やく そういえば、最後の場面、ゾフィー登場の場面なのですが、あれは古谷さんが中に入っていて。
古谷 ええ、入っています。
やく どの段階でゾフィーに入ることを伝えられたんですか。
古谷 確か撮影所で知ったんですよ。
やく それまでは知らされていなかった?
古谷 はい。撮影所に行くと、ウルトラマンと同じスーツが置かれていて。ゾフィーという名前も付けられていたかどうか。とにかくウルトラマンと同じスーツということは、僕しか入れないわけでね(笑)。そこでまずウレタンを入れたウルトラマンを寝かせて、ゾフィーのスーツを着た私が立つ絵から撮影が始まったんです。問題はゾフィーのマスクでね、ウルトラマンと違って目に穴が開いてなかったんですよ。そのためスタッフの「この辺にウルトラマンが倒れているから」という指示を受けて、見えてはいないのですが、なんとか演じたんですけどね。
ホシノ 倒れているウルトラマンなんですけども。やくさんの言葉を借りれば宗教儀式的に倒れているウルトラマンが、ちょっといびつなんですね。
古谷 ?
ホシノ たぶんスタッフの皆さんも時間がなくて大急ぎでウレタンをスーツの中に詰め込んでしまったせいか、特にウルトラマンの左腕の上腕あたりがいびつに曲がって凹んでいるのが映像から確認できるんです。これが妙にリアルに感じられて。マジにバッコンバッコン、ボロクソにゼットンに叩きのめされたような左腕の凹み。あのいびつな凹みは偶然に作られたもの?
古谷 偶然です。うん、リアルでしたね。本来はああいう凹み、いびつさを御大は嫌うんです。でも、撮り直しせずOKを出したということは、ヒーローの最後の姿はそれぐらい痛々しいものなんだよ、と伝えたかったからじゃないですか。みんなのために怪獣たちと戦ってきたウルトラマンの体がきれいであるわけがないと御大は思っていたはず。だから、凹んでいてもOKだし、ボロボロだからこそ、逆にかっこいいんです。
やく 冒頭で言いましたけど、ウルトラマンが倒れたとき、胸に手を置くというのは……。
古谷 僕のアイデアです。監督でもカメラマンの指示ではなく、素直に自然と、ああいう演技ができました。最後はこんなふうに死にたいと、僕なりに熟考して演じたつもりです。
やく 古谷さんのその話をお聞きしながら『ウルトラマンになった男』の最後の文章を思い出していたんですが、「自分もそのうち、いつか光の国に帰っていく……」という記述。
古谷 ええ。
やく そのくだりを読んだときに、大袈裟ではなく、私のそれまでの死生観みたいなものが変わったような気がするんです。人は誰しも死を迎えます。その事実に対して「死にたくない」とか恐怖の念を抱いたりするものですけど、古谷さんの言葉に触れた瞬間、死ぬことは怖いことでもなんでもないと思えるようになったんですね。だって、そうだよ、死んだら“光の国”に行けるんだと思うと、ちっとも怖くない(笑)。“光の国”に行き、ウルトラマンと遊べるかも知れないと思ったら、こんなに楽しいことはないじゃないかと。この年齢になって改めてウルトラマンの最終回を見ながら、ふと宗教的な悟りをいただいたような、そんな感覚にすらなりました。
古谷 成田さんにはそんなつもりはなかっただろうけど、ウルトラマンの顔って、どこかお釈迦様に似てるという話もありますしね。
やく そうなんですよ。きっと後付けでみんなそう言い出したんでしょうけど、私もウルトラマンの顔がお釈迦様に見えることがあります。この場でお話することではないのかも知れませんが、このところ毎年のように1人また1人と、小学校の同級生が天に召されまして。
古谷 そうでしたか。
やく あいつらは、先に“光の国”に行っているんだな、と思えるようになりました。先に行って昔のように怪獣ごっこをしているんだろうな、私も天に召されたら、あいつらと怪獣ごっこで遊べるんだと思ったとき、死への恐怖は失せ、何かスーッと憑き物が落ちましたよね。
(第9位の発表は9月30日の予定)
司会・構成/ホシノ中年こと佐々木徹
撮影/五十嵐和博
©円谷プロ
誕生55周年記念 初代ウルトラマンのMovieNEX 11月25日発売!
プロフィール
古谷敏(ふるや さとし)
1943年、東京生まれ。俳優。1966年に『ウルトラQ』のケムール人に抜擢され、そのスタイルが評判を呼びウルトラマンのスーツアクターに。1967年には「顔の見れる役」として『ウルトラセブン』でウルトラ警備隊のアマギ隊員を好演。その後、株式会社ビンプロモーションを設立し、イベント運営に携わる。著書に『ウルトラマンになった男』(小学館)がある。
やくみつる(やくみつる)
1959年、東京生まれ。漫画家、好角家、日本昆虫協会副会長、珍品コレクターであり漢字博士。テレビのクイズ番組の回答者、ワイドショーのコメンテーターやエッセイストとしても活躍中。4コマ漫画の大家とも呼ばれ、その作品数の膨大さは本人も確認できず。「ユーキャン新語・流行語大賞」選考委員。小学生の頃にテレビで見て以来の筋金入りのウルトラマンファン。