その医療情報は本当か 第7回

医療広告に「患者の体験談」「医療脱毛の回数無制限」「施術前後の写真」は禁止

田近亜蘭

第5回第6回で、「エビデンスに基づいた確かな医療情報とはどこを探せばいいのか」について、誰もが無料で閲覧できる具体的なウェブサイトを紹介しました。つづいて今回は、医療機関による広告の表現で、禁止されている事項について紹介します。

医療や健康に関する広告には、患者さんや消費者を保護する観点から、法律に基づいたさまざまな規制があります。今回はまず、厚生労働省が作成した「医療広告ガイドライン」を取り上げ、何を広告してはいけないのか、その事例を具体的に取り上げ、一般の人を勘違いさせやすい、不適正な表現を見抜くポイントを見ていきます。

2018年にようやくウェブサイトも広告規制の対象に

一般にはあまり知られていないかもしれませんが、日本には1948(昭和23)年に施行された、厚生労働省が管轄する「医療法」という法律があります。病院、診療所、介護老人保健施設、調剤薬局などがどういう機関であるか、それらの開設、管理、監督の方法などを定めています。

その医療法では、医療機関による広告の方法、内容、表現について、くり返しますが、患者さんや利用者の安全と保護のために、「虚偽または誇大等の表示を禁止。是正命令や罰則等の対象とすること」という規制があります。

同法の成立時から、パンフレット、チラシ、看板、新聞、雑誌、放送などに掲出する広告では、医療機関が表記可能な項目の規制がありました。ただし古い時代の制定のため、ウェブサイトに関しては、2018年に医療法の一部改正が施行されるまでは規制の対象ではなく、長く医療機関が自由に記述していました。

しかし、同法の改正により、ようやく、広告規制の対象範囲が単なる「広告」から「広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」へと変更され、ウェブサイトによる情報提供もほかのメディアと同じく規制の対象となったのです。メルマガ、ブログも同様です。

その背景には、美容医療に関する相談件数が増大していたことがあると厚生労働省などが発表しています。

そこで、ウェブサイトの適切なあり方について厚生労働省は、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン。以下同)」(現時点で2023年10月最終改正)を、および「医療広告ガイドラインに関するQ&A」を作成、公表しています。

さらに同省は、「実際に医療広告規制への抵触が認められた事例や、医療広告規制の内容の周知が必要と考えられた事例等をもとに」(同省の発表資料より引用)、「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書」を2021年7月に作成、現時点で2023年10月最終改訂の第3版が公表されています。

これらにより、医療機関によるウェブサイトへの広告についても禁止事項に違反するような表示、表記があれば、行政による立ち入り検査や是正命令、また罰則の対象となります。

■禁止されている広告内容

医療広告ガイドラインなどは、誰もがネット上で閲覧できますが、どちらかというと患者さんら一般の人向きではなく、医療機関や広告代理店など広告を作成して掲示する側のための手引書になっています。

ただ、わりに平易な文で読みやすく、一般の人が医療機関の広告に対して疑問を覚えたときの参考になるだろうと考えます。

医療法での「禁止の対象となる広告の内容」には、次の項目があります。

(1)虚偽広告

(2)比較優良広告

(3)誇大広告

(4)公序良俗に反する内容の広告

(5)広告可能事項以外の広告

(6)患者の主観に基づく体験談

(7)治療等の前、または後の写真

そして、これらの適用はウェブサイトをはじめ、ダイレクトメール、Eメール、新聞、雑誌、放送、チラシ、パンフレット、ポスター、看板、不特定多数の者への説明会、相談会、キャッチセールス等において使用するスライド、ビデオまたは口頭で行われる演述によるものなど、各種の媒体が対象となります。

また、医療広告の規制の対象者には、「医師、歯科医師、医療機関だけではなく、マスコミ、広告代理店、アフィリエイター、患者、一般人など」も含まれます。

ではそれぞれに関して、具体的な例を見ていきましょう。

■(1)虚偽広告の例

次のようなキャッチコピーや文章は禁止されていること(主に同事例解説書と医療広告ガイドラインより引用、もしくは一部改変)と、その理由を簡潔に書き添えます。なお、★印の項目は、2023年10月改正の「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(第3版)」にて新規作成されたものです。

●「どんなに難しい症例でも必ず成功させます。」「絶対安全な治療です。」

医学上、ありえない。

●「即日インプラント治療 一日ですべての治療が終了します。」

治療後も定期的な処置等が必要であるのに、すべてが1日で終了するかのように記している。

●「医療脱毛 患者様満足度99%」

「当院における〇〇療法の発毛率は99%です。」

データの根拠を明示せずに「満足度」を示すこと、また、治療の効果についてデータの結果と考えられるもののみを示すことは禁止。

★加工・修正した術前術後の写真等の掲載

解説書では、事例(図1参照)として歯のホワイトニングを取り上げ、「実際には施術していないフリー素材の画像やイラスト、また人物写真等を分割し、片方のみ美しく修正するといった加工を施して、あたかも術前・術後の治療の成果のように見えるイメージを掲載している」と、虚偽広告に分類している。

図1 『医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(第3版)』より。

■(2)比較優良広告の例

他院と比較して、自院が優良であるという表現は、客観的事実であっても禁止されています。

●「〇〇がんの治療では、日本有数の実績を有する病院です。」

「当院は県内一の医師数を誇ります。」

「本グループは全国に展開し、最高の医療を広く国民に提供しております。」

 「日本一」「№1」「最高」などの最上級や、優秀性について著しく誤認を与える表現は、客観的な事実であったとしても禁止。

●「〇〇県で同じ治療の△△医院や▽▽クリニックより安く受診できます。」

「当院は美容外科手術における脂肪吸引術の件数において日本一の実績を有しています!」

 他の医療機関と比較して、自身の医療機関の優良性を示す表現は禁止。

●「芸能プロダクションと提携しています。」

「患者のプロサッカー選手の〇〇さんも△△医師を推薦!」

 著名人との関連性を強調する事項は禁止。 

■(3)誇大広告の例

一般人が認識する「印象」や「期待感」と、実際の内容に相違がある表現は禁止です。

●文字の大きさや色で、「当院は厚生労働省により〇〇年△月に施行された「医療広告ガイドライン」を遵守したサイトを作成しております。」と過剰に強調する。

当院のホームページは、厚生労働省が定めた医療広告ガイドラインの遵守状況を確認する審査制度に基づき、指定審査機関から認定証を取得したことをお知らせします。

 医療広告ガイドラインを遵守していることは当然のことであり、特段に強調すべきことではないため、その文章を文字の大きさや色などで強調することは禁止。さらにあたかも制度として行政機関が認証を与えていると誤認させる表現も禁止。

●医療機関の名称に「△△△センター」や「〇〇歯科▽▽センター」と表記。

 「センター」という標榜が可能な例(救命救急センター、休日夜間急患センター、総合周産期母子医療センターなど)をのぞき、「センター」という名称を使用、あるいは併記して使用することは禁止。

★「全身脱毛3年間し放題」

「顔面の○○術1カ所○○円」

例えば自由診療における費用について、脱毛では実際には毛周期等の関係で回数は限られるが、「無制限」「し放題」「回数制限なく」の表記は受診者に誤解を与えるため禁止。また、1カ所の施術が1万円であっても、実際には5カ所以上同時に実施したときの費用で、それについて小さな文字で注釈が付されていた場合でも誤認を与えるため禁止。

図2 『医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(第3版)』の「事例 提供される医療サービスの回数」より。

★「最先端の医療! 最先端の医療機器○○を使用することで、代謝の活性化を促進し、痩身効果を期待することができます。」

 自院が提供する医療や、特定の治療法、医療機器が「最適」や「最先端」である旨を記載するのは禁止。

●「ストレスを感じている方にはがんのリスクがあります。」

「○○療法では悪性腫瘍の治療、ウイルス性疾患の治療、アンチエイジングに期待できます。」

 科学的な根拠が乏しい情報であるにもかかわらず、特定の症状に関するリスクを強調することにより、自院への受診を誘導する、また、特定の手術や処置等の有効性を強調して手術などの実施へ誘導しているので禁止。

★「かかりつけ歯科機能強化型診療所として、厚生労働省に認定されました!」

 実際には施設基準を満たしていることを届け出ているだけであるにも関わらず、厚生労働省などの行政機関などから、あたかも特別な認定やお墨付きを得ていると誤認させるような表現は禁止。

●「当院では、○○手術と××手術の実績はのべ1,500件を超えています!」 

この件数はどれだけの期間に実施された手術の数なのかが不明。この場合、当該手術件数にかかる期間を併記する必要がある。また、例えば10年間や20年間といった長期間の合計件数のみを記載するなど、誤認を与える表現は禁止。

■(4)公序良俗に反する内容の広告

これに関しては事例解説書には特段の解説項目がありませんが、医療広告ガイドラインには、医療法の規定を引用したうえで、「わいせつもしくは残虐な図画や映像又は差別を助長する表現等を使用した広告など、公序良俗に反する内容の広告を意味するものであり、医療広告としては認められない」と記されています。

■(5)広告可能事項以外の広告

医療法などによって広告可能とされている事項(例えば、医師又は歯科医師であること・診療科名・名称、電話番号、住所、管理者の氏名・診療日や診療時間、予約による診療の実施の有無ほか、13項目)以外のことは、広告ができません。

例えば、「専門外来」の広告がそれにあたります。広告可能な診療科名を「標榜(ひょうぼう)科名」といい、医療法で複数の名称が規定されています。専門外来の表記は、その診療科名との誤認を招く可能性があるからです。

ただし、「糖尿病」「花粉症」「乳腺検査」など、公的医療保険診療や健康診査等の広告可能な範囲であれば、広告は可能です。また、院内だけの掲示であれば広告とはみなされません。

および、次のことも不適切な例に挙げられます。

死亡率、術後生存率等

未承認医薬品(海外の医薬品やいわゆる健康食品等)による治療の内容

自由診療において公的医療保険が適用されない旨が記載されていない

自由診療とあるものの、標準的な費用の記載がない」など。

■(6)患者の主観に基づく体験談の例

体験談は、個々の患者の状態などによってその感想は異なり、誤認を与えるおそれがあることを踏まえて禁止されています。

「インプラント手術を受けました。静脈内鎮静法にて手術を行い、痛みはもちろん、振動なども感じず、ストレスなく受けることができました。術後は腫れもありません。(60代女性)」

治療内容または効果に関する主観的な体験談の記載は禁止。

●口コミサイトから治療内容や効果による体験談の転載、また、有利となる口コミだけを抜粋しての掲載を禁止。

●「当院の院長も実際に体験!」

「脂肪吸引手術を体験した患者の〇〇さんが大満足と話しています。」

医療機関のスタッフによる体験談、また、スタッフが患者さんから聞き取りをしたとする体験談の紹介の掲載を禁止。

●医療機関からの依頼によって、口コミサイトの運営者が体験談の内容を改編する、また、否定的な体験談を削除する、肯定的な体験談を上部に表示するなど、医療機関の有利に編集することは禁止。

患者の直筆のアンケート用紙を写真やPDFにして、治療の内容や効果に関する体験談を掲載するのは禁止(図2参照)。

図3 『医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(第3版)』の「事例 患者の直筆アンケートを加工・転載した体験談」より。

★患者の〇〇さんが『5年間続いた痛みが今回の手術で和らいだ。3カ月後も痛みがほとんどなくなり日常生活が楽になった』とおっしゃっています。

 患者の主訴などの体験談を、医療スタッフが代わって記載することは禁止。

■(7)治療等の前、または後の写真の例

いわゆるビフォーアフター写真について、必要な情報が十分に記載されていない場合は、治療の内容や効果について誤認を与えるため禁止です。

●ビフォーアフター写真のみが掲載され、説明が一切ない表現は禁止。

●複数のビフォーアフター写真について、まとめて説明を付すことは禁止。

★ビフォーアフター写真について、説明をリンクを張った先に付すことは禁止。

写真の説明として、治療内容、費用、治療などの主なリスク、副作用などに関する事項の詳細な情報を付す必要がある。ただしその掲載場所をリンク先のページとする、また、極端に小さな文字で掲載することは禁止。

★バナー画像および医療機関公式アカウントのSNSに、ビフォーアフターなどの写真のみの掲載は禁止。

このほか、広告するにあたっての注意事項として、新しく、「モニター大募集! 通常は200,000円のところを50%オフ 100,000円!」など、ことさらに費用を強調することなども挙げられました。

なお、広告とはみなされない例には、「学術論文、学術発表等」「新聞や雑誌等での記事」「患者等が自ら掲載する体験談、手記等」「院内掲示、院内で配布するパンフレット等」「医療機関の職員募集に関する広告」があります。これらは広告の定義である、自院への誘引性、また自院を特定する情報の特定性を満たしていないためです。

また、医療法も医療広告ガイドラインも、たびたび一部改正されて、その都度、改正版が公表されます。厚生労働省の公式サイトからのリンク先や、検索結果にも、旧版がアップされていることもあります。必ず最新版かどうかを確認して閲覧しましょう。

■通報サイト「医療情報ネットパトロール」がある

では、こうした広告規制の違反は、どのようにして明らかになるのでしょうか。それは主に、厚生労働省によるパトロール活動、また、保健所による立ち入り検査や第三者による通報によります。

厚生労働省は2017年に「医業等に係るウェブサイトの監視体制強化事業」をスタートし、ここまで紹介した医療広告規制等に違反していないかを監視しています。その活動のひとつとして、ネット上に『医療機関ネットパトロール』というウェブサイトが設けられています。

「『医療広告ガイドライン』違反の疑いがあるウェブサイトの情報をお寄せください。」とあり、誰もが氏名等を記すことなく、通報することが可能です。

同省は同パトロールによる概況を公表していて、2022年3月31日時点では、「美容・歯科において違反が多い」こと、また、「美容は『美容注射』を筆頭に様々な違反が確認できている一方で、歯科は『審美』『インプラント』だけで約3分の2を占めていることがわかる。」と記しています。なお、3番目に多い分野は「がん」に関する情報となっています。

ネットパトロールで不適正なウェブサイトがあった場合は、医療広告協議会(同省、自治体、医学の各種団体の各代表で構成)が当該医療機関に、規制の周知、自治体からの是正指導、追跡調査などを実施します。それでも是正されない場合は、罰則や行政処分の可能性があります。

医療機関の広告とはどれも、そもそも患者さんに選ばれるように、自院の良い点のみを記述しているわけです。まずはそれを認識しましょう。そしてここに紹介したような表現を目にしたときに、虚偽、比較優良、誇大広告といった例ではないかと見抜くことができるよう、日ごろからヘルスリテラシー、情報リテラシーを磨いておくことが非常に重要でしょう。

次回は、健康食品やサプリメント、医療機器に関する情報のチョイスについて続きます。

※2023年11月25日現在の情報です。

構成:藤原 椋・阪河朝美/ユンブル

 第6回
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その医療情報は本当か

医療リテラシーの定義は「医療や健康情報を入手・理解・評価・活用するための知識、意欲、能力」とされている。その実践法として、医療の定説やメディアで見聞きする医療情報の読み取りかたを数字、グラフ、情報の質を中心に説明し、また適切な情報を見分ける方法とその活用法を紹介する。

プロフィール

田近亜蘭

たぢか・あらん 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野准教授。医学博士。精神科専門医・指導医。精神保健指定医。京都大学大学院医学研究科博士課程医学専攻修了。関西医科大学精神神経科・医局長、京都大学医学部附属病院精神科神経科・外来医長などを歴任 。

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医療広告に「患者の体験談」「医療脱毛の回数無制限」「施術前後の写真」は禁止