著者インタビュー

「本質観取」は世界平和にも貢献できる! 哲学者たちが日本中に広めようとする納得の理由

『本質観取の教科書』著者インタビュー後編
苫野一徳×岩内章太郎×稲垣みどり

本質観取の哲学的な意味

岩内 いま思いついたんですが、本質観取には哲学的な意味もあると思うんです。私が大学の学部生だったのは2000年代でした。私の出身は国際教養学部で、竹田青嗣先生が所属していたところです。当時は相対主義の全盛期でした。

 ポストモダン思想が流行ったのは1960年代後半くらいからですが、1990年代から2000年代にかけてはポストモダンそのものよりも、それを理論的基盤にしたジェンダー論とかカルチュラルスタディーズが大々的に展開されていました。そこでは「人それぞれ」とか「差異」というものが大事にされていたんです。つまり、違いを大切にしよう、というわけです。

 そんな空気の中で「本質」とか「普遍性」なんて言おうものならボロクソに批判されます。いまだに覚えているんですが、私が授業内で普遍性ということを言ったら、「お前が言う普遍性って何なんだ!」と、クラスメイトや先生から厳しく突っ込まれたこともありました。

 いま『本質観取の教科書』がこれほど一般に広く受け入れられている背景には、単に「対話が大事だよね」という関心以上のものがあると私は思っています。やっぱり「人それぞれ」とか「多様性」と言っているだけでは限界があるということを、みんな感じ始めているんじゃないでしょうか。

 それは決して学問の世界だけに限った話じゃなくて、普通の人たちが生きている中で、単に多様なだけじゃダメだよね、多様性って何のためにあるんだっけ、ということを悩んでいる結果だと思うんです。

──「人それぞれ」を突き詰めていくと、究極的には「なんでもアリ」になってしまう。そうではなくて、誰もが納得できるような「普遍的な」正義や善といったものを模索すべきなのではないか、という議論ですね。

 岩内さんは『新しい哲学の教科書』(講談社選書メチエ)や『<普遍性>をつくる哲学』(NHKブックス)などのご著書で普遍性の問題を論じられていますが、『本質観取の教科書』もその延長上にあるのですね。

岩内 この間も東京の高校で講演をしたんですが、「多様性って何なんですかね?」という質問が出ました。やっぱり中高生も肌感覚として、そういうことについてちゃんと考えたいと思っているんだな、と。そういう文脈の中で『本質観取の教科書』が一般向けの新書として世に出たことには時代的な意味があると思うんです。その重要性はこれから先も、まだまだ伸びていくんじゃないでしょうか。

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本質観取の教科書 みんなの納得を生み出す対話

プロフィール

苫野一徳×岩内章太郎×稲垣みどり

苫野一徳(とまの いっとく)

哲学者・教育学者。熊本大学大学院教育学研究科准教授。早稲田大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。主な著書に、『どのような教育が「よい」教育か』(講談社)、『勉強するのは何のため?』(日本評論社)、『教育の力』(講談社現代新書)、『「自由」はいかに可能か』(NHK出版)、『子どもの頃から哲学者』(大和書房)、『はじめての哲学的思考』(ちくまプリマー新書)、『「学校」をつくり直す』(河出新書)、『ほんとうの道徳』(トランスビュー)、『愛』(講談社現代新書)、『NHK100分de名著 苫野一徳特別授業 ルソー「社会契約論」』(NHK出版)、『未来のきみを変える読書術』(筑摩書房)、『学問としての教育学』(日本評論社)、『『エミール』を読む』(岩波書店)、『親子で哲学対話』(大和書房)などがある。

岩内章太郎(いわうち しょうたろう)

1987年札幌生まれ。哲学者。豊橋技術科学大学准教授。早稲田大学国際教養学部卒業、同大大学院国際コミュニケーション研究科博士後期課程修了。博士(国際コミュニケーション学)。早稲田大学国際教養学部助手等を経て現職。専門は現象学を中心とした哲学。「普遍性をつくる哲学」を社会実装するため、「市民性」と「共生」をキーワードにして、全国各地で哲学対話を実施。著書に、『星になっても』(講談社)、『<私>を取り戻す哲学』(講談社現代新書)、『<普遍性>をつくる哲学:「幸福」と「自由」をいかに守るか』(NHKブックス)、『新しい哲学の教科書:現代実在論入門』(講談社選書メチエ)、『本質観取の教科書:みんなの納得を生み出す対話』(共著・集英社新書)、『現象学とは何か:哲学と学問を刷新する』(共著・河出書房新社)、『交域する哲学』(共著・月曜社)など。

稲垣みどり(いながき みどり)

東京生まれ。早稲田大学教育学研究科で修士号(教育学)、早稲田大学大学院日本語教育研究科で博士号(日本語教育学)を取得。早稲田大学国際教養学部助手、東京国際大学日本語専任講師、山梨学院大学国際リベラルアーツ学部特任准教授を経て、現在順天堂大学国際教養学部准教授。年少者日本語教育、継承語教育への関心から、複言語環境で成長する子どもの言葉の教育および異文化間教育の分野の研究の分野で「複言語育児」の概念を提唱する。現在の主たる研究関心は現象学を原理とする哲学対話。言語教育の領域で哲学対話による対話活動を共生社会のための言語教育の実践と位置づけ、その理論と実践の普及に努めている。

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