ウルトラマン不滅の10大決戦 完全解説 第3回

古谷敏を「本当のウルトラマン」にした脚本家の深い言葉

古谷敏×やくみつる

ホシノ 全国3000万人のウルトラマン&特撮ファンのみなさま、こんばんは。今宵も『ウルトラマン不滅の10大決戦 完全解説』のお時間がやってまいりました。巷では、なかなか対決の本題に入らない対談であるとの評判もあるようですけども。

古谷 いいんですよ、それで。そこが、この対談の面白くスリリングなところじゃないですか(笑)。

ホシノ という古谷さんの温かいお言葉を頂戴しながら、いよいよ第9位の発表でございます。では、第9位の発表ォォォ~~! やくみつるが選んだ第9位はアントラーとの砂漠での死闘です。まず、やくさん。

やく はい。

ホシノ なぜにアントラー戦を第9位としたのでありますか。

バラージの街に出現し、破壊の限りを尽くす、磁力怪獣アントラー。5000年前にも出現したが、このときはウルトラマンによく似たノアの神によって倒される。その正体は諸説あり、いまだ正式には判明せず

やく 大苦戦を強いられているんですよ、ウルトラマンが。結果的に、あのスぺシウム光線さえもアントラーには通じませんでした。実際に決戦のタイムを計ってみると、倒すまでに3分07秒もかかっている。

ホシノ ウルトラマンは変身後、地球上では3分しか戦えないのに。

やく そうなんです。制作側もいろいろと苦慮しながら編集したと思うんですね、それでも3分を越えてしまった。そこにウルトラマンの苦戦が滲み出ていますし、その苦闘ぶりは第9位にランクインさせるだけの意味があります。

古谷 戦いにくかったですよ、アントラーは。

やく やっぱり!

古谷 飛び出たツノ、ハサミがねえ、痛かった(笑)。

ホシノ クワガタ虫のハサミみたいなやつですね。

古谷 そう。ウルトラマンの手……どう言えばいいのかな、あの手は手術用の手袋みたいなものをはめているんですよ。だから、生地がとっても薄いんですね。それなのに、けっこう激しくきつめにアントラーのハサミが襲いかかり、突き刺さってくるものですから、嫌な痛みが走ったんです。

やく その痛みもあり、ハサミ──正しくは大アゴと称するんですけれど、それとの向き合い方も含めて大苦戦したわけですね。

古谷 はい。

アントラーの猛烈な突進を受け止めるウルトラマン。この角(大アゴ)をつかむのは確かに痛そう。ちなみにアントラーのチャックは他の怪獣とは違い、胸から腹にかけて設えられている

ホシノ 砂ぼこりもまた、戦いづらそうですものね。

古谷 ええ。それらもろもろの事情が重なり、非常にしんどかった撮影、戦いでした。

ホシノ 砂ぼこりといえば、このロケ地は……。

古谷 映画のロケ地を、そのまま流用しています。

ホシノ 1966年4月28日に公開の6世紀のシルクロードを舞台にした東宝映画『奇巌城の冒険』のロケ地ですよね。主演が世界の三船敏郎さんで、ハヤタ隊員を演じた黒部進さんも出演されていて。

古谷 そうです、そうです。映画本編のセットですからね、わりと街の細部に至るまで、ちゃんと作り込まれています。

東宝映画のセットを使って撮影されたアントラー戦は、確かにちょっと凝った作りになっている

ホシノ それでは大苦戦だった、第9位のアントラー戦を振り返ってみたいと思います。

 

不滅の10大決戦 第9位

磁力怪獣 アントラー 身長40m・体重2万t

【バトル・プレイバック】

 まずはウルトラマン、アントラーともに攻撃の間合いを探りながら対峙。先手を取ったのはアントラー。いきなりの砂煙攻撃を仕掛け、ウルトラマンの視界を奪う。もがくウルトラマンを尻目に、アントラーは地中に。そして、またしてもいきなりウルトラマンの足元後方から姿を現わし、前方に突き飛ばす攻撃を仕掛ける。自分の攻撃に満足したのか、アントラーは再び地中に潜り、気配を消してから三度地上に飛び出し、エグい砂煙攻撃。しかし、そこは百戦錬磨のウルトラマン。咄嗟に砂煙攻撃を飛行してかわす。

だが、今度はアントラー、ウルトラマンの背後から磁力攻撃。この磁力攻撃により、自分のハサミまで引っ張ろうとするが、ウルトラマンはすんでのところでかわし、体を入れ替え向き合い、ハサミを両手でキャッチ。ハサミの威力を感じさせるギギギギという音を周囲に撒き散らしながら、渾身の力比べ。どう見てもウルトラマン、戦いにくそう、大苦戦! カラータイマーも青から赤に点滅。状況を打破し、勝機を見つけようとウルトラマンがアントラーから離れ、スぺシウム光線を放つも効かず。その戦いにくさを嘲笑うかのようにアントラーが突進。

バラージの人々の祈りが通じたのか、ウルトラマン、再びアントラーのハサミをつかみ、力比べをしながら、相手の前進する力を逆利用し、右にひねって倒すという柔道の極意を見せる。仰向けに転倒したアントラーに、すかさずマウントポジションを取る。その一連の攻防の中で、ついにウルトラマン、アントラーの右のハサミをへし折るが、それでも思うように攻撃を仕掛けられず、やっぱり大苦戦。どうする、どうなる、ウルトラマン。

その苦境を救ったのがノアの神の使い、チャータム(弓惠子)。ノアの神(若き日のウルトラマン?)が持つ青い石を取りに走り、ムラマツ隊長に手渡す。隊長はえいやっと青い石をアントラー目がけて投げつけると見事に命中。アントラー、大爆発。ハラハラする大苦戦の一戦はウルトラマン、チャータム、ムラマツ隊長の炎の連係プレーによって幕を閉じたのでありました。

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プロフィール

古谷敏×やくみつる

 

古谷敏(ふるや さとし)
1943年、東京生まれ。俳優。1966年に『ウルトラQ』のケムール人に抜擢され、そのスタイルが評判を呼びウルトラマンのスーツアクターに。1967年には「顔の見れる役」として『ウルトラセブン』でウルトラ警備隊のアマギ隊員を好演。その後、株式会社ビンプロモーションを設立し、イベント運営に携わる。著書に『ウルトラマンになった男』(小学館)がある。

 

やくみつる(やくみつる)
1959年、東京生まれ。漫画家、好角家、日本昆虫協会副会長、珍品コレクターであり漢字博士。テレビのクイズ番組の回答者、ワイドショーのコメンテーターやエッセイストとしても活躍中。4コマ漫画の大家とも呼ばれ、その作品数の膨大さは本人も確認できず。「ユーキャン新語・流行語大賞」選考委員。小学生の頃にテレビで見て以来の筋金入りのウルトラマンファン。

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古谷敏を「本当のウルトラマン」にした脚本家の深い言葉