現代日本人の心理を読み解くキーワードとしての疎外感
こうしてみると、疎外感の精神病理というのは、引きこもりや独居高齢者、あるいはアルコールなどの依存症のように、社会からはずれ、孤独に陥ってしまう疎外感の問題だけでなく、疎外感を避けるために、知らず知らずのうちに人に合わせたり、言いたいことが言えない不自然な生き方も含むものだと私は考えています。
確かに目に見える疎外感、孤独というのは日本において重大問題であることは確かです。2021年には孤独・孤立担当大臣が任命されました。
社会的引きこもりということばが、精神医学の世界だけでなく、一般の世界でも知られるようになり、その数は100万人以上とされ、最近ではそういう人たちが中高年になっても同じような状況という社会的問題になっています。
軽い人も含めて診断基準に当てはまるレベルの、アルコール依存200万人、ギャンブル依存500万人、ゲーム・ネット依存500万人と言われ、依存症は社会を脅かす深刻な病気となっています。これも前述のように人に依存できない孤独の病と言えるものです。
そして年々増える独居高齢者の問題も高齢化の中で大きな問題と言えるでしょう。
ただ、物理的に一人でいることと、心理的に疎外感を覚えることは、少なくとも精神医学の立場からは別の問題です。
そして、この心理的な疎外感が、自分の言いたいことを押し殺し、周囲との同調が生活の基本パターンになっていたり、自分の言いたいことより周囲にどう思われるかの方を優先して考えるSNSの住民のベースになっているとすれば、疎外感は、孤独でない人、それなりに適応している人のかなりの部分の重要な問題であることは否めないような気がします。
そういう意味で、「疎外感」は現代日本人の心理を読み解く重要なキーワードだと私は考えるのです。そして、疎外感はこれまで述べてきたように様々な形をとるものです。
これから約1年間にわたって、この疎外感を心理学的、精神医学的に考察し、多少なりとどう対応していけば、心の健康につながるのかを提案したいと思います。
もちろん、私のいうことを押し付けるつもりはありません。
ただ、これから生きていく上、自分の心理やほかの人の心理を考えるヒントにしていただければ著者として幸甚この上ありません。
コロナ孤独、つながり願望、スクールカースト、引きこもり、8050問題……「疎外感」が原因で生じる、さまざまな日本の病理を論じる!
プロフィール
1960年大阪府生まれ。和田秀樹こころと体のクリニック院長。1985年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現職。主な著書に『受験学力』『70歳が老化の分かれ道』『80歳の壁』『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』『70歳からの老けない生き方』『40歳から一気に老化する人、しない人』など多数。