腹から金玉 39歳、目が覚めたらオストメイト ep.01

39歳独身女、がんになる

2024年5月8日(水)の記録
かわむらまみ

ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。

久しぶり、元気にしてる? それとも、はじめましてなんだっけ?

実は、わたしは全然元気じゃなくて、残念ながらがんになってしまいました。

がんになったというよりも、がんであることが判明した、と言ったほうが日本語的には正しいのかな? わたしの腸には大きな穴が空いていて、この前のゴールデンウィーク最終日に耐えがたい腹痛があって救急車を呼んだのをきっかけに、検査、手術を経て、大腸がんであることがわかりました。

たしかに、ここ半月ほど、お腹はずっと痛かったんだよね。ごはんを食べた後に、妙に下腹部がキリキリと痛む感じ。それにしたって、まさか自分の身体がこんな事態になっているとは思わなくない? ストレスかしら? 言うて、嫌なことなんか大してないけどな? などと軽く考えていました。そんなこんなで、2024年5月8日現在、手術日を0日目として入院2日目を迎えています。人生初の入院生活は、なかなかに波乱万丈な幕開け。

がんはどうやらリンパまで転移しているそうで、進行度でいうとステージ3は確定とのこと。ほかの臓器への転移がないかを含めた詳しい状態を確認するために、手術時に切られたわたしの腸が検査に回されているらしい。いてて。検査結果が出るまで1、2週間はかかるみたい。昔どこかで聞きかじった「生存率」という言葉が、嫌でも浮かび上がってくる。大腸がんは、ステージ3で5年後の生存率は77%くらい、ステージ4だとガクッと下がって18%かそこらだという。わたしはステージ3以上だから、つまり約4分の1以上の確率で、5年後はこの世界にいないのか。

そして、突然の変化はがんだけじゃなかった。6時間にわたる緊急手術の結果、わたしのお腹にはストーマがつきました。ついたというか、生えたというか。ストーマってご存知ですか? 人工肛門です。人工肛門ってさ、わたしも知らなかったんですけれど、腸がお腹から出ているんですよ。その腸が、ちょっとストレートな表現で恐縮なのですが、金玉みたいなんですよね。腹に金玉がついている女の気持ちを考えたことがありますか? わたしはありません。教えてあげよう、控えめに言って最悪です。お見舞いに来てくれた友人にストーマの愚痴をこぼしたら「肩についてるよりはましだよ」と、優しい眼差しで肩をポンと叩いてくれました。そんな慰め方あるんだ。

一応、金……ストーマは一時的なものらしく、とはいえ半年はお付き合いしなくちゃいけないみたいです。

そもそも、がんもステージも生存率もストーマも、何もかも自分事として考えたことなんて一度もなかった。ストーマに限っては、言葉の存在すら知らなかったし。世間ではストーマがついている人を「オストメイト」と呼ぶらしい。スマホで調べて、さっき知った。オストメイトって、聞いたことはあったけれど、そういう意味だったんだ。いや、わかるわけないじゃんね。だって、わたしは会社勤めのしがないライターで、休日にただ家でくつろいでいただけだった。Netflixでも観て過ごそうと、昨晩頼んだピザをオーブンで温め直して、IKEAで買った白いベッドテーブルの上にMacBookとピザとカフェラテを置いて、さて、というタイミングで腹痛に襲われ、訳がわからないまま救急車を呼び、病院に運ばれ、検査の末に全身麻酔で手術をして、目が覚めたらオストメイトになっていた。

今のわたしの世界は、入院病棟の大部屋を仕切る緑のカーテンで覆われた、四畳半もないような空間がすべて。そこに置かれたパラマウントベッドの上から動くのもままならない。よくわからないチューブが、よくわからないところからたくさん出ている。何をするにも身体が痛くて、寝返りを打つのに40分以上かかってしまうような有り様だ。でも、とりあえずは生きている。医療って偉大だ。あと、パラマウントベッドも、めちゃくちゃ偉大。わたしの腹筋はそのサービス提供を停止していて、今は電動のパラマウントベッドが腹筋の代役を担ってくれている。助かる。ただ、リモコンを操作するたび「パラマ、うーんと元気になってね」という大昔のCMのしょうもないフレーズが頭をよぎってしまうのだけには辟易しているけれども。

ところで、わたくしかわむらは、今年4月に転職したばかりの身だったりします。4月15日が初出社で、4月末からはゴールデンウィークでしょ? 転職してから実質13日しか働いていないんだよね。それでいきなりこの体たらく。まだ試用期間中だし、ひょっとしてこのままクビになってしまうのでは? ダイジョブそ?

転職早々「終わってる」としか言いようのない状況に直面していますが、メンタルまで終わってしまわないよう、ギリギリのところで堪えています。気が向いたらお見舞いに来てね。髪も身体も洗える状況ではないため、ちょっと、否、かなり汚いですが、顔の治安だけは死守したくて、洗顔シートとイハダしっとり化粧水でがんばっていますので。絶食と点滴のおかげか、肌の調子だけは絶好調。入院してから2日間、1日3食麦茶だけの強制デトックスをさせられていただけのことはある。明日からは飴を舐めてもいいらしい。味の文明開化だ!「味」という字を筆でしたためて、勝訴した人みたいに紙を持って駆け回りたい。やっぱり食って大事だよね……なんて、散々言い尽くされたような常套句をしみじみと反芻してしまう。まあ、飴を食としてカウントしていいのかどうかは、かなり定かではないけれど。

(毎週金曜更新♡次回は10月11日公開)

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写真は、倒れる2日前のわたし。日本酒を3合ほど飲み、博多みやげの「にわかせんぺい」をいただいて、ちょけています。実にのんきだ。あんた2日後、えらい目にあうよと教えてあげたい。

腹から金玉 39歳、目が覚めたらオストメイト

ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。

プロフィール

かわむらまみ

ライター

1985年生、都内在住。2024年5月にステージⅢcの大腸がん(S状結腸がん)が判明し、現在は標準治療にて抗がん剤治療中。また、一時的ストーマを有するオストメイトとして生活している。日本酒と寿司とマクドナルドのポテトが好き。早くこのあたりに著書を書き連ねたい。

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