プラスインタビュー

なぜいま「在野研究者」なのか

『在野研究ビギナーズ』編著者・荒木優太氏インタビュー
荒木優太

大学や研究機関に所属せず、在野で研究を続けている人たちがいる。変わり者と思われがちだが、中には驚くほど高いレベルでの成果を挙げている人物も存在する。そんな現代の在野研究者たちの生き方に光をあてた編著『在野研究ビギナーズ──勝手にはじめる研究生活』(明石書店)が話題になっている。編著者の荒木優太さんにお話をうかがった。

──荒木さんはご自身も在野研究者であるということですが、今回のような本を出版されたということは、ご専門は「在野研究者研究」ということになるのでしょうか……?

荒木 いえいえ、そう思われかねないことは自覚していますが(笑)、私の研究分野はあくまで日本近代文学研究で、なかでも有島武郎を専門にしています。

──有島武郎(1878~1923)といえば、明治・大正期に活躍した白樺派の文学者ですね。しかし、これまでのご著書を見ても、南方熊楠(博物学)から小阪修平(哲学)までの16人の在野研究者の評伝をまとめた『これからのエリック・ホッファーのために──在野研究者の生と心得』(東京書籍)や、ハンナ・アーレント、エマニュエル・レヴィナス、ジョン・ロールズを手がかりに現代の思想状況を縦横に論じた『無責任の新体系──きみはウーティスと言わねばならない』(晶文社)のような華々しい評論が目立ちます。有島文学の専門家の仕事という感じがしないのですが……?

荒木 自分では有島武郎研究が本業だと思っているのですが、おかげさまでだれも興味ないので、まったく伝わってないって感じですね(笑)。私の個人史から見ると、高校時代からずっと有島研究をやっているわけですが、有島とその周辺の作家の書いたものだけを読み続けていると、同じような文体だし、そもそも同じ時代だし……読んでいて飽きてくるんですよね(笑)。そこで、ちょっと別のものも読みたいなと思って、例えばロールズとか、レヴィナスとか、違うジャンルに浮気する。

この浮気がたまってくると、「これは研究ではないけれども論理的な文章・知的な文章が書けるな」という直感が来る。それで書いてみたのが、例えば『群像』で優秀作に選んでいただいた「反偶然の共生空間」でした。そこから「偶然」というテーマを発展させて、『仮説的偶然文学論』(月曜社)を書いたりとか、あるいはロールズ論の弱いところを私なりにアップデートして『無責任の新体系』を書いたりしてみました。

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プロフィール

荒木優太

1987年東京都生まれ。在野研究者。2015年、「反偶然の共生空間──愛と正義のジョン・ロールズ」が第59回群像新人賞優秀作に選ばれる。著書に『これからのエリック・ホッファーのために──在野研究者の生と心得』(東京書籍)、『仮説的偶然文学論』(月曜社)、『無責任の新体系──きみはウーティスと言わねばならない』(晶文社)などがある。最新刊は『在野研究ビギナーズ──勝手にはじめる研究生活』(明石書店、編著)。

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