて語り合ってもらった。

  

名越啓介写真展『LOOK at THE SUN』で用意された等身大サドゥに顔をハメる辛酸氏と名越氏。

──おふたりはなぜ、クンブメーラに行くことになったんですか?

辛酸なめ子(以下、辛酸):もともとはヨグマタさんという、日本人でインド政府公認のシッダーマスター(ヒマラヤ大聖者)のところでヨガや瞑想を教えていただいているのですが、そこですごい祭があるというのを聞いて、なんだか分からないけど、行かなければいけない気持ちになったんです。聖者の本が好きで、インドの聖者を生で見てみたいという気持ちも大きかったですし。

仕事があるから無理かなとも思ったんですが、ちょうどiPad Proを買ったら海外でも仕事を進められるかもしれないと、希望が見えました。それで2016年のウジャイン、そして今年はヨグマタさんとインド人の聖者・パイロットババさんのテントに泊まるツアーに参加しました。

名越啓介(以下、名越):僕は近田君(週刊プレイボーイの編集者)に誘われて2010年に行ったときは、サドゥを見に行くためというよりは、「何者か分からないものに対して、何も考えずに、とにかく撮る」という目的がありました。ハリドワールという北部の街で比較的穏やかな気候なはずが、乾季のど真ん中で気温が50度に迫っていて。大げさじゃなくて、視界が揺れていました。3日間で100人撮るのを目標に、100本ノックみたいな感じでとにかくサドゥを撮りました。

 次第に、この得体の知れないサドゥがメインのお祭りってどんなもんなんだろう?という疑問が湧いてきて。ただ、2010年のときは下調べ不足で、着いたときには入浴日(*1)が終わってしまっていたんですよ。

 

(*1)入浴日……クンブメーラ期間中でも、沐浴に際して特に効果があるとされる日。2019年は6回設定された。同日はサドゥによる圧巻のパレードも実施。

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プロフィール

名越啓介×辛酸なめ子

名越啓介:1977年、奈良県生まれ。大阪芸術大学卒業。19歳で単身渡米し、スクワッター(不法占拠者)と共同生活をしながら撮影活動を続け、その後、アジア各国をめぐり『EXCUSE ME』で写真家デビュー。主な作品に『SMOKEY MOUNTAIN』(赤々舎)、『CHICANO』(東京キララ社)、『Familia保見団地』(世界文化社、藤野眞功氏との共著)、『笑う避難所 石巻・明友館136人の記録』(集英社新書、頓所直人氏との共著)など。

 

辛酸なめ子:1974年、東京都生まれ。女子学院中・高を経て、武蔵野美術大学短期大学部に入学。1994年、渋谷パルコのフリーペーパー『GOMES』漫画グランプリでGOMES賞を受賞し、これをきっかけに雑誌などに連載を始める。主な著書に『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか』(PHP研究所)、『魂活道場』(学研プラス)、『おしゃ修行』(双葉社)、『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)、『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社)など。 

 

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