「本質観取」は世界平和にも貢献できる! 哲学者たちが日本中に広めようとする納得の理由
苫野一徳×岩内章太郎×稲垣みどり本質観取はファシリテーションが命
──今回の新書に対するSNS上の意見や感想を見ていると、どれだけ深い本質観取ができるかはファシリテーターの腕前に依存してしまうのでは? との声が見られました。実際はどうなのでしょうか。
苫野 ファシリテーターの力量はとても重要です。だからこそ、『本質観取の教科書』ではファシリテーションのコツをかなり詳しく書きました。これを読んで、たくさん経験を積んで、ぜひ習熟していただきたいなと願っています。
かつて350人で本質観取をやったことがあります。
──そんな大人数で!
苫野 これほどの大人数でも、結構うまく行くんですよ。グループ対話と全体対話を交互に進めていくんです。
グループで対話する人たちは、みんな本質観取もそのファシリも初めてでした。その場合も、経験豊富なファシリテーターが全体対話のファシリをすれば、ある程度深い本質観取が可能です。
でも、質の高い本質観取の対話をするには、やっぱり各グループでもファシリテーターを決めて、その方々にあらかじめコツを共有しておいたほうがいいな、と最近は考えています。
──事前の準備や勉強はどうすれば良いのか、という声がSNSでは見られました。やはり究極的には、場数をこなして経験を積むしかないのでしょうか。
苫野 本にも書きましたが、知識の量はあまり関係ありません。参加者が自らの経験に基づいて対話するのが本質観取なので。
岩内 経験を積むしかないと思いますね。私も今年度、地域の図書館などでファシリテーター養成講座を開催したんですが、やっぱり関心を持っている方が多いみたいです。地方議員の方も来ていました。皆さん、ファシリテーションは難しいと感じているらしくて。最初に一定程度コツを伝えてあげて、あとは自分たちで試してもらうという形にしました。
稲垣 日本語教育では、ファシリテーションにおいて一番問題になるのは学習者の日本語のレベル、というか習熟度です。それによってファシリテーターの難易度が変わってきます。よく質問されるのは、まだ日本に来て間もない、日本語が初級の人たちにどうやって日本語で対話すれば良いんですか、ということです。
まだあまり複雑なことは言えない。でも、母国語ではすごくレベルの高いことを考えていて……という学習者。そんな人たちの日本語をどのように引き出しながらやっていくのか、というのは日本語教育におけるファシリテーターの最大の課題だし、チャレンジしがいのあるところですよね。
私がいま構想しているのは、色々な日本語学習者のレベル別に「それぞれこういうファシリテーションの仕方があるよ」ということをもっとわかりやすい形で提示できたら、現場で役に立つようなテキストになるだろうな、と。複言語など、皆さんの言語リソースを十二分に活用しながらファシリテーターをどのようにやっていくのか、ということを考えていきたいと思っています。
プロフィール

苫野一徳(とまの いっとく)
哲学者・教育学者。熊本大学大学院教育学研究科准教授。早稲田大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。主な著書に、『どのような教育が「よい」教育か』(講談社)、『勉強するのは何のため?』(日本評論社)、『教育の力』(講談社現代新書)、『「自由」はいかに可能か』(NHK出版)、『子どもの頃から哲学者』(大和書房)、『はじめての哲学的思考』(ちくまプリマー新書)、『「学校」をつくり直す』(河出新書)、『ほんとうの道徳』(トランスビュー)、『愛』(講談社現代新書)、『NHK100分de名著 苫野一徳特別授業 ルソー「社会契約論」』(NHK出版)、『未来のきみを変える読書術』(筑摩書房)、『学問としての教育学』(日本評論社)、『『エミール』を読む』(岩波書店)、『親子で哲学対話』(大和書房)などがある。
岩内章太郎(いわうち しょうたろう)
1987年札幌生まれ。哲学者。豊橋技術科学大学准教授。早稲田大学国際教養学部卒業、同大大学院国際コミュニケーション研究科博士後期課程修了。博士(国際コミュニケーション学)。早稲田大学国際教養学部助手等を経て現職。専門は現象学を中心とした哲学。「普遍性をつくる哲学」を社会実装するため、「市民性」と「共生」をキーワードにして、全国各地で哲学対話を実施。著書に、『星になっても』(講談社)、『<私>を取り戻す哲学』(講談社現代新書)、『<普遍性>をつくる哲学:「幸福」と「自由」をいかに守るか』(NHKブックス)、『新しい哲学の教科書:現代実在論入門』(講談社選書メチエ)、『本質観取の教科書:みんなの納得を生み出す対話』(共著・集英社新書)、『現象学とは何か:哲学と学問を刷新する』(共著・河出書房新社)、『交域する哲学』(共著・月曜社)など。
稲垣みどり(いながき みどり)
東京生まれ。早稲田大学教育学研究科で修士号(教育学)、早稲田大学大学院日本語教育研究科で博士号(日本語教育学)を取得。早稲田大学国際教養学部助手、東京国際大学日本語専任講師、山梨学院大学国際リベラルアーツ学部特任准教授を経て、現在順天堂大学国際教養学部准教授。年少者日本語教育、継承語教育への関心から、複言語環境で成長する子どもの言葉の教育および異文化間教育の分野の研究の分野で「複言語育児」の概念を提唱する。現在の主たる研究関心は現象学を原理とする哲学対話。言語教育の領域で哲学対話による対話活動を共生社会のための言語教育の実践と位置づけ、その理論と実践の普及に努めている。









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