データで読む高校野球 2022 第7回

夏の甲子園はきめ細かな戦術とチームビルディングが重要?

ゴジキ

100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けしたセンバツ編に続いて、8月は夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。

春夏連続で甲子園に行ける高校は4割未満

高校野球においては、秋季大会から春の甲子園までは結果を残していたのにも関わらず、夏の大会では結果が残せないチームが多くある。

2022年はセンバツ出場校32校のうち、夏の甲子園の出場を決めたのはわずか13校。2021年も13校、2019年は11校であることからもわかるように、春夏連続で甲子園に出る学校は4割にも満たない。

秋季大会から春の甲子園までは、チームの戦略・戦術や連携が整っていない学校が多いため、選手のポテンシャルが高い選手に頼った戦い方をしていても勝ち上がっていける。しかし、夏の大会はそうはいかない。バントなどの細かいプレーや、守備における連携、そして控えの選手も含めた全員で闘う采配など、きめ細やかな戦術とチームビルディングが重要になる。

2022年の夏の大会では、春のセンバツベスト4に輝いた浦和学院と國學院久我山は予選で姿を消した。これも夏の予選で勝ち進む難しさである。

その一方で、投手陣の枚数に懸念材料があった1人のエースに頼っていたセンバツ準優勝の近江(滋賀、エースは二刀流の山田陽翔)やベスト8の九州国際大付(福岡、エースは左腕の香西一希)は、夏に向けて投手陣の層を厚くすることに成功し、春夏連続での甲子園出場を決めた。とくに近江は準決勝まで山田を投げさせず、センバツでも登板をした左腕の星野世那をはじめ、おなじく左腕の副島良太や長身右腕の小島一哲、外野手の横井海音など4人の投手を中心に滋賀県大会を制覇。

センバツで上位に進んだ学校でも、チームの課題を理解し、改善ができなければあっさり予選で負けてしまう。これが、夏の大会の厳しさだ。

ハイレベルな戦いこそバントが勝敗を分ける

一発勝負のトーナメント形式の高校野球において、勝敗のカギになるのが「バント」である。とくに2022年においては、新型コロナウイルスの流行が収束しないなかでどの高校も練習時間や実戦の機会が限られているためか、重要な場面でのバントミスが目立った。

その象徴が京都府予選の決勝で京都国際に敗れた龍谷大平安だ。

龍谷大平安は、初回に1点を先制するも、4回表に森下の2ランホームランで逆転されてしまう。それでも4回裏に5番の高岡新時のツーベースと上甲兼誠の送りバントで、同点のチャンスを迎えた。しかし、7番森田将仁はスクイズを試みるも、ピッチャーフライを上げてしまい失敗。飛び出していた3塁ランナーも刺され、併殺打に。

このチャンスを活かしきれなかった龍谷大平安は、その後も森下を攻略できずに、掴みかけた流れを引き戻すことはできなかった。

逆に、バントによって西東京大会を制したのが日大三だ。

決勝の相手は、練習試合で大阪桐蔭を下した東海大菅生。序盤は、東海大菅生ペースで試合が進んでいき、5回終了時点で2対0。

しかし、6回にバントを起点に逆転劇が起きる。この回先頭日大三の4番浅倉大聖がツーベースを放つと、続く金沢海斗は死球で出塁。続く、村上太一が送りバントを決め、ワンナウト2、3塁とチャンスを広げたことで川崎広翔の同点タイムリーを呼び込んだ。

さらに8番の寒川忠のヒットでチャンスを広げると9番でエースの松藤孝介がスクイズを決めて得点を挙げた。この2つのバントがきっかけになり、日大三は勝利。

この戦い方こそ、バントをしっかり決めることで、下位打線であっても試合の流れを掴み、勝利を勝ち取ることができる好例だろう(実際に松藤は自主練習でバントの練習に力を入れていたという)。

夏のハイレベルな戦いこそ、バントのような基本的な戦術が勝敗を分けるのである。

現代の高校野球における「投げなさすぎ」の罠

春の連載でも触れた通り、投手の球数制限や連投による投手の消耗が問題視されたことから、現代の高校野球ではエースピッチャーが初戦から決勝まで投げ切ることは減ってきている。そのため、投手起用の成否が勝敗を分けるのだが、ただエースを温存することにも思わぬ落とし穴が潜んでいる。

その際たる例がセンバツベスト4の浦和学院だ。浦和学院はエース宮城誇南を温存し、3回戦で3イニングを投げさせたのみで、本格的に投げさせたのは5回戦からだった。

しかしその5回戦で、宮城は(お世辞にも強豪校とは言いがたい)大宮北に初回から先制を許してしまう。なんとかその試合は勝ち進んだものの、準決勝の花咲徳栄戦では5回途中3失点。リードを許したままマウンドを降りた。この夏の大会の決勝までの宮城は不振にあえいでいたが、その原因は大会期間中の調整の失敗にあると思われる(浦和学院はその後、なんとか決勝に進み、宮城も復調し9回1失点の好投を見せたが、惜しくも聖望学園に敗れ甲子園出場を逃している)。

盤石な体制を誇る2022年のセンバツ王者、大阪桐蔭のエース、前田悠伍も「投げなさすぎ」に苦しんだ。前田は、5回戦の東海大大阪仰星戦でこの夏はじめてマウンドに上がるが、4回で5四死球。それでも、決勝では履正社打線を8回7奪三振3四死球にまとめて、対応力の高さを見せた。

高校野球においてはよく「投げすぎ」による問題が取りざたされるが、今は「投げなさすぎ」も投手を苦しめるのである。

複数の投手を投げさせることが当たり前になった現代の高校野球において勝ち上がるカギは、それぞれの投手の調整能力にかかっているとも言えるだろう。

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プロフィール

ゴジキ

野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。

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