【青木理 特別連載】官製ヘイトを撃つ 第五回

済州島の弾圧を逃れ、総連からは「反組織分子」として徹底的に排斥された私 在日一世の詩人・金時鐘氏に訊く②

金時鐘 × 青木理
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戦後日本の教育というものは、
戦前の帝国主義教育の踏襲ではないかとさえ思う

――それでも、かつてだったら部落解放同盟や朝鮮総聯といった組織がそれなりの力を持っていて、少なくとも現在のように低レベルなヘイト言説は許さない雰囲気がありました。

金時鐘 でも、かつての朝鮮総聯は北朝鮮をバックにしていたからこそ、あれほど勢いがよかったんですよ。私がそれにいつも批判的だったのは、ああいう人たちは常に自分の優位性を振りかざす。まずは国家の優位性を説く。自分たちは、それほどの国家に選ばれた公民だと。北朝鮮の国家権威を笠に着てふんぞり返っていたのが朝鮮総聯なんです。だから日本人にも共感を得られない。朝鮮総聯のあり方そのものが問題だった。ただし、朝鮮学校の無償化などは別ですよ。あれは子どもたちへの救済であって、国家とか組織、団体に対する援助じゃない。

――それは前川喜平さんもおっしゃっていましたし、僕もまったく同感です。

金時鐘 いずれにせよ、戦後日本の教育というものは、これを活字にすると刺激的すぎるかもしれませんが、戦前の帝国主義教育の踏襲ではないかとさえ思うんですね。近現代史を一切白紙にして教えない。そうしたなかで在日朝鮮人の生徒は9割方、日本の学校で学んでいるわけですが、在日朝鮮人がどういう存在なのかも知らせない。自覚を促させるような先生もめったにいない。義務教育の中でも中学生は特に自我が形成される年代ですが、中学にせよ、あるいは高校だって、親は白紙委任で行かせるのが大半でしょう。たまたま仲間に恵まれたり、きちんとした意識を持った先生に出会えば、植民統治という事実も耳にするし、在日朝鮮人が一貫して無権利状態、民族的権利はおろか市民的権利からも遠ざけられてきた、終戦までは同じ日本人でもあった海外同胞であるとも伝えてくれるかもしれない。しかしそのような巡り合いはめったとめぐってきはしません。

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【青木理 特別連載】官製ヘイトを撃つ

近隣諸国やマイノリティへの敵意を煽り、攻撃することで政治にまつわる不都合、問題から、不満をいだく民衆の目をそらさせる手法は古来、たびたび繰り返されてきた。 同時に、そうした姑息な政治的方便が、本物の憎悪(ヘイト)を生み出し歯止めがかけられなくなったとき、不条理で悲惨な弾圧や虐殺が引き起こされてきたことは歴史の常である。 これは現代日本も例外ではない。政治家、官僚、公共機関の長から一般にいたるまで。この国を蝕んでいるこの風潮の深層に、反骨のジャーナリスト青木理が切り込む。

プロフィール

金時鐘 × 青木理

 

金時鐘(キム・シジョン)
1929年釡山生まれ。詩人。元教員。戦後、済州島四・三事件で来日。日本語による詩作、批評、講演活動を行う。著書『朝鮮と日本に生きる』(岩波新書)で第42回大佛次郎賞受賞。『原野の詩』(立風書房)、『「在日」のはざまで』(平凡社ライブラリー)他著作多数。『金時鐘コレクション』全12巻(藤原書店)が順次刊行中。共著に佐高信との『「在日」を生きる』(集英社新書)等がある。

青木理(あおき・おさむ)
1966年長野県生まれ。ジャーナリスト。共同通信社社会部、外信部、ソウル特派員などを経て、2006年フリーに。著書に『日本会議の正体』(平凡社新書)、『安倍三代』(朝日新聞出版)、『情報隠蔽国家』(河出書房新社)、『日本の公安警察』(講談社現代新書)、共著に『スノーデン 日本への警告』『メディアは誰のものか―「本と新聞の大学」講義録』(集英社新書)等がある。

 
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