その医療情報は本当か 第8回

「健康食品」の表示には法律規制あり。「やせ薬」「美容医療」には国が注意喚起

田近亜蘭

医療や健康に関する情報を「広告」するには、さまざまな法律による規制があります。医療機関や商品を販売するメーカー、医師、事業主らが言いたいことを言ってよいのではありません。

前回(第7回)は、医療法や医療広告ガイドラインに基づいて、主に医療機関のウェブサイトに関する広告のNG表現を例示し、なぜ禁止なのかを見ていきました。

ほかにも、同様のことで重要となる法律はいくつかあります。とくに健康食品やサプリメント、医療機器、健康グッズなどのウェブサイト上の広告では、規制のスキをつくような表現が並んでいます。

医療や健康食品に関する法律など自分には関係がない、と思われるかもしれません。しかし、そのシステムや活動はこうした法律に基づいて実施されていることを知っておくと、本連載のテーマである「医療情報の真偽を確かめる」際の役に立つでしょう。

今回は、健康食品や医薬部外品、医療機器などに関する広告表現について、規制している代表的な法律の「医薬品医療機器等法(薬機法)」「健康増進法」「景品表示法(景表法)」を紹介しておきます。

健康食品はあくまで「食品」

前回に伝えた「医療広告の規制」の内容は、医科と歯科のクリニック、病院、診療所などの医療機関による広告表現の禁止や規制の具体的なことがらでした。

もうひとつ、多くの人が迷うのは、健康食品・サプリメント・医療機器・健康グッズなどの情報の選びかただと思われます。    

薬機(やっき)」(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)という法律を耳にしたことはありますか。2014年に改正された「旧薬事法」のことです。現在の正式名称が長いので、略して「医薬品医療機器等法」や「薬機法」と呼ばれています。所管は厚生労働省です。

この法律の目的は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療用具などについて、製造・販売・安全対策まで規制し、適正化をはかることです。これらを扱う事業者は、薬機法に従わなければなりません。

特に気をつけたいのは「健康食品やサプリメント」の広告です。

まず、健康食品とサプリメントはどう違うのでしょうか。日本では、「薬機法」にて、医薬品、医薬部外品、化粧品は定義がされていますが、健康食品やサプリメントは行政上の定義がありません。そのため、これはこうなのだという違いはありません。

一般に、「健康食品とは、なにやら体やメンタルに良さそうな食べものや飲みもの」、「サプリメントとは、その錠剤やカプセル状のもの」というイメージで認識されていると思われます。

では、健康食品やサプリメントの行政上の分類はどうなるのでしょうか。定義がないので、実はあくまで「一般食品」になります。ここがポイントです。

食品であるからには、あたかも医薬品のように、病気や症状、心身の機能への効果や効能をうたったり、広告したりすることはできません。また、「毎食後に飲む」とか「1回に2粒」といった飲むタイミングや分量の指定もできません。

例えば、「この食品を1日3回、3カ月間食べ続けると、2キログラムはやせる」「〇〇ドリンクを1カ月飲んでがんが治ったという人がいます」といった表現は、薬機法違反となります。

■「トクホ」「機能性表示食品」は定義がある

ただし、健康食品の中でも、「保健機能食品」である(1)「特定保健用食品」(トクホ)、(2)「栄養機能食品」、(3)「機能性表示食品」の3種類については、それぞれ次の場合に、機能に関する定められた表示が可能です。

(1)事業者が消費者庁長官に許可を得た場合

(2)科学的根拠がすでに確認されている指定の栄養成分(ビタミンやミネラルなど)を基準量含む場合(国に届け出の必要はない)

(3)科学的根拠などが消費者庁長官へ届け出られた場合(審査はなし)

これらは「健康増進法」(後述)などで定義されています。

そもそも「機能性がある」とはどういうことかというと、「ある栄養素が体に作用して健康の維持に役立つ」という意味合いになります。    

この3種の保健機能食品であっても、パッケージや説明書、また広告に、病気が治るとか、症状が改善するとか、例えば、「血圧が下がる」とか「風邪が治る」とか「体重が減る」など、また「美白」や「増毛」といった、体に変化が起きるような文言を表示することはできません。

患者さんによっては、サプリメントを医薬品だと勘違いされて、処方薬との飲み合わせを質問されることがあります。医薬品は「病気の治療」を目的として、配合有効成分の効果が厚生労働省に認められた薬のことです。一方、健康食品は、健康な人が健康の維持を期待して飲食する食品です。

医師は、保健機能食品を含め、食品である健康食品やサプリメントについて、返答はできません。

まずは医薬品と健康食品やサプリメントのこうした違い、またそれぞれの目的を理解し、自分は何のためにその薬や食品を摂取しようとしているのかを考えましょう。

うその表示、大げさな表示は法律で禁止されている

先述の「健康増進法」とは、2003年5月に施行された法律で、所管は厚生労働省です。

健康食品やサプリメントに関することでは、「何人も食品として販売に供するものについてその健康の保持増進の効果等に関し、(A)著しく事実に相違する表示をし、または(B)著しく人を誤認させるような表示をしてはならない」(A、Bは著者による記述)とされています。

法律上、(A)を「虚偽表示」、(B)を「誇大表示」と呼んで、注意を喚起しています。それぞれについて、厚生労働省は文書で次のように説明しています。

(A)虚偽表示・事実と違う表示

・十分な実験結果等の根拠が存在しないにもかかわらず、「3か月間で○キログラムやせることが実証されています」と表示する

・体験談

・体験者や推薦者が存在しないにもかかわらず体験談をねつ造した、ねつ造された資料を表示した場合など。

(B)誇大表示・人を誤認させる表示(「印象」や「期待感」と実際の結果が違う)

・特定の成分について、健康保持増進効果等が得られるだけの分量を含んでいないにもかかわらず、生活習慣を改善するための運動等をしなくても、とり過ぎた栄養成分もしくは熱量、または体脂肪、もしくは老廃物質等を排出し、または燃焼させることをイメージさせる。

・メリットとなる情報を断定的に表示しているにもかかわらず、デメリットとなる情報(効果が現れない者が実際にいること、一定の条件下でなければ効果が得られにくいこと等)が表示されていない。

・体験者、体験談は存在するものの、一部の都合の良い体験談のみや体験者の都合の良いコメントのみを引用するなどして、誰でも容易に同様の効果が期待できるかのような表示がされている。

・健康保持増進効果等について公的な認証があると表示しておきながら、実際には、当該効果等に係る認証を受けていない。

・根拠となる学術データのうち、当該食品にとって不都合な箇所を捨象(排除や切り捨ての意)し、有利な箇所のみを引用する。

どちらも、前回(第7回)で紹介した医療広告に関する「虚偽広告の例」や「誇大広告の例」も参考にしてください。

参考まで、同法は、「健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動)」に基づいた国民の健康づくり・疾病予防を推進するために、医療制度改革の一環としてつくられた法律です。

2020年4月には「改正健康増進法」が施行され、これには「望まない受動喫煙を防止する」ために、病院、診療所、学校、児童福祉施設、行政機関などでは敷地内禁煙を、事務所、工場、ホテル、旅館、飲食店(経営規模が小さい場合は除く)では原則屋内禁煙などの規則が設けられています。

著しく優れている・有利性をうたう表示は禁止

もうひとつ、「景品表示法」(1962年施行。現在の所管は消費者庁)という、健康食品やサプリメントの表示規制が規定されている法律を紹介しておきます。

同法は一般消費者の保護を目的に制定され、不当な表示には次の3つがあるとしています。

例えば「このダイエット食品は痩身効果がすごい」 と広告するなど、商品やサービスの品質、規格、そのほかの内容が著しく優良だとする「優良誤認表示」、また、「歯列矯正〇〇円」として実際には矯正装置の費用が別途かかることを記さないなど、価格を著しく安く有利に見せかける「有利誤認表示」、ほか「誤認されるおそれがある表示」を指します。

これらの法律により、第7回で紹介した医療広告の規制と同様に、うその表示はもちろん、お得感を訴えながらも実際には得ではないといった、「期間限定割引をうたいながら期間後も同じ価格だった」とか、「小さな文字による注意書き」なども不当表示となります。

消費者庁の公式ウェブサイト『事例でわかる景品表示法 不当景品類及び不当表示防止法 ガイドブック』では、事例や実際にあった違反などが掲載されています。読めば読むほどに「こんな表示、あるある~」と思います。

気になる健康食品やサプリメントの説明書や広告の表示で違和感を覚えることもあるでしょう。一般消費者が信じやすい表示や広告をする商品には、心理学で説明できる仕掛けが意図的に施されていることが多いと考えられます。その仕掛けについては次回に紹介します。

第7回で紹介した医療広告も含め、まぎらわしい表現だなあ、いいことばかり書いてあるけれど本当かなあ、価格がえらく安いなあ、などと思った場合はいったん冷静になり、信頼する人に相談するなど再考してみてください。

オンライン診療の「やせ薬」処方でトラブルが続く

この原稿を書いている真っ最中に新聞各紙や各ニュース番組で、『オンライン診療、「やせ薬」に注意 国民生活センター』(朝日新聞 2023年12月21日夕刊)、『“ダイエット”オンライン診療で糖尿病の治療薬処方 相談相次ぐ』(日テレNEWS 同12月20日)といったニュースがいっせいに報道されています。

国民生活センターが同20日に公式ウェブサイトで、「ダイエットを目的として、オンライン診療で医療機関から糖尿病の治療薬を処方されたことで、さまざまなトラブルが相次いでいる」と注意喚起したことを受けているようです。

具体例として同センターのウェブサイトには、次のことが挙げられています。

「基礎疾患の問診、副作用について説明が不十分なまま、自由診療の自費で初診時に数カ月分の糖尿病治療薬が処方される」

「医薬品だから定期購入の中途解約ができないと言われた」

「そもそも糖尿病の治療薬だとは聞いていなかった」

「基礎疾患の問診がなく、処方された薬で副作用が出た」

「オンライン診療サイトの運営と医師やクリニックの役割が判然としない」

また、「2020年9月にも、痩身をうたうオンライン診療について、説明不足や解約・返金等のトラブルにかかる注意喚起を行ったがその後も相談が増えています」とも記したうえで、「糖尿病治療薬は痩身目的の使用に関して安全性と有効性は確認されていません」などの注意も呼びかけています。

費用の問題以前のこととして、糖尿病ではない人が糖尿病治療薬を使用すると、正常な糖の代謝やすい臓への悪影響をはじめ、多くの副作用が想定されます。医師のひとりとしてとても恐ろしいことだと考えています。絶対にやめましょう。

図1 「国民生活センター」が「痩身目的のオンライン診療トラブル」と題して啓発資料をウェブサイトで公開しています。

情報通信技術の進歩により、医療機関が少ないエリアの人や、受診が困難な状況にある人への有用な医療提供機関として、「オンライン診療」が行われるようになってきました。しかし診察法の原則は、これまでどおりの対面診療です。

オンライン診療の実施には厚生労働省が医療者向きに定めたガイドラインがあり、それは公的医療保険適用の診療だけではなく、自由診療においても適用されます。医療機関や医師が、自由診療だからといってその指針を無視したオンライン診療を実施してよいわけではありません。

国民生活センターが警告する上記のケースでは、オンライン診療の手軽な面を医療機関や医師が不適切に利用しているとも考えられます。それが消費者の間違った選択をまねき、トラブルに発展している事態と言えるでしょう。

そしてこの問題は、2023年春に日本で使用開始となった糖尿病治療の新薬をいわゆる「やせ薬」として自費で購入する人が急激に増えたこと、またそのことで本当に必要とする糖尿病の患者さんに行き届かないという深刻な事態も含んでいます。

「医療痩身」「メディカルダイエット」「美容医療」などとうたう自由診療における種々のトラブルは、ずいぶん前からありました。知人から具体的に耳にしたことも幾度となくあります。

公的機関や身近な人にも相談できずに、ひとりで悩む人も多いかもしれません。なんらかの問題に発展した場合はまず、「消費生活センター」に相談してみてください。

医療に関する公的相談機関がある

医療に関して悩みや困ったことが生じたとき、無料で相談ができる公的な機関があります。前述の消費生活センターと同じく、こちらも意外に知られていないようなので、ここで紹介しておきます。

医療安全支援センター」といい、医療法(第7回参照)に基づいて、「都道府県、保健所を設置する市および特別区」が運営し、全国で380以上が設置されています。その概要や設置先は同ウェブサイト(上記リンク先)を見てください。

同サイトには「こんなときに相談してください」と、次のような悩みの事例が記されています。

「多くの検査を受けたが、検査の必要性が理解しづらい」

「主治医以外の先生の話も聞きたいが、主治医にどう切り出してよいかわからない」

「手術後の経過が思わしくないのでカルテの開示を求めたいが、お願いできるのか」

「院内処方と院外処方とは何か違いがあるのか」

「現在使用している薬の服用について詳しく知りたい」    

いずれも、よく耳にする不安や悩みではないでしょうか。

また、「政府広報オンライン」では「美容医療サービスの消費者トラブル サービスを受ける前に確認したいポイント」というウェブサイトを、消費者庁も「美容医療を受ける前に確認したい事項と相談窓口について」を公開して、チェックリストや相談窓口を掲載しています。

相談窓口は前述の「医療安全支援センター」と同じで、いくつかのリンク先が重なることもありますが、閲覧していると、こうしたトラブルがとても多いのだろうことが透けて見えます。

図2 消費者庁・厚生労働省・国民生活センターが同時に呼びかける「美容医療を受ける前にもう一度」というチェックシート(簡易版)。2ページめがあるのでリンク先を確認してください。

これらの機関を活用すると、自分にとってより身近で具体的な回答が得られることもあるでしょう。気を臆することなく、大いに活用しましょう。

次回は「直感による判断」や「思い込み」、「数字のトリック」について考えます。

構成:阪河朝美/ユンブル

 第7回
第9回  
その医療情報は本当か

医療リテラシーの定義は「医療や健康情報を入手・理解・評価・活用するための知識、意欲、能力」とされている。その実践法として、医療の定説やメディアで見聞きする医療情報の読み取りかたを数字、グラフ、情報の質を中心に説明し、また適切な情報を見分ける方法とその活用法を紹介する。

プロフィール

田近亜蘭

たぢか・あらん 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野准教授。医学博士。精神科専門医・指導医。精神保健指定医。京都大学大学院医学研究科博士課程医学専攻修了。関西医科大学精神神経科・医局長、京都大学医学部附属病院精神科神経科・外来医長などを歴任 。

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「健康食品」の表示には法律規制あり。「やせ薬」「美容医療」には国が注意喚起