ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。

がんがわかってオストメイトになって早2ヶ月、ついにこのときがやってきました。
わたしはそのとき……というか本当についさっき、今日の21時過ぎのことだけれど、家のソファでくつろいでいるときにふとお腹を見たら、ストーマの装具からじわりと滲み出ていた。あまりにも突然のことだったので「おわっ」と変な声が出た。
まずは驚き。次に、外出時じゃなくてよかったという安堵感とともに、お腹以外は汚れていないかどうか、状態や状況を確認する。よかった、問題なさそう。というか、いきなりわーっと漏れるんじゃなくて、少しずつ滲み出てくるんだなぁ。
それからは意を決して、お腹が天井を向いたままになるよう手足でバランスをとりながらソファから降り、『千と千尋の神隠し』に登場する釜爺がブリッジをするかのような気味の悪い動きで狭い室内をかいくぐって浴室までゴソゴソと移動し、その最中にティッシュを数枚むしり取って漏れの部分を押さえ、替えのストーマ装具やガーゼ、汚物破棄用の密閉袋などを手に取り、なんとかたどり着いた浴室で装具を外し、身体と服をシャワーで洗い、新しい装具を着け、濡れた服を洗濯機へと突っ込んだ。ブラボー、我ながら動きに無駄がなさすぎる。この素晴らしい判断力を仕事でも活かせていると信じたい。
それにしても、これまで問題なくやってこられていたのに、2ヶ月も経って今さらなぜ?
洗濯機がゴウンゴウンと回る音を聞きながら考える。思い浮かぶ理由は、昨日今日と汗をかいたことくらいしかない。昨日は友人と会うため、そして今日は選挙に行くために、両日ともそこそこ歩き回って汗をかいた。それで面板(ストーマ装具のお腹に貼り付いているパーツ)の粘着力が弱まってしまったのかもしれない。
となると、今後わたしがとれる対策は3つ。
- 暑い日はできるだけ屋外に出ない
- 汗をかいた後は、面板を押さえて再粘着させる
- それでも不安なときは、サクッと交換してしまう
幸いにも、わたしはフルリモートでの勤務が認められているため、これらの対策を十分に実行できる。その上で、万が一を考えて、外出時も交換セット一式とウェットティッシュを持ち歩けばいい。そしてそれは、すでに習慣化されている。恐れることは何もない。それでも失敗したら、そのときはそのときだ。友人たちは、たとえわたしがどんなに糞まみれになったとしても、愛をもって爆笑するか、心から寄り添ってくれるだろう。まったく思い当たらないけれど、もし過度に憐れんだり馬鹿にしたりする人がいれば、その人との関係はわたしにとって不要だったというだけだ。
漠然とした不安を解消したいのであれば、その不安を細分化してできる限り明確にし、一つひとつに仮説を立てて、検証を重ねるよりほかない。「またこんなことが起こったらどうしよう」では、いつまで経ってもその場から動けなくなってしまう。
とはいえ、理屈っぽいことは抜きにして、ショックを受け、不安を抱いた自分の弱さも無視せずに認めたい。そもそもわたしはずっと偉い。今日はファミマのショコラケーキを買っていいし、一番高いフェイスマスクを使ってもいい日とする。
今日のわたしの行動だけが、この先のわたしを救ってくれるだろう。最近はこのフレーズを、おまじないのように頭の中でよく唱える。不測の事態にも適切に対応できたこと、そして今後とるべき対策を立てられたことよ、どうかこの先のわたしの支えとなれ。
さて、ちょうど洗濯が終わった。これから干す。明日のわたしは洗濯物が干されているのを見て、きっと気持ちよく週の始まりを迎えるだろう。
(金曜更新♡次回は3月28日公開)
プロフィール

ライター
1985年生、都内在住。2024年5月にステージⅢcの大腸がん(S状結腸がん)が判明し、現在は標準治療にて抗がん剤治療中。また、一時的ストーマを有するオストメイトとして生活している。日本酒と寿司とマクドナルドのポテトが好き。早くこのあたりに著書を書き連ねたい。