何度説明したらわかるんだ? 最近の若者ときたら! と内心ひそかに舌打ちしたことはないだろうか。
しかし、あなたの言葉が上手く伝わらないのは相手の理解力不足によるのではなく、あなたの説明の仕方に問題があるからなのかもしれない。そんな経験をしたことがある方こそ、本書に目を通してみると面白いのではないだろうか。
例えば、本書には、電気炊飯器で米を炊いたことすらない高校生に飯盒炊さんのやり方を教えるにはどう説明すればよいかという例題があるので、挑戦してみるとよい。解答例を読むと、ここまで丁寧な説明をしなければいけないのかと驚かされる。
「驚いてもらえれば成功です。国語なんてもうわかっていると思い込んでいる大人たちへの、ある種のショック療法のつもりで問題を考えています」
驚かされるばかりではなく、なぜそう書く必要があるのかも説明されているので納得させられる。その解説も明快でときに軽妙、読んでいて楽しい。
本書は「1 相手のことを考える」「2 事実なのか考えなのか」「3 言いたいことを整理する」「4 きちんとつなげる」「5 文章の幹をとらえる」「6 そう主張する根拠は何か」「7 的確な質問をする」「8 反論する」の8章構成。それぞれに練習問題と解答例がある。
しかも、この練習問題に使われている例文がまた面白い。モーツァルトの髪型や運動会の発祥についての蘊蓄(うんちく)、山中でクマに遭遇したときの対処法など、例文を読んでいるだけで豆知識が得られる。問題を解けば教養が身につき、日本語スキルもアップするという、一冊で二度おいしい本である。
さらに、本文のところどころにマンガ(画・仲島ひとみ)が挿入されているのもうれしい。リコ、トビオ、ハナ、ヒロシの四人の高校生が、本文の内容を受けてワイワイガヤガヤとやりとりをしたり、ボケてみたり、時には著者の説明にツッコミを入れたりする。この四人の愉快な仲間とともに、ああでもないこうでもないと言葉について考える。そんな楽しいゼミに参加してみませんか?
文責:広坂朋信
※季刊誌「kotoba」30号に掲載の著者インタビューを一部修正の上、転載しています。
プロフィール
哲学者。専門は現代哲学・分析哲学。1954年、東京生まれ。85年、東京大学大学院理学系研究科科学基礎論専門課程博士課程単位取得退学。北海道大学文学部助教授を経て、2008年より東京大学大学院総合文化研究科教授。著書は2017年に第29回和辻哲郎文化賞を受賞した『心という難問──空間・身体・意味』(講談社)をはじめ、『論理トレーニング』(産業図書)、『論理トレーニング101題』(産業図書)、『ウィトゲンシュタイン「論理哲学論考」を読む』(哲学書房、後にちくま学芸文庫)など多数。