対談

1億人が集まるインドの奇祭「クンブメーラ」奮戦記

名越啓介×辛酸なめ子対談
名越啓介×辛酸なめ子

──サドゥに対して憧れみたいなものがあったり?

辛酸:そうですね。例えばトラに変身したとか、宇宙に行ったとか、聖者の本を読むといろんなことが現実世界を超越しているというか。もし自分がサドゥになれれば、そういうものが当たり前になるのかなという憧れはあります。非現実的なことが次々と起こりそう。でも、それを求めるのは煩悩なんでしょうね。

名越:僕にとっては、撮れば撮るほど分からなくなる存在ですね。実際に撮影したのは300人くらいですが、それだけ撮っても結局、何者なのかよく分かりませんでした。

 いろんなサドゥがいますけど、修行としてインド中をひとりで回っている人もいるでしょうしね。そういう放浪の生活を送る人に対する憧れが強くあります。だから、本のタイトルをバガボンド(英語で放浪者の意)にしたという経緯があります。

 

 

全身に聖なる白い粉を塗りこんだナーガサドゥ。

サドゥの多くはネックレスなどで個性を演出する。

 

辛酸:サドゥや聖者の方々がまず最初に沐浴するので、見物人は基本的に彼らが通ったあとにやっと後方から行けるんです。でも、名越さんはサドゥの行進の列に入っての撮影もされたんですよね?

名越:はい。僕らは午前2時くらいにスタンバイして、とにかく待機して全裸のサドゥの行進に突入するタイミングを伺いました。警備も結構厳しかったですね。殺気立ったサドゥにど突かれたりも……。

辛酸:えー!? 結構気性が荒いんですよね、ナーガサドゥは(※2)。あとはチャリアットという車に乗って延々とサドゥや聖者の方々が来て、パレードは聖者の大渋滞状態。音楽を流している車もいっぱいありましたよね。

 

(※2)ナーガサドゥ……シヴァ派に属するナーガ(蛇)を信奉するサドゥ。全てを放棄することを信条として、故に全裸で髪の毛や髭は伸ばし放題という者が多い。

 

名越:そうですね、スピーカーとかがいっぱい付いていて。あれも面白かった。

辛酸:でも、ああいうのって御神輿とか、日本の祭りの原型だったりするんですかね。

名越:僕はリオのカーニバルに近い感じだなと思いましたね。

辛酸:一説によると5000年前からやっているとか。

 

 

沐浴場を目指して圧巻の行進をみせるサドゥの集団。

行進に突入すると、これまでに嗅いだことのない異界の匂いが鼻をついた。

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プロフィール

名越啓介×辛酸なめ子

名越啓介:1977年、奈良県生まれ。大阪芸術大学卒業。19歳で単身渡米し、スクワッター(不法占拠者)と共同生活をしながら撮影活動を続け、その後、アジア各国をめぐり『EXCUSE ME』で写真家デビュー。主な作品に『SMOKEY MOUNTAIN』(赤々舎)、『CHICANO』(東京キララ社)、『Familia保見団地』(世界文化社、藤野眞功氏との共著)、『笑う避難所 石巻・明友館136人の記録』(集英社新書、頓所直人氏との共著)など。

 

辛酸なめ子:1974年、東京都生まれ。女子学院中・高を経て、武蔵野美術大学短期大学部に入学。1994年、渋谷パルコのフリーペーパー『GOMES』漫画グランプリでGOMES賞を受賞し、これをきっかけに雑誌などに連載を始める。主な著書に『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか』(PHP研究所)、『魂活道場』(学研プラス)、『おしゃ修行』(双葉社)、『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)、『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社)など。 

 

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