田中秀征の一言啓上 第6回

三すくみの都議選 受け皿は都民ファースト

田中秀征

2万円給付への不信

 都議選の総定数は127議席だが、今回の選挙での自民党の獲得議席は21議席、2割にも達しない。このところ自民党は、コメ問題における小泉進次郎氏の活躍もあって、息を吹き返したと錯覚したのだろうか。自民党に対する有権者の眼はそんなに甘いものではなかった。

 そもそも自民党は“政治とカネ”問題で、“カネの集め方”にはそれなりにメスを入れたが“カネの使い方”にはメスを入れていない。依然として慶弔電報が舞い、会食政治が横行している。

 しかし、今回、都議選での低落の原因は主として経済低迷と生活苦に対する対応だと言える。朝日新聞の調査(6月)によると、「すべての国民に一人あたり2万円」を支給するという政府・自民党案に対して、それを「評価しない」が67%に達しているのに、「評価する」は28%に過ぎない。節分の豆まきのように税金をまいて国民・納税者が賛同すると考えているとしたら、それこそ根が深い。都議選で有権者が自民党への投票を保留したのは、この一件が大きい。少なくとも、自民党への不満のダメ押しとなった。

不信任案提出から逃げた立憲

 国会での野党第一党の立憲民主党は13議席から17議席へとわずかに議席を伸ばしたが、議席割合は1割ちょっと。議席数4位で低迷している。今回の不振の第一の原因は、石破内閣への不信任案提出から逃げたことにある。与党か野党か不明に見えるこの対応は、多くの支持者に不信感を与えてしまった。

 当然のことながら、筋を通す小沢一郎氏は黙ってはいない。「不信任案が通らないと分かっている時は出しておいて、通るかもしれない、となれば出さない。こんな奇怪な話はないだろう。深刻なわが党の問題だよ」(週刊新潮6月26日号)

 これについて、有権者には「自民党と連立したいのか」という疑念や、財務省の操り人形かという深刻な疑念が広がっている。

一貫性を欠いた国民民主

 国民民主党はかろうじて9議席を得た。0から9だから大躍進かと言うと、そうではない。一時期の勢いからすれば、20議席を軽く越えていたに違いない。停滞というより失速に陥っている感じがする。

 さまざまな理由があるだろうが、やはり「大筋の疑問」が生じているのだろう。何よりも「山尾志桜里公認問題」が致命傷であった。要するに、国民民主党の参議院議員候補として彼女が適格とは言えなかったということだ。もちろん、かつての彼女の行状を問題にした人もいるが、私はむしろ思想的な面が大きかったと思っている。

 彼女はかつて立憲民主党で有数の論客であった。世間的にはかなり激しいリベラリストと見られていたし、私もそう思っていた。国民民主は自民党とは一味違う新鮮で穏健な“保守”を目指していると受け取っていたむきには、驚くほど不似合いな候補と受け取った。

 都議選の直前だっただけに、国民民主党への流れをかなりゆるめただろう。それに、「こんな判断をするなんて」と玉木氏に失望した人も少なくない。思想的、政策的な一貫性は政党にとっては命綱であろう。

新党への厳しい眼

 もう一つ、この選挙で際立った現象は「新党」への有権者の厳しい眼であろう。2024年の都知事選で健闘した石丸伸二氏の新党「再生の道」は42人の候補を擁立したが、全員が落選した。この結果は今後の各種選挙に大きな影響をもたらすだろう。

 近年、有名大卒、海外留学、官僚出身などの条件を兼ね備えた新人が幅をきかせてきたが、期待を裏切る事例も多く、有権者に戸惑いや反発をもたらしてきていた。“新人乱舞の時代”が閉幕したのだろう。言い方を変えると、ようやく人格、力量、識見を備えた新人に道が開けたとも言えよう。

幸便こうびんな受け皿・都民ファースト

 自民、立憲、国民の三党が三すくみに陥る中にあって、投票に躊躇した先に見えたのは小池百合子知事の都民ファーストだった。25議席から31議席に躍進し、都民ファースト・自・公の与党体制も改選前とほぼ同議席(72→71)で安定した。私も何人かの投票者に聞いてみたが、「結局は消去法で都民ファースト」と言う人が目立った。

 この都議選で示された有権者の民意の方向は、来月の参議院選挙に向けて強まることがあっても弱まることはない。各党は今回の結果を楽観視することなく、厳しく真剣に受け止めてほしいものだ。

 第5回
田中秀征の一言啓上

裏金、世襲、官僚機構の腐敗・暴走…政治と行政の劣化が止まらない。 この原因は1990年代に行われた「政治改革」と「省庁再編」にある。 その両方の改革を内部から見てきた元衆議院議員の田中秀征が、当時の舞台裏を解説しながら、何が間違っていたのかを斬りつつ、 今、何を為すべきなのかを提言していく。

プロフィール

田中秀征

(たなか しゅうせい)

1940年、長野県生まれ。東京大学文学部西洋史学科、北海道大学法学部卒業。83年に衆議院議員初当選。1993年6月に新党さきがけを結成し代表代行、細川護熙政権の首相特別補佐、第1次橋本龍太郎内閣で経済企画庁長官などを務める。福山大学経済学部教授を経て現在、客員教授、石橋湛山記念財団理事、「さきがけ塾」塾長。

著書に『石橋湛山を語る』(佐高信氏との共著、集英社新書)『自民党本流と保守本流』(講談社)『新装復刻 自民党解体論』『小選挙区制の弊害』(旬報社)『平成史への証言』(朝日新聞出版)など。

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