平成消しずみクラブ 第9回

春にそなえよ

大竹まこと

 確かに、問題は山積みである。
 アメリカをたとえに出さずとも、格差は広がっている。
 国は多くの借金を抱え込んでいる。
 私のせいではないが、私は一九四九年のベビーブームに生まれ、多くの老人の仲間入りである。
 バブルも弾け、何十年も低成長の時代があって、君たちは生まれ、多くの老人を背負って生きなければならない。
 AIの時代が来る。予想では、十年後には、四九%の仕事がなくなるそうだ(私はもっと早くにやってくると思っている)。
 本当に申し訳ない。私は就職したことがないから、サラリーマンの苦労はわからない。
 その日暮らしだ。二八歳の時の年収は六〇万円だった。
 唯一の救いは、戦争がなかったことだ。この国は七〇年戦争をしていない。だから、兵隊にもとられなかった。
 私の父は、赤紙が来て、満州に行った。多くの友人が亡くなったと聞く。父は生き残って日本に帰ってきた。戦争が終わって四年がたち、私が生まれた。父が三五歳の時の子どもである。
 二〇一八年一月一四日、朝日新聞の一面の見出しは「武器輸出 トランプ氏率先」とある。
 潤う軍需産業でアメリカは景気が良いらしい。それも一%の大金持ちの話だ。
 先に述べたように、格差は広がっている。
 それでも、君たちは恐れてはいけない。
 吠えろ若者ヨ、悩むこともあり、落ち込むこともあろう。
 しかし、ダメな大人の言葉などに、耳を貸さぬが良い。仕出かした不始末にクヨクヨするな。思いもよらぬところに活路がある。
 近道を選ぶな。近道はただ単に近いだけだ。
 まずいパンを食べろ。まずいラーメンを啜(すす)れ。何故と聞くな。
 読めない本を読め。三ページで諦めるな。これで私は何度失敗したのか。
 あの時、読んでいれば、わからなくても読み返していれば、もっと豊かに暮らせたかもしれない。サリンジャー、大江健三郎、ドストエフスキー。
 頑固になるな。頑固はそこで考えをやめてしまった私のような人のことだ。
 この頑固者が!
 最低一回は振られろ。相手は男でも女でもどっちでも良い。私の場合は女だった。振られなければ人は馬鹿になる。振られて初めて人になる。
 変態になれ。奇人になれ。群れから抜け出せ。
 遊ぶ。とにかく遊ぶ。遊び呆けていれば、自分が何をすべきか見えてくる。
 間違えたら謝る。ちゃんと謝る。若い頃、酒の席だったか忘れたが、大阪で月(つき)亭(てい)可(か)朝(ちよう)さんに、
「あんたはんも、それで謝ることができたら、ええのになあ」
 と言われた。
 酒は飲めても、飲めなくても良い。私は下戸だ。
 そして、私のようなダメな大人のいうことなど、一切聞いてはいけない。

 

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平成消しずみクラブ

連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。

プロフィール

大竹まこと

おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。

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