平成消しずみクラブ 第9回

春にそなえよ

大竹まこと

 二冊の本は、天と地ほど違うお話である。
 一方は、虚構に満ちた不思議な世界であり、もう一方は心が苦しくなるような現実であるが、若者たちが書いた二冊は、この年寄りを揺さぶる。
 そして、もう一組の若者がテレビで暴れていた。
 吉本に所属する「ウーマンラッシュアワー」というお笑いコンビ。
 近頃珍しい政治風刺の漫才である。
 二〇一七年一二月二一日の東京新聞でも大きく取り上げられていた。
 ウーマンラッシュアワーの村本大輔君は、漫才の中で、故郷の福井県を自虐的に、原発が集中しているにもかかわらず、おおい町では午後七時に店が閉まるとし、「電気は、どこへゆく!」と皮肉ったとある。また、東京五輪に向け「豪華な競技場を建てる前に、被災地に家を建てろ」とも早口でまくしたてた。
 私は友達の作家にすごくシャープだからと言われ、その場で小さなスマホで動画を見た。
 会話のスピードと、政治を見事に笑いに昇華させる腕前に驚いた。こんな活きの良い若者がお笑いにもいたのだ。
 漫画家の倉田真由美(くらたま)は、最初は大笑いしたけれど、何度も見るうちに涙があふれたと私に告げた。
 このウーマンラッシュアワーの漫才は、ネット上で賛否が交錯したらしい。
 前出の新聞には、ジャーナリストの津田大介さんや映画監督の想田和弘さんが称賛したとあった。また、「これはお笑いではない」という反発もあったとある。
 しかし、私は笑ってしまった。皆は笑わなかったのだろうか。
 もとは、お笑いには右も左もない。その時々の政府を茶化して、笑いのネタにしてきたのだ。庶民はそれでウサを晴らした。
 テレビは、スポンサーやコンプライアンス、BPOなど、いろいろと気を使わなければならない。必然的に、過激なものを自粛してきた。
 ウーマンラッシュアワーの漫才は、そんな時代を見事にけさ斬りにして、気持ちが良い。皆笑っていた。彼らの勝ちと思うが、それは違うのか。
 漫才の最後、村本君は「それはお前たちのことだ!」と聴衆を指すのだ。
 その指は、私の胸にも突き刺さった。
 村本君は「抑圧された息苦しい、我慢しているところに、でっかい穴をあけて風を通しやすくするのがお笑いの仕事だと思っている」と東京新聞のインタビューをしめた。その心意気も良しである。
 彼にどんな未来が待っているか。私はとても期待している(が、多少の心配もある)。

 さて、もうすぐ春が来る。いやまだ早いか。昨日、大雪が降ったばかりじゃないか。
 そんなことはどうだっていい。嘘と思うなら、近所の桜の木を見てごらん。よく見てみなさい。ホラ、固い殻がもう膨らみ始めている。何故、梅を飛びこえ桜なのか。それはいい。
 春は確実に来る。来るといったら来る。
 いろいろな問題を抱えつつも、季節は、山口百恵の歌のように、私を追い越していく。
 若者たちヨ、冬を乗り越え、春に備えヨ。

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連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。

プロフィール

大竹まこと

おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。

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春にそなえよ