なぜ極右の躍進は止まらないのか フランスから考える 第3回

なぜ富裕層は極右を支持するのか?(上)

森野咲

昨今、日本では排外主義や自国第一主義を掲げる政党が選挙で議席を伸ばしている。ヨーロッパをはじめとする世界各地での極右政党躍進の流れが、いよいよ到来したとの見方もある。では、極右の「先進地」とも呼べるヨーロッパでは、極右はどのように勢力を拡大してきたのだろうか? フランスの大学院で哲学を学ぶ森野咲が、現地での最新の研究や報道の成果をもとに、極右の成長、定着の背景やメカニズムを明らかにする。

 近年の極右台頭をめぐる分析は、多くの場合「下から」の視点、すなわち大衆側の不満や失望に焦点を当ててきた(詳しくは第二回の記事を参照)。こうした視点では、極右の躍進は、グローバル化の進展によって脱工業地域の「敗者」が「勝者」に反発して極右に投票するようになる、といった図式で説明される。しかし、このアプローチではしばしば「上から」の視点――誰が資金を提供し、どのように私的利益を政治的支持へと転化するのか――が見落とされがちである。

 国民連合は、支持基盤の「プロレタリア化」を進めつつも、従来からの主要支持層である自営業者・中小企業層に連なるネオリベラル志向の小ブルジョワジー層を、依然として支持基盤にとどめている。さらに近年顕著になっているのが、超富裕層と極右の接近である。1980-90年代初頭までは、EU脱退(Frexit)や保護主義を掲げるジャン=マリー・ルペンらの極右は、経営者にとって信頼に足る政治的パートナーではなかった。しかし今日ではその状況が徐々に変化し、極右と経済界の接近の兆しは、寄稿、公開書簡、業界フォーラム、シンクタンク、メディアといった仲介装置を通じてあらゆる箇所で観察されている。

 よって、今日の極右の台頭を理解するためには、大衆的要因に加えて、上層からの供給を分析に組み込む必要があるだろう。極右の権力掌握には、ビジネス界の承認や同意が決定的な役割を果たしてきた。極右は企業に対し、様々な利益と安定を約束し、その見返りとして経済界からの支援を引き出してきたのである。そして、こうした極右と資本の利害の接合は、現代に特有のものではなく、歴史の中でも確認できる。そのことを端的に示すのが、1930年代に生まれた「人民戦線よりヒトラー」というスローガンだ。

人民戦線よりヒトラー

「人民戦線よりヒトラー」――このスローガンは1930年代、ファシズム前夜のフランスで生まれた。起源には諸説あるが、この言葉は、当時の「ヒトラーか、レオン・ブリュム(*1)(社会党・対ファシズム人民戦線)か」という二極化した時代の空気と、その中で生まれたフランスの一部ブルジョワジーの心性を反映している。彼らはスターリン体制やスペイン内戦(フランコ)を念頭に、人民戦線による社会改革よりもファシズムを選好した。経営者の側には、共産主義よりファシズムの方が自分たちの利害に適うとする、経済的な判断があった。その根底にあるのは、「スターリンのために死ぬより、ヒトラーの下で生きる方がましだ」とする反共の恐怖である。

1936年、人民戦線結成初期。レオン・ブリュム(中央)とフランス共産党(PCF)書記長モーリス・トレーズ(右)
1936年、人民戦線結成初期。レオン・ブリュム(中央)とフランス共産党(PCF)書記長モーリス・トレーズ(右)。 写真:akg-images/アフロ

 当時の経営者層は一枚岩ではなかったとはいえ、親ナチ的な立場をとる経営者は少なくなかった。ナチス体制は、私的所有を保持しつつ限定的な国家計画を導入するという点で「親企業的」であり、企業の繁栄のために十分な安定を保障していた。ドイツでは国家と企業の戦時経済協力が進み、協力企業は褒賞を得ることで一定の繁栄を維持していたのである。ヴィシー政府(*2)もまた、フランス企業が対独生産を通じてドイツの戦争遂行に協力することを奨励したため、1943年時点の統計からはナチス・ドイツへの広範な経済協力が確認できる。そこには同意・強制・打算とさまざまな力学が入り混じっており、単純な「全面的支持」ではなかったとも言えるが、それでも、多くのフランス企業経営者が資金を提供して占領者に協力し、ヴィシー政権を支持したことは否定できない。

 このように、ブルジョワジーは経済的利害ゆえにファシズムと協働することがある。これをさらに政治的観点から考えるための主要な概念の一つが、マルクスの『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日』を起点とし、後にレオン・トロツキーによって『ボルシェヴィズム対スターリニズム』で再提示されたボナパルティズムであろう。ボナパルティズムとは、資本の利害が労働運動やストライキによって脅かされる局面で、ブルジョワジーが「階級の上に立つ」権威主義的政府を支持し、抑圧を通じて資本の利益を維持する政治的メカニズムを指す。経営者層が資本の利害に基づいて、国家による政治的弾圧と安定化を容認するという構図において、ファシズムとはこのボナパルティズムが適用された一形態と捉えることができる。1917年のロシア革命、1936年のフランス大スト、そして欧州各地でのファシズム勃興という歴史的文脈のなかで、経営者層は「上からの国家」が階級対立を力で抑え込む権威主義を選好してきたのである。

*1 レオン・ブリュム(1872-1950)はフランス社会党の指導者。1936年の人民戦線成立に際し、同連立政権を率いて1936-37年に首相(評議会議長)を務めた。
*2 ヴィシー政府(ヴィシー政権)は、独仏休戦協定後の1940年7月に成立した対独協力政権(1940年7月-1944年9月)で、政府所在地を中部の町ヴィシーに置いたことからこう呼ばれる。国家元首はフィリップ・ペタン。

新人民戦線より、国民連合

 この「人民戦線よりヒトラー」が、今日のフランスで再演されているのではないか。2024年のフランス国民議会選挙では、直前の欧州議会選挙で国民連合が首位となったことを受けて、左派連合「新人民戦線」(*3)が対ファシズム統一戦線として結成された。この時新人民戦線が掲げた政策は、穏健な社会改革にとどまるものであったにもかかわらず、財界からは「過激」「危険」とレッテルを貼られた。実業界の内部では、「多くの企業指導者は国民連合政権より左派政権のほうを恐れている」との指摘もある。かつて経営者にとって選択肢になりえなかった極右が、今や「反共の砦」であるかのように受け入れられつつあるのである。

 こうした経営者の極右への接近に直ちに「反革命」といった図式を当てはめることにも限界がある。なぜなら1930年代のように左翼の台頭が「共産主義の亡霊」として資本にとって切迫した脅威として受け取られた状況とは異なり、2024年の新人民戦線が掲げる綱領は、ミッテラン政権初期(*4)に近い社会民主主義的な改革にとどまっているからだ。「革命の脅威→反動」という極右台頭の古典的な図式を、そのまま現代に当てはめることは難しい。

2024年6月14日、記者会見で「新人民戦線」の公約を発表する各党の党首。左からマリーヌ・トンドリエとヤニック・ジャド(緑の党)、マニュエル・ボンパール(不服従のフランス)、オリヴィエ・フォール(社会党)、ファビアン・ルーセル(フランス共産党)。
2024年6月14日、記者会見で「新人民戦線」の公約を発表する各党の党首。左からマリーヌ・トンドリエとヤニック・ジャド(緑の党)、マニュエル・ボンパール(不服従のフランス)、オリヴィエ・フォール(社会党)、ファビアン・ルーセル(フランス共産党)。 写真:AP/アフロ

 むしろ考えるべきは、ドゥルーズが示唆したように、資本主義は自らの限界を不断に押し広げながら、拡大した尺度でふたたび同じ限界に突き当たるということではないか。というのも、その限界とは外部にあるのではなく、資本それ自体にほかならないからだ(*5)。したがって、ここで問うべきなのは「革命への反動」という図式というよりも、資本が自己の矛盾を拡大しながら管理しようとする局面において、極右が一つの政治的選択肢として広く選好されうる条件である。以下では、フランス版経団連MEDEF(*6)を中心とする経営者層に見られる言説と行動がどのように変容したかを手がかりに、かつてタブー視されていた極右が、どのようにして彼らの選択肢となりえたのかを検討する。

*3 新人民戦線(Nouveau Front populaire, NFP)は、極右の伸長を背景に2024年6月の国民議会選挙に向けて結成された左派の連合。不服従のフランス(LFI)、社会党(PS)、緑の党(Les Écologistes)、フランス共産党(PCF)を中核に、急進左派から中道左派までを含む幅広い連合として統一候補と共通綱領を掲げた。
*4 社会党のフランソワ・ミッテランが1981年大統領選で当選し、フランス共産党も参加する左派政権が成立した時期を指す。1981〜83年頃までは国有化や最低賃金引き上げ、労働時間短縮・有給休暇拡大などの改革を進めたが、1983年頃から緊縮路線へ転換した。
*5 「私たちがマルクスでいちばん面白いと思ったのは、資本主義を内在性のシステムとして分析しているところです。つまり資本主義はみずからのリミットを絶えず押しやっていく、しかしリミットすなわち資本である以上、尺度を拡大したかたちで、どうしてもまた同じリミットに逢着するということですね。」 ジル・ドゥルーズ『記号と事件 1972-1990年の対話』(宮林寛訳)河出文庫, 2007年
*6 MEDEF(Mouvement des entreprises de France)=フランス企業運動は、フランスの最高経営責任者の組合。1998年にCNPF(Conseil national du patronat français)=フランス経営者全国評議会の後継として設立された。歴代会長は、アーネスト=アントワーヌ・セイエール(1997/98-2005)、ロランス・パリゾ(2005-2013)、ピエール・ガタズ(2013-2018)、ジョフロワ・ルー・ド・ベジュー(2018-2023)、パトリック・マルタン(2023-)。

フランス財界と極右の接近

 フランス政治に激震が走った「ルペン・ショック」(詳しくは第一回記事を参照)の2002年の大統領選挙(ジャック・シラク対ジャン=マリー・ルペン)当時、MEDEFは「共和国の防波堤(barrage républicain)」(*7)の立場を明確にし、極右政党である国民戦線を断固として拒絶していた。しかしこの動きとは対照的に、人民戦線が躍進した2024年のフランス国民議会選挙では、同団体は左派勢力への警戒を強め、結果的に極右との協働を容認する方向へと転じていた。

 こうした財界の「転向」は突如始まったものではない。ロランス・パリゾ会長期(2005-2013年)には「決して極右とは組まない」という原則が維持されていたが、ピエール・ガタズ期(2013-2018年)以降は、極右政治家を経営者クラブや討論会、フォーラムに招くなど、接近が進行した。こうしてかつてのタブーは、緩やかに解体されていったのである。

 とはいえ経営者層の態度も一様ではない。ボロレ(*8)、ステラン(*9)、ダッソー系(*10)のように公然と極右に近い立場をとる者がいる一方で、多くは沈黙あるいは黙認によって関与を避けている。民主主義的価値を明確に優先する少数派(たとえばサフラン社のロス・マキネス(*11))の存在はむしろ例外的で、全体としては、利害関係や人的ネットワークを通じた「静かな支援」が広がっている。国民連合や、エリック・ゼムール率いる再征服といった極右勢力は、経営者層を政治的資源として活用しつつ、経営者の側も民主主義より当面の経済的利益を優先している。こうして、経済界の内部ではすでに「権力移行への準備」が着実に進みつつあるのである。

2026年1月13日、パリのグラン・パレで開かれた仏日刊紙「フィガロ」創刊200周年記念式典にて。ヴァンサン・ボロレ(左)とLVMHグループ会長ベルナール・アルノー(右)。
2026年1月13日、パリのグラン・パレで開かれた仏日刊紙「フィガロ」創刊200周年記念式典にて。ヴァンサン・ボロレ(左)とLVMHグループ会長ベルナール・アルノー(右)。 写真:AFP/アフロ

 フランスの経営者団体と極右の一定の親和性は、近年になって突然生まれたものでもない。そもそも、MEDEFの前身であるCNPF(フランス経営者全国評議会, 1946-1998)の時代から、経営者団体には極右や王党派(*12)の影響が強く、今日に至るまで広報・メディア部門にはその系譜が残っている。左派や独立系のメディアに対しては情報アクセスが制限される傾向が強く、組織としての閉鎖性は依然として強い。

 さらに、表向きの「経営者団体」代表のMEDEF以上に注目すべきなのは、ロビー活動の中枢として実権を握るAFEP(フランス民間企業協会)である。AFEPとは、1982年にCGE社長で王党派のアンブロワーズ・ルーによって、社会党政権による1982年の企業の国有化への「報復」として創設された。ルーは1998年、国民戦線との提携を示唆する発言で批判を招いたが、AFEPは明確な処分や見解表明を伴わないまま事態を沈静化させ、ルーも要職にとどまった。その後AFEPは、クロード・ベベア(AXA創業者)ら大物経営者を軸に影響力を強めつつ、「株主価値最優先」の新自由主義へと重心を移していく。理念面でも保守・反動的な言説が強まるにつれ、極右との関係は黙認と非タブー化へと変化していった。

 2017年以降、AFEPは大企業オーナー経営者の結集を基盤に、マクロン政権第1期(2017-2022)の減税・資本優遇を追い風にして、政権との蜜月関係を形成する。それと並行して彼らが魅了されていったのは、アメリカの「トランプ型」リバタリアン右派が掲げた減税・規制緩和路線であった。トランプ政権第1期には、在仏米大使や米上院議員がAFEPに招かれ、税制改革を主題とする講演を行うなど、両者の間のネットワーク形成も進んだ。こうした傾向は、2024年のトランプ再選後に頂点に達したと言われている。

*7 共和国の防波堤(barrage républicain)あるいは共和国戦線(front républicain)とは、選挙の決選投票(第2回投票)などで極右を勝たせないために、右派・左派の複数政党が特定候補への投票や候補の撤退を呼びかけて形成する「反極右」の選挙上の連携を指す。2002年大統領選では、ジャン=マリー・ルペン(国民戦線FN)が決選投票に進出した後、反ルペン票がジャック・シラクに集約した局面がその典型例である。
*8 ヴァンサン・ボロレ(Vincent Bolloré, 1952-)はフランスの実業家・メディアオーナーで、ボロレ・グループの大株主。ヴィヴァンディ(Vivendi)を足場にカナル+(Canal+)系メディアへの影響力を強め、CNews(しばしば「仏版フォックス・ニュース」とも評される)を核に、C8/Europe 1/Journal du dimanche(JDD)などを束ねる「ボロレ帝国」を形成した。本人は公の場で「民主・キリスト教」的立場や「政治的意図の不在」を強調する一方、同グループの主要メディアでは、差別扇動等をめぐり繰り返し有罪判決を受けてきたエリック・ゼムールが看板的存在として露出を拡大している。ゼムール自身もボロレを「文明」をめぐる危機意識(いわゆる「大置換」理論)を共有する人物として称揚する発言をしていることは、ボロレと極右の接続を端的に示している。
*9 ピエール=エドゥアール・ステラン(Pierre-Édouard Stérin, 1974-)はフランスの起業家・投資家で、ギフト系サービス(Smartbox)などで資産を形成した後、投資活動を通じて影響力を広げた。熱心なカトリック信仰を公言し、若年期は右派学生組織UNIに所属。中絶(IVG)や同性婚をめぐる保守的立場を支持する発信でも知られる。政治との関わりでは、右派・極右の勢力拡大を資金や人材、メディア、データなどの資源投入によって支援する構想が取り沙汰され、2024年には10年で総額1億5,000万ユーロ規模を投下する“事業計画(ビジネスプラン)型”の政治プロジェクト(通称「ペリクレス」)が報道された。これは、政党活動そのものではなく、民間の投資・組織化の手法で政治的勝利を企図する試みとして注目された。
*10 ダッソー・グループ(Dassault)は、航空・防衛産業を中核に持つフランスの大企業で、新聞『ル・フィガロ(Le Figaro)』のオーナーとしても知られる。創業者マルセル・ダッソーは戦前に人民戦線を支持し、占領下で迫害・強制収容を受けた経歴を持つなど、当初から極右と結びついていたわけではない。だが戦後急進右派・極右との接点が目立つようになる。具体的には、「新聞は健全な(=反左派の)思想を広めるべき」と発言したセルジュ・ダッソー期に、地方選挙で国民戦線系の人物がリスト入りした問題(1995年)や、オルセー美術館でのパーティーにジャン=マリー・ルペン親子が現れる(2005年)などのエピソードが報じられた。さらに2012年以降、『ル・フィガロ』上層部の人事を通じて、保守強硬〜急進右派の論調に近い編集方針が強まったとされ、2024年の議会解散後には同紙幹部が「右派連合(=極右との協調を含む)」を公然と論じるなど、主流保守と極右の境界を薄める役割を果たした。
*11 ロス・マキネス(Ross McInnes, 1954-)はサフラングループの会長。2024年のフランス国民議会選挙期には、極右国民連合に対して公に距離をとる数少ない大企業トップとして注目され、インタビューで「(民主主義と経済の間では)常に民主主義を選ぶ」と発言した。
*12 王政支持、すなわち王政復古を志向する立場・運動を指し、歴史的にはフランス革命期の反革命勢力(西部の蜂起=ヴァンデ戦争など)を指して用いられる。現代では政治的には少数派ながらも王党派の潮流は存続しており、代表例としてアクション・フランセーズが挙げられる。

極右インターナショナル

 フランスの経営者と極右の接近という状況は、国際的な視野にたてば、アメリカのリバタリアン資本主義やテック業界の極右化の潮流(トランプ、イーロン・マスク、アルゼンチンのミレイ政権らに象徴される)と共鳴している。LVMH会長ベルナール・アルノーはトランプ周辺との近さを示す動きを見せており、トランプの大統領就任式からフランスに戻った直後の2025年1月下旬には、フランスの政策を「(企業活動への)冷や水だ」と評しつつ、官僚制や規制への強い不満を公然と語っている。

2017年1月9日、第一次トランプ政権発足に先立ちニューヨークのトランプ・タワーで会談したドナルド・トランプ(左)とベルナール・アルノー(右)。
2017年1月9日、第一次トランプ政権発足に先立ちニューヨークのトランプ・タワーで会談したドナルド・トランプ(左)とベルナール・アルノー(右)。 写真:ロイター/アフロ

こうした態度はアルノーにだけ見られるものではない。フランスの大企業トップが相次いで、官僚主義・規制・税負担を「競争力を削ぐもの」として批判する事態が続いている。たとえばEDF(フランス電力会社)のリュック・レモンは規制手続きが脱炭素投資の最大の障害だと述べ、トタルエナジーズのパトリック・プヤネも、同規模の投資でも米国の方がはるかに早く進むと不満を表明する。BNPパリバのジャン=ローラン・ボナフェはEUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)を「役に立たない官僚的な妄想」と批判し、エアバスのギヨーム・フォーリーも状況が「耐え難い」として、企業の国外流出の可能性に言及した。ヴァンシのグザヴィエ・ユイヤールは、国家が「取りやすい所から取る」形で大企業に負担を寄せると非難している。さらにMEDEF現会長パトリック・マルタンも、トランプのホワイトハウス復帰には懸念があるとしつつも、彼の挑発的言辞を差し引けば、「規制好き」なフランス政治を変える「機会」になりうる、という趣旨で評価している。

MEDEF(フランス企業運動連盟)会長、パトリック・マルタン
MEDEF(フランス企業運動連盟)会長、パトリック・マルタン 写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 さらにこうした「共鳴」は思想にとどまらず、資金の流れにも現れている。 Observatoire des multinationales(多国籍企業を監視する団体)によれば、2024年米大統領選では、米国に進出するフランス企業グループの一部が、米国子会社を通じて設けた政治活動委員会(PAC)を介し、共和党内でも最強硬派に属する候補者の選挙運動に資金を提供していた。その中には、2020年大統領選の結果を認めることを拒んだ政治家も多く含まれている。資金提供に関与した企業としてはペルノ・リカールやサノフィのほか、エアバス、タレス、EDFなど、フランス国家が出資・関与する大手企業も挙げられていた。

 新人民戦線を危険視する財界の反応は、こうした国際的文脈の延長線上に位置付けられるだろう。極右と接近する経営者たちの動機の根底には、「より小さな悪」の論理がある。新人民戦線を恐れるがゆえに、市場自由主義的な発言を繰り返すマリーヌ・ルペンやジョルダン・バルデラ(*13)を「まだまし」とみなす――いわば、1930年代の「人民戦線よりヒトラー」的な反動が再演されているのだ。経済エリートの多くは民主主義的責務への関心が希薄で、CSR(企業の社会的責任)を強調しながらも、実際には「民主主義より経済」を優先する傾向を強めている。ドイツのような極右反対のための経営者の組織的動員が、フランスでは起きていない。左派的経営者がほとんど姿を消すなかで、新自由主義的価値観が前景化しているのである。

 重要なのは、極右の側も経済政策を大きく修正しているということである。国民連合は、かつて掲げていた反EU・反グローバル化の主張を放棄し、親企業的・親市場的な姿勢へと転換することで、企業界の不安を和らげ、企業界にとっての「ロビー的代弁者」としての役割を確立しつつあるのだ。次回は、こうした極右の路線修正が具体的にどのような経済政策として現れているのかを検証する。

*13 ジョルダン・バルデラ(Jordan Bardella, 1995-)はフランスの政治家。国民連合(Rassemblement national)所属。2019年欧州議会選挙では国民連合の名簿筆頭候補として選挙戦を率いて当選し、欧州議会議員に就任した。2022年に国民連合党首に選出。2024年6月の国民議会総選挙では、国民連合が多数を獲得した場合の首相候補として擁立された。

参考文献

Institut La Boétie, “Plutôt Hitler que le Front populaire ? Les dominants et l’extrême droite,” Symposium, 2023.
Olivier Petitjean, Ces entreprises françaises qui préfèrent financer le camp Trump plutôt que Kamala Harris, Basta!, 5 novembre 2024 
Laurent Mauduit, Collaborations. Enquête sur l’extrême droite et les milieux d’affaires, La Découverte, 2025.
Michaël Fœssel and Étienne Ollion, Une étrange victoire. L’extrême droite contre la politique, Éditions du Seuil, 2024.

 第2回
なぜ極右の躍進は止まらないのか フランスから考える

昨今、日本では排外主義や自国第一主義を掲げる政党が選挙で議席を伸ばしている。ヨーロッパをはじめとする世界各地での極右政党躍進の流れが、いよいよ到来したとの見方もある。では、極右の「先進地」とも呼べるヨーロッパでは、極右はどのように勢力を拡大してきたのだろうか? フランスの大学院で哲学を学ぶ森野咲が、現地での最新の研究や報道の成果をもとに、極右の成長、定着の背景やメカニズムを明らかにする。

プロフィール

森野咲

(もりの さき)

1996年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、大杉栄や石川三四郎に憧れて渡仏。パリ郊外サン=ドニにあるパリ第8大学哲学科の修士課程2年に在籍中。専門はフランス現代哲学。現在、『ふぇみん』に「極右とフェミニズムの不幸な結婚」を連載中のほか、自身のnoteで「極右の傾向と対策」と題したマガジンを発表している。

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なぜ富裕層は極右を支持するのか?(上)

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