連載:座間9人殺害事件裁判 第10回

座間9人殺害事件裁判「諦めのいい男」

共同通信社会部取材班
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日本犯罪史上まれに見る猟奇的な大量殺人「座間事件」。白石隆浩被告が死刑判決を受けるまで、計24回の公判をすべて記録した記者たちによる詳細なレポート。 

2020年11月10日の第17回公判から、審理は8人目の被害者Hさんの事件に入った。白石隆浩被告が法廷で明かした犯行手順は、これまでとまったく同じ。SNSで知り合い、相手に話を合わせ、言葉巧みに自宅に誘い込み、酒や薬を飲ませて襲いかかる――。完成されたパターンをなぞり、犯罪を繰り返した真の動機は、女性を失神させたい、その状態でレイプしたいという変態的な欲望であり、しかもエスカレートしていった。歯止めがきかない被告による10人目、11人目の被害を防ぐきっかけになったのは、最後の被害者Iさんの兄の行動だった。

 ※白石隆浩被告は2021年1月5日に死刑判決が確定し、呼称は「白石隆浩死刑囚」に変わりましたが、この連載では変わらず「被告」と表記します。

2017年11月、東京地検立川支部に入る白石隆浩被告。写真提供 共同通信社/ユニフォトプレス

 7人目の被害者が殺害されたのは2017年9月の最終週。白石被告は10月に入り、新たに12メートルの長さのロープなどを買い足している。次の犯行への準備だ。

 第18回公判で検察官に「なぜ12メートル?」と聞かれた被告は、「メッセージをやりとりしていた方で、会いそうな方が3、4人いた。その人たちの分として12メートル買ったと推察できます」と答えた。

 検察官「7人殺害しても、やめようとは思わなかったのですか」

 白石被告「昏睡している女性に性交するのに快感を覚えてしまい、やめることは考えませんでした」

 

 ツイッターでやりとりを続けていた女性たちの中から、Hさんを選んで「死のうと思い、病院を回って精神剤を用意したので、よろしければどうですか」と誘いをかけた。Hさんのツイートの内容から「すぐにでも会えそうな雰囲気を感じた」からだ。

 Hさんは25歳。コンビニでアルバイトをしていた。17年10月17日にツイッターで白石被告とつながった。一緒に自殺することで話が一致し、Hさんは翌18日、被告のアパートの最寄り駅にやって来た。

 合流した白石被告は、アパートに連れ帰って1時間程度で、Hさんには死ぬ気がないと感じたという。

「シンプルに言うと、遊びに来たような感じ。深刻な様子はなく、他人が送ってきたメッセージを見せて笑ったり、昔はモテたりしたという話をしていた」

 Hさんに関しては、これ以上の詳しい記憶はないという。「金はなさそうだから、レイプしようと早々に判断して襲いかかったと推察します」と淡々と語った。

 

 ▽顔とスタイルが好み

 11月12日の第19回公判は最後の被害者、23歳だったIさんの事件の審理だ。Iさんは17年6月に母親を亡くし、兄に支えられながら独り暮らしをしていた。白石被告とはツイッターを通じて同年10月上旬にやりとりした後、しばらく連絡せず、同月23日にIさんから再び連絡。同日中に被告に会い、殺害された。

 白石被告はIさんの事件については、ほかの被害者と違って鮮明な記憶がある。理由は、最後に殺害したからだけでなく、Iさんの外見が好みだったからだ。このため、法廷での供述も詳細になり、8人を殺害する間に完成させた「殺害までのパターン」がどんなものだったのかが明らかになった。

 まずはSNSでのやりとり。被告はIさんに徹底的に合わせながら、自宅への首吊りへと誘導していく。

 Iさん「首吊りは少し怖いです」

 白石被告「どんな方法がいいですか」

 I「睡眠薬と練炭」

 白石「練炭は8月にツイッターで出会った人がやって、未遂になりました」

 I「後遺症が残ったら怖いですよね。より確実にするために首吊りなんですか」

 白石「そうなんでしょうね。逮捕されたみたいです」

 I「逮捕もいやですね」

 白石「(自殺の場所は)山や森と部屋、どちらがよろしいですか」

 I「森や山、希望です」

 白石「公園や森がたくさんある駅が(被告のアパートから近い)町田にあります。町田で待ち合わせでよろしいですか」

 I「八王子近辺は難しいですか」

 白石「八王子で合流し、町田に行くのはどうですか。もし場所に不満あれば私の部屋でも大丈夫です」

(中略)

 I「よろしくお願いします。おいくつですか。私は23です」

 白石「25です」

(中略)

 I「(引きこもりだったので)会ったら挙動不審と思うでしょうが気にしないでくさい」

 白石「私もしばらく引きこもっていました」

 

 やりとりの意図を法廷で尋ねられた白石被告は「場所を最初から限定すると、部屋に行くのが嫌な方はやりとりが終わってしまう。会ってから部屋に向かう形で誘導しようとした」と述べた。年齢も「相手が親近感を抱きやすいから」と、近づけるようにサバをよんだ。引きこもりを装ったのも、相手に同調するためだった。自殺未遂でなぜ逮捕になるのかなどの疑問点は残るが、とにかくIさんと会う約束を取り付けた。

 被告は結局、八王子駅までIさんを迎えに行った。会う直前にIさんから「わくわくしてきました」とのメッセージが届き、被告は「死にたいわけではなく、話を聞いてほしい、支えてほしいと。異性の相手が欲しいのかな」と予感したという。

 駅でIさんに会い、「かわいらしいと思った。顔やスタイルが」。その場でIさんから「私の部屋にもロフトがあるから、来ませんか」と誘われたが、「買ったロープが自分の部屋にあるから」と説明し、被告のアパートに連れて来ることに成功した。

 部屋に入った白石被告は、内心ではIさんを値踏みしながら、話しやすい雰囲気をつくり、さらに油断させていく。雑談をしながら、2人で楽しく酒を飲んだという。

「気まずい雰囲気にはならず、Iさんは笑っていたと思う」。Iさんは自分から悩みを語り出した。白石被告は聞き役に徹して相づちをうち、「優しいイメージが残るように」同調して話を合わせ、Iさんの気持ちが前向きになるような言葉を掛けた。容姿もほめた。

「かわいくて、会話をするのが楽しかった」と振り返る。

 ただ、「レイプしたい。失神させたい」という倒錯した欲望を忘れたわけではない。被告によると、このまま会話を続けてIさんと交際する方向へ持っていこうかという考えもよぎったが、最終的には欲望が勝った。

 酒と薬が回り、Iさんがだるそうになったと判断して襲いかかった。さらに殺害後、遺体と性交までしている。この点を検察官に問われた被告は「何人も殺害してきたので、特に抵抗はなかった」と平然と言ってのけた。

 

 ▽リセット

 白石被告は、9人を殺害して遺体を解体した後も、さらに犯行を続ける気でいた。この時点で連絡を取り合っていた女性も4人ほどいた。ただ、ワンルームの部屋には9人の頭部が入ったクーラーボックスや、捨てきれなかった被害者の荷物がたまり、かなり手狭になっていたとみられる。

 弁護人は被告にこう問いかけた。

「この後、逮捕されていなかったらどんな生活をする予定だったんですか」

 白石被告には、描いていた計画があった。

「いずれかのタイミングで遺体をレンタルルームもしくは山に埋めるなどし、部屋から持ち出し、引っ越しもしくは部屋を解約し、ツイッターで知り合った女性のところに転がり込むなどして、部屋をリセットしようと思っていました」

 この言葉どおりにリセットしていたら、事件の全容解明は困難になっていたはずだ。頭部がどこかの山中で見つかったとしても、犯行現場が座間市のアパートの一室とは簡単に判明しないだろう。しかも犯人が、SNSで知り合っただけの女性宅に転がり込んでいたとしたら、行方を追うのも簡単ではなさそうだ。

 被告は遺体や被害者の所持品の片付け以外に、もう一つ問題を抱えていた。金が底を突きかけていたのだ。

 被告の口座には17年8月下旬の時点で、最初に殺害したAさんから振り込まれた51万円があった。しかし、同年10月5日の時点で、残高は約2万6千円まで減っている。「女性からカネを引っ張る」という当初の目的を忘れた結果だ。異常な欲望を優先させ、被害者の所持金をろくに確認もせずに殺害していたため、金はほとんど増えないどころか、わずか約2カ月で消費し尽くす寸前だった。

 白石被告も法廷で「自分の中で比重がお金だったのが、『お金になりそうでなくてもレイプしたい』という気持ちに変わっていったのが正直あります」と振り返った。

 弁護人「この頃には、手元にお金がなくなっている状況は明らかですか」

 白石「はい、明らかです」

 弁護人「お金はお父さんからもらうことになったんですか」

 白石「1人暮らしを始める以前から定期的に3万円お小遣いをもらっていました」

 

 10月末、白石被告は父親から「飲みに行かないか」と誘われた。被告はその誘いには応じない一方で、金を無心した。しかし、「金を受け取る前に(警察に)捕まった記憶があります」。

 

 ▽終止符

 Iさんの兄が妹の異変を知ったのは、白石被告に殺害された10月23日の翌日だった。Iさんが通っていた職業支援施設から「来ていない」と連絡を受けたのがきっかけだ。妹の部屋に行くと、電源が入ったままのパソコンのそばに「みんな、お兄さん、ごめんね。今までありがとう」というメモが置かれていた。

 遺書だと感じた兄は、目の前のパソコンからIさんのツイッターのアカウントを開く。「妹はパスワードをなんでも統一していた」ため、すぐにログインできた。

 すると、「しにたい」というアカウントの持ち主と、自殺に関する詳細なやりとりを前日まで続けていたことが判明。兄は警視庁高尾署に行方不明の届けを出しただけでなく、ツイッターで情報提供を呼び掛けた。すると、ある人からメッセージが届く。

 この情報提供者は「首吊り士」というツイッターのアカウントとやりとりをしたことがある人で、このアカウントと「しにたい」というアカウントには内容に共通点があるという。兄も両方を確認し、同一人物だと感じた。二つのアカウントの違いは「しにたい」が一緒に自殺する人を募集し、「首吊り士」は死にたい人を殺すために募集している点だ。兄はこの情報もすぐ警察に伝えた。

 情報提供者は警察の捜査にも協力し、2017年10月30日、白石被告を町田駅に誘い出すことに成功した。被告は待ち合わせの相手が来ないため、帰路につく。警視庁の捜査員が追跡し、被告のアパートを突き止め、事件に終止符が打たれた。

2017年10月30日、白石被告が誘い出された町田駅

 逮捕された白石被告は、当初から9人全員の殺害を認め、事件の状況も聞かれるまま供述した。確実に死刑になることは被告自身も分かっており、自分の命が掛かっているにしてはあっさりしすぎている。2020年11月11日の第19回公判では、裁判官らがこの点を突っ込んだ。

 裁判官「遺体が発見されてしまい、『違う』と言っても通らないと思うが、『レイプしていません』『殺害はしたけど、被害者は自殺をしたがっていて手伝っただけ』などと話そうと思ったことはありましたか」

 白石被告「逮捕された当初はものすごく迷いました。死体遺棄と死体損壊だけでいこうと思った時期もあったんですが」

 

 しかし、室内の状況や残っている証拠品から不審に思われると判断したという。「諦めて観念しました」と続けた。

 裁判官「自殺したがっていたから手伝っただけだと主張することは考えましたか」

 白石「考えたんですが、どこかで辻褄が合わない点が出ると思って諦めました」

 

 続いて裁判長も、否認や黙秘の意図がなかったのかと尋ねた。白石被告は「逮捕から3週間後に1度、弁護人の説得で黙秘しようと決めました。その後、黙秘してもだいぶ厳しいと分かって黙秘をやめて、最終的にはおとなしく話すようになった流れです」と明かした。

 被告は「諦め」という言葉を多用しながら、否認や黙秘をせず、すべて自白した理由を説明した。欲望に執着し、最初の被害者3人については執拗に隠蔽工作をほどこしたほど利己的な性格と、自分の生死に対する驚くほどの淡白さ。この「ずれ」には違和感が残った。

 16日の第20回公判では3回目の中間論告と中間弁論が行われ、検察側と弁護側の双方がこれまでと同趣旨の主張をした。この日で被害者全員の個別審理がようやく終了。判決を除くと、審理は残すところ3日となった。

(つづく)

執筆/共同通信社会部取材班

 

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第11回 

プロフィール

共同通信社会部取材班

※この連載は、2020年9~12月の座間事件公判を取材した共同通信社会部の記者らによる記録です。新聞を始め、テレビ、ラジオなどに記事を配信している共同通信は、事件に関連する地域の各地方紙の要請に応えるべく、他のメディアと比較しても多くの記者の手で詳細に報道してきました。記者は多い時で7人、通常は3人が交代で記録し、その都度記事化してニュース配信をしました。配信記事には裁判で判明した重要なエッセンスを盛り込みましたが、紙面には限りがあります。記者がとり続けた膨大で詳細な記録をここに残すことで、この事件についてより考えていただければと思い、今回の連載を思い立ちました。担当するのは社会部記者の武知司、鈴木拓野、平林未彩、デスクの斉藤友彦です。

 
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