短期集中連載 ルポ 大阪府立西成高校<反貧困学習>の現場 第5回

「知識量を問うより大事なことがある。楽しいと思える学校作りを目指します」

黒川祥子

「高校の勉強は楽しいし、西成はめっちゃ住みやすいですよ」

 1学期に各政党へシングルマザーの質問状を送った際、れいわ新撰組のみ回答が返ってこなかったと知った時、「信じられん、れいわ。オレたちのこと、バカにしてんのか!」と私の横で私をガン見して、怒りを伝えてくれた男子が、島津くんだった。

 島津佑都くん、16歳。肥下の「島津くんなら、話すかもしれんな」という言葉に希望を託し、学校からインタビューの依頼を伝えてもらったところ、即答でOKだったという。それも肥下曰く、「なんか、うれしそうやった」らしい。

 教室でもぽんぽんと積極的に発言し、友達思いのムードメーカー的存在だった島津くんに、放課後、空き教室で話を聞いた。

島津佑都くん。住んでみると、西成は住みやすい。天王寺とか、全部チャリで行けるし、スーパーもいっぱいあるし。偏見持っている人は一度、西成に来てほしい。やっぱ、来ないとわからない良さがあるから

 5歳の時、宮崎市内から父、母、兄の一家四人で西成へやってきた。父の兄が西成で飲食店を経営していたため、両親もまた西成で飲食店を開くことにしたのだ。西成警察署の通りに面した、「こどもの里」の裏手に当たる場所が店舗兼住居となった。

 こどもの里へ遊びに行くようになったのは、いとこが行っていたからだ。こども夜回りにも、何回も参加した。

「最初はこんなことして、おっちゃんが怒ってくるんじゃないかと思ったけど、実際はみんな心あたたかくて、『会社が倒産して、年も年やから、雇ってくれるところがなくて』とか、ちゃんと人生の話をしてくれるから、めっちゃ勉強になった。『おっちゃんみたいには、ならんようにしや』って言ってくれて」

 小学校は楽しかったが、中学校で不登校になった。

「勉強めんどくさいし。もう、ついて行かれへんから、ガチ勉強に。もう、いいやって諦めて。中学校、めっちゃ、クソみたいな先生ばっかやった。難聴の子、バカにして。それで先生と気合わんから、行かんかった」

 高校には行きたいと思い、西成高校なら基礎ができていれば入れると聞き、死ぬほど勉強した。入学後は停学になった時以外、1日も休んでいない。今は学校が楽しい。それは友達のおかげでもあり、1年5組の2人の担任のおかげだと話す。20代後半の中村優里と、中根豊(63)だ。

「担任の2人はずば抜けていい人やし、心を許せるって言うか、素が出せる。男の先生はオレのこと、子どもやと思って接してくれるから、オレらもお父さんと思って接してるし」

 西成高校の反貧困学習は、どうだったのか。

「被差別部落のこととか、この辺の問題とか、まだ差別があると新しいことが学べて結構良かった。シングルマザーってこうなんだってことも、勉強できた。政治家とか、質問状を送るまでは市民の声とかは全部無視してんのかなって腹立つなと思ってたけど、実際、手紙を送ったら、ちゃんと目を通して答えも返ってきてるから、ちゃんと街のためにもしてくれてんねんって思って、うれしかった」

 自分が住む釜ヶ崎についての学習はどうだったのだろう。

「見えてないところも多かった。住んでいても、ホームレスのおっちゃんとか、いじめられてんのも知らんかったです。西成が差別されてんのは知ってたけど、外からレッテルを貼られてるっぽい。おっちゃんたち、みんな、いい人やって。オレがちっさい時、酔っ払いのおっちゃんに絡まれとったら、ホームレスのおっちゃんが助けに来てくれたりしたから、ちゃんといい人ばっかやし。宮崎から来て、ホームレスの人たちのおかげで、ここは怖くないんやって思えたから。ここは住んでみると、めっちゃ住みやすいですよ」

 西成高校に入学したことで、島津くんは“暗黒の中学”から脱出できたわけだ。

「ほんまに今、めっちゃ、今までの人生で一番楽しいと思ってます。先生たちもいいし、友達もいい人ばっかやから」

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プロフィール

黒川祥子
東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)など。息子2人をもつシングルマザー。
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