「疎外感」の精神病理 第1回

現代日本人の心理を読み解く重要なキーワード「疎外感」

和田秀樹

同調する友達が多いが、親友がいない

 

SNSの時代になって、この疎外感恐怖はさらに強まった気がします。

たとえばLINEの場合、自分が送ったメッセージがちゃんと読まれているかがわかるわけですが、読んでもらえているかが不安になり、また読んでもらっているのに返事がないとさらに不安になります。

FacebookにしてもInstagramにしても、「いいね」がもらえないと不安になるし、なるべく「いいね」をもらえるように無難なものや「盛った」ものを発信します。

確かに、この手のSNSの発達のおかげで昔よりはるかに多くの数の「友達」をもつことができるし、はるかに多くの人とつながることができます。

しかし、いっぽうで、本音をさらけ出したり、言いたいことを言える「親友」が持てる人は少ないようです。

言いたいことを言って嫌われるのが不安なのか、ネットで自分の名前を出して自分の考えや経験を表明する場合は、いいことしか言わないものです。

私もこれは表面的な付き合いを望み、深いかかわりを避ける同調型引きこもりなのだろうと考えていました。パーティで盛り上がるが二次会はやらないアメリカ型のつきあいなのだろうと。

しかし、少なくとも私が患者さんや若い人たちと話をする限り、本当は親友が欲しいという人はかなり多く、深い人付き合いは煩わしいと答える人は意外に少ないようです。

「嫌われ恐怖」「仲間はずれ恐怖」「疎外感恐怖」のほうが背景にあるように思えてならないのです。

実は、これには背景があります。

東京都の学校職員であった森口朗(敬称略)が2007年に著した『いじめの構造』(新潮新書)という本があります。

ここで現代型のいじめというのは、最終的にいじめられっ子を自殺に追い込むような暴力的なものでなく、スクールカーストという序列構造から追い落とすという形をとるという考察がなされています。

人気者でリーダーシップをとる1軍と、それに合わせてクラスの雰囲気を作っていくフォロワーの2軍があり、仲間外れの3軍がいるという構造がスクールカーストと言われるものです。このカーストは勉強ができるとか、お金持ちの子であるとか、スポーツができることで一軍になれるわけではありません。このスクールカーストの研究者である鈴木翔(敬称略)によると、これはまさに序列であり、周囲からの人気による権力構造だそうです。

森口によると現代型のいじめは2軍から3軍に落とされ、仲間外れにされるという形をとるとのことです。

それを避けるために、みんなに合わせ、1軍の人が好きだというものはアイドルであれ、ゲームであれ、歌であれ、好きにならないといけないのです。

このような環境で育つと、仲間外れ、友達が少ないことはまさに恥であり、自己否定につながるようになってしまうのでしょう。

これが疎外感恐怖の原型を作っているのではないかと私は考えています。子供時代に植え付けられたカーストから追い落とされる恐怖はおそらくは大人になっても続くのでしょう。

いじめ問題が初等中等教育においてメインテーマになっていく中で、いじめはいけない、みんな仲良くしなさいという話になったのですが、そういう価値観の中では、友達が多いほどすばらしい人間ということになります。

逆にみんなと仲良くできない人間は「落ちこぼれ」ともいえます。

彼らはKY(空気読めない)、コミュ障と蔑まれるわけですが、そうならないために自分の本音を隠して、無難な形でみんなに合わせていくのが習い性になっていくのでしょう。

しかし、本当の自分を受け入れてもらった経験に乏しいので、心のどこかで空虚感や疎外感を覚えているように思えてなりません。

彼らに本音がないわけではありません。だから、匿名が保証されたとたんに見事に攻撃的になる人は少なくありません。ただ、これも他人にのっかる形のものですし、過度に攻撃的なので、本音と言えるものかはわかりませんが。

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第2回  
「疎外感」の精神病理

コロナ孤独、つながり願望、スクールカースト、引きこもり、8050問題……「疎外感」が原因で生じる、さまざまな日本の病理を論じる!

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プロフィール

和田秀樹

1960年大阪府生まれ。和田秀樹こころと体のクリニック院長。1985年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現職。主な著書に『受験学力』『70歳が老化の分かれ道』『80歳の壁』『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』『70歳からの老けない生き方』『40歳から一気に老化する人、しない人』など多数。

 

 

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