「疎外感」の精神病理 第1回

現代日本人の心理を読み解く重要なキーワード「疎外感」

和田秀樹

コロナに続くウクライナ情勢を疎外感から読み解く

 

この文脈で考えると、コロナ禍が始まって以来の日本人の異様な同調圧力のようなものも理解しやすいかもしれません。

コロナ禍が始まってから、街に出る日本人のほとんど全員がマスクをするようになるのにはそう時間がかかりませんでした。

欧米ではマスク派と反マスク派が一触即発のような対立が生じましたし、反自粛の抗議活動も目立ちました。

日本はそれよりはるかに死者も感染者も少なかったのに、このような対立はあまり見られませんでした。

そして、ワクチン接種が進み、またオミクロン株になってからの弱毒化もあいまって、欧米は自粛を解き、マスクを外す人がむしろ多数派になっていくわけですが、日本ではみんながマスクをしている限り、それを外そうとする人はきわめて少数派のままです。

いつまでマスク暮らしが続くのだろうという違和感を覚えている人は、多数派とは言えなくても少なくないと私には思えるのですが、それを言い出しにくい雰囲気が続いています。

日本人が同調圧力に弱いという形で論じられることが多いのですが、私は前述のような文脈から、疎外感の恐怖=「みんなと同じ」からはずれる恐怖が、その心理的背景のように思えてならないのです。

これまでもさまざまな形のメガヒットが生まれてきたのですが、ここまでの全員が同じファッション、全員が同じ行動規制をするというのは、戦時中以来のことでしょう。

当時は、もちろん憲兵も特高警察も怖かったのでしょうが、それ以上に人の目が怖かったし、仲間外れが怖かったのでしょう。

戦争が終わって人々は自由な空気を吸いました。それは気分が楽になったことでしょう。

人の目がこわくなくなり、自由でいいという保証はアメリカから与えられました。

でも、その後も会社や村社会の共同体で人目はそれなりに気にしていたと思います。

ただ、東京に出ていくなどの形で逃げることもできたので、そこまでの仲間外れ恐怖はなかったように思います。

それが今、逃げ場のない形で仲間外れ恐怖が蔓延し、ものすごい同調となっています。

その後続いた、ロシアによるウクライナ進攻もやはり国をあげて反ロシア、反プーチンとなったわけですが、アメリカでさえ、NATOの東方拡大やそれを否定しなかったバイデンにも非があるというようなことが言われているのに、日本では、そのような発言はまず聞こえません。

もちろんプーチンのやったことは許されることではありませんが、異論が許されないことに居心地の悪さを感じる人もいることでしょう。

そこには仲間外れ恐怖、疎外感恐怖のまん延を感じてしまうのです。

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「疎外感」の精神病理

コロナ孤独、つながり願望、スクールカースト、引きこもり、8050問題……「疎外感」が原因で生じる、さまざまな日本の病理を論じる!

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プロフィール

和田秀樹

1960年大阪府生まれ。和田秀樹こころと体のクリニック院長。1985年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現職。主な著書に『受験学力』『70歳が老化の分かれ道』『80歳の壁』『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』『70歳からの老けない生き方』『40歳から一気に老化する人、しない人』など多数。

 

 

 
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