著者インタビュー

いま小倉千加子が考えていること

7年ぶりの新刊発売! フェミニズム、保育問題、そして林遣都……

小倉千加子

フェミニズムは国の政策に利用されている

──でも、小倉先生が社会の在り様やさまざまな事件に関して無関心でいられるとは思えないんですが。

小倉 そうですか? 私はそれほど正義感あふれる人間ではありませんよ(笑)。世の中をどうにかしなくちゃ、なんて考えていません。

──最近は若手の主にビジネス系フェミニストブームが起きていますし、あの『VERY』が「フェミニスト宣言」した読者モデルを誕生させました。田嶋陽子さんの再評価もありますし、ハイヒールを強制されることに異を唱える#kuToo ムーブメントの盛り上がりを見ていると、何度目かのフェミニズムブームが来ているな、と思っていました。

小倉 #kuTooに関しては「勝ち組の皆さんの贅沢な悩みですね」としか思いません。仕事があるから、窮屈なパンプスを履いて仕事をしたくない、なんて言えるんです。パンプスを履けば仕事ができるならしたい人が大勢いる社会のなかで、わりとどうでもいい問題です。それに、パンプスを履きたくないという運動は昔からありましたよ。もちろん、やらないよりはやったほうがいいとは思います。やっていることも主張も、リバイバルですよね。こうした波は今まで何度か来ています。

 私がそれよりはるかに関心があるのは、賢いちっちゃな女の子たちが、すでに男の子に「勝ちを譲る」ふるまいをすることです。運営している認定こども園でそうした光景を見るたびに「なぜなのか」「どうしたらいいのか」と心配しています。最近の母親たちの子供ですし、家ではたいてい母親が強いはずですから、男の子に勝ちを譲る理由がわからない。ジェンダー問題で私が今、もっとも考えている問題です。答えが見つからない。

 ひとつ考えられるのは、女の子はかわいくなければならない、という価値観の浸透です。昔の子供は男女で似た風貌でした。最近の女の子はプリキュアのキャラクターのようにかわいくなりたいんですよね。なぜでしょう。今は「かわいさ」で勝つのが得策と子供心に感じるからでしょうか。

──やはり、運営されている認定こども園から見える諸問題に今は関心が向いていますか。本書でも言及が多いテーマですね。

小倉 保育の現場は本当に大変です。こんなに長時間にわたって子供を預かる国が他にあるでしょうか。中には11時間も園にいる子供も少なくありません。子供は自分の家にいる権利があるのに、いられない。帰ったら、お風呂に入って寝るだけです。

 私は、「移民より女性の労働力」を推進しようとする国の政策によって、フェミニズムが利用されている気がするんです。今、フルタイムで働いている母親たちは「子供を産んでも働き続けるのが当たり前」という世代で必死に働いていて、へとへとです。でも、子供たちもへとへとなんです。さらに言えば、保育士にも子供がいます。親が迎えになかなか来られなければ、彼らも自分の子供たちに会えません。これは誰が得する社会ですか? 財界ですか? 保育園無償化は税金が財源ですが、財界が払えばいいでしょう。女性が経済的に自立するのはとても大切です。だけど、自立させたのちに国がやりたかったのは、こういうことか、という怒りがあります。絶対にどこかがおかしい。

 ただ『草むらにハイヒール』の中で、私がこのテーマについて書いた文章は全然面白くないの。笑いがないから。文章に芸がないから。保育問題の部分はこの本に収録したくなかったくらい。だって、保育の現場を見ている私はこの問題について考えだすと、フェミニストとしてブレてしまうんです。働く母親たちを応援したい一方で、午後2時には迎えにきてあげてほしい、という気持ちがある。税金で賄ってもらっていない専業主婦の皆さんはえらい、とも思う。引き裂かれる思いです。

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プロフィール

小倉千加子

おぐら・ちかこ

1952年、大阪府生まれ。心理学者。保育士。早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士過程修了。大阪成蹊女子短期大学、愛知淑徳大学文化創造学部教授を経て、執筆・講演活動に入る。長年にわたり、本業のジェンダー・セクシャリティ論からテレビドラマ、日本の晩婚化・少子化現象まで、幅広く分析を続けてきた。現在は認定こども園を運営し、幼稚園と保育所の連携に関心を深めている。著書に『醤油と薔薇の日々』『シュレーティンガーの猫』(いそっぷ社)、『増補版・松田聖子論』『結婚の条件』(朝日文庫)、『オンナらしさ入門(笑)』(理論社 よりみちパン!セ)など多数。

 
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