【青木理 特別連載】官製ヘイトを撃つ 第五回

済州島の弾圧を逃れ、総連からは「反組織分子」として徹底的に排斥された私 在日一世の詩人・金時鐘氏に訊く②

金時鐘 × 青木理
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李承晩政権と右翼勢力によって虐殺された犠牲者は
韓国全土で総計40数万人に達するとされる

――その流れで1948年4月、時鐘さんも関わった済州島4・3事件も起きたわけですね。

金時鐘 そうです。その流れのなかでです。決定的だったのは南朝鮮だけで1948年5月10日に単独選挙を実施することに決まったことでした。南北の分断固定が目に見えていたからです。4・3事件を武装蜂起などと言われますが、実際は実弾が少量しかない小銃が30何丁あったくらいで、あとは鎌やナタ、竹やりを手にしての蜂起でした。

――農民一揆のようなものだったと。

金時鐘 そう。武装隊の大半は農村の若者たちでしたから、脚絆も荒縄でくくったようないでたちでした。

――蜂起の前段として、前年からアメリカ軍政の横暴に島民の反発が強まっていたこともあったそうですね。反共を大義名分とする右翼団体などを送り込んで乱暴狼藉を働き、ついには単独選挙に反対する島民が1948年4月3日に蜂起した。これに対し、単独選挙によって成立した大韓民国の李承晩政権は徹底弾圧で臨み、おびただしい数の島民が殺されたと記録されています。

金時鐘 犠牲者の数は現在、公には約3万人といわれています。でもそれは氏名がわかった人だけであって、現地にいた私の実感からすると、最低でも5万人は下らない。慰霊のため済州島にできた「4・3平和公園」には1万3500人の名が刻まれていますが、最近5年ほどでも新たに5千人近くの名が判明しています。当時の済州島の人口は25万人ちょっとですから、いかに多くの人が犠牲になったかわかるでしょう。

――それは在日コリアンに済州島出身者が多いこととも無縁ではありませんね。しかも事件は「共産主義者による暴動」と位置づけられたため、韓国で長く続いた軍事政権下で完全にタブー視され、実態の解明すらまったく進みませんでした。ようやく事件に光が当てられたのは1997年に金大中(キム・デジュン)氏が大統領に就いて以降のことですか。

金時鐘 公然と論議がされるようになったのは、金大中大統領になってからです。ただ、犠牲はそれにとどまりません。1950年6月に勃発した朝鮮戦争に前後して、李承晩政権と右翼勢力によって虐殺された犠牲者は韓国全土で総計40数万人に達するとされていて、これは軍事政権も暗黙に認めた数字です。40数万の犠牲者といえば、広島原爆の犠牲者数を上回りますよ。済州島4・3事件というのは、そうした大殺戮のさきがけとなる殺戮だった。それを私は身をもって体験したわけです。

――それが「大韓民国」という国の実態だったと。

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【青木理 特別連載】官製ヘイトを撃つ

近隣諸国やマイノリティへの敵意を煽り、攻撃することで政治にまつわる不都合、問題から、不満をいだく民衆の目をそらさせる手法は古来、たびたび繰り返されてきた。 同時に、そうした姑息な政治的方便が、本物の憎悪(ヘイト)を生み出し歯止めがかけられなくなったとき、不条理で悲惨な弾圧や虐殺が引き起こされてきたことは歴史の常である。 これは現代日本も例外ではない。政治家、官僚、公共機関の長から一般にいたるまで。この国を蝕んでいるこの風潮の深層に、反骨のジャーナリスト青木理が切り込む。

プロフィール

金時鐘 × 青木理

 

金時鐘(キム・シジョン)
1929年釡山生まれ。詩人。元教員。戦後、済州島四・三事件で来日。日本語による詩作、批評、講演活動を行う。著書『朝鮮と日本に生きる』(岩波新書)で第42回大佛次郎賞受賞。『原野の詩』(立風書房)、『「在日」のはざまで』(平凡社ライブラリー)他著作多数。『金時鐘コレクション』全12巻(藤原書店)が順次刊行中。共著に佐高信との『「在日」を生きる』(集英社新書)等がある。

青木理(あおき・おさむ)
1966年長野県生まれ。ジャーナリスト。共同通信社社会部、外信部、ソウル特派員などを経て、2006年フリーに。著書に『日本会議の正体』(平凡社新書)、『安倍三代』(朝日新聞出版)、『情報隠蔽国家』(河出書房新社)、『日本の公安警察』(講談社現代新書)、共著に『スノーデン 日本への警告』『メディアは誰のものか―「本と新聞の大学」講義録』(集英社新書)等がある。

 
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