ウルトラマン不滅の10大決戦 完全解説 第6回

俳優は命がけ!火焔地獄の戦いでみせた円谷プロの特撮魂

古谷敏×やくみつる

ホシノ おかげさまで、ご好評いただいている『ウルトラマン不滅の10大決戦 完全解説』なのですが。

古谷 そうなんですか(笑)。

ホシノ そうなんです! とくに初回冒頭のやくさんのウルトラマンに対する想いの書き下ろしが胸に沁みた、という意見が多数寄せられておりまして。

やく この世代の共通認識なんでしょうけど、思い入れがハンパないんだもの。

ホシノ そうなんです! その書き下ろしでも触れられておりましたけど、いや本当に、古谷さんのスタイルが変わっていないことに改めてビックリポン。当時のウルトラマンのスタイルをまんま維持されていますよね。

古谷 いやいや、そんなことはないです。やっぱり当時と比べたら体重は増えていますよ。

やく スーツの中にはいっていたときは、何㌔でした?

古谷 59~60㌔かな。自分で言うのも何ですが、この身長で体重が約60㌔というのは、なかなかほっそり痩せていましたねえ。

やく その体の細さで思い出すのは、なんといっても古谷さんが演じた『ウルトラQ』のラゴン(1966年5月15日放送の第20話「海底原人ラゴン」)です。ラゴンの上半身の細さが、いかにもラゴン! という感じで、いまだに印象に残っています。

2億年前に地球を支配していた爬虫類から進化した海底原人・ラゴン。古谷敏がスーツの中に入った「ウルトラQ」のラゴンは産後間もない雌。ちゃんとおっぱいも確認でき、なにより腰からお尻のラインが女性的である。そう感じさせている古谷の演技力は再評価されるべきだろう

ホシノ 私もそうですね。ケムール人の足の細さも印象的でしたけど、ラゴンの上半身の細さは、ちょっと異世界の雰囲気を漂わせていましたから。なんだろう、女性の上半身でもなく男性の上半身でもない、どこか中性的な造形でしたもんね。

やく そういえば『ウルトラQ』のラゴンって女性でしたよね。この場合、♀メスと呼んだほうが正しいのかもしれませんが。

古谷 ええ。産後間もない女性? ♀メスでしたね。

やく 当時はラゴンのスーツに入りながら、女性の動きを意識されていたのですか。

古谷 はい、意識していました。女性本来のしなやかさや、何気ない所作をどのように表現すればよいか、ラゴンは人間ではないですけど、自分なりに考え、ひとつひとつの動作に気を遣って演じていましたよね。それと、ケムール人との違い。

やく そうでしたか! ケムール人が登場した第19話『2020年の挑戦』の放送が1966年5月8日。そして、ラゴン登場の第20話『海底原人ラゴン』の放送日が1966年5月15日。2週続けて古谷敏がスーツに入っているわけで、ご本人としたら同じではいけない――という強いプロ意識が働いていたのでしょう。

ご存知、古谷敏をウルトラマンへの道へと誘った「ウルトラQ」のケムール人。円谷御大の見立て通り、ピタッとケムール人のスーツにハマッている

古谷 ええ、そうです。茶の間で見ている人たちは気づかないかもしれませんけど、やっぱりね、続けての放送でしたから、役者としてはケムール人とラゴン、違った生き物のように演じなければ、と思っていました。それがまあ、口幅ったいですが、役者のプライドだと思っていましたし。まずは歩き方や走り方から変えてみたんです、ケムール人とラゴンの。その違いを映像で再確認してみるのも楽しいかもしれませんよ(笑)。

ホシノ 生粋の演技人、役者だったのですね。

古谷 いえ、生粋というより……そう躾けられてきた、と言ったほうがよいかも知れません。

ホシノ 東宝時代に。

古谷 ええ、東宝の大部屋時代に。現場での監督をはじめとするスタッフ、先輩の役者さんたちに、役を与えられたら、とことん悩め、考えて演じろ、それが演技人だと厳しく諭されていたんです。例えば、通行人Aの役をもらったときに、いくら端役でもボーッと歩くだけではいけない。なぜ自分はその道を歩いているのか、どんな用事を済ませ、どこに向かおうとしているのか。そこまで自ら想像し、通行人Aに命を吹き込まないと演じたことにはならないと言われましてね。

 観客は当然、主演の役者さんたちの動きやセリフに集中しているでしょうけども、彼らのそばを歩く通行人Aが “その瞬間を生きている通行人A” であれば、よりフィルムにリアルさが漂うし、スクリーンや画面が引き締まると教えられていたんですよ。通行人Aのことなんか観ている者は気にしなくても、演じている者が架空の人生を背負い、作品の中で生きていることを実践してみせる――それがとても大事なことだと躾られていたのです。

ホシノ いみじくも今の発言が、第9位のアントラー戦で指摘した、スタイルのよさだけで古谷敏がウルトラマンに選ばれたわけではないことの証明ではないですかね。

古谷 いやいや、円谷英二御大が「東宝の大部屋の役者に背の高い、痩せているヤツがいるから、アイツをケムール人の中に入れろ」と言ったのが始まりでね(笑)。で、用意されていたケムール人のスーツに入ってみると、これがピッタリ(笑)。

やく いやいやいや、始まりはそうだったかもしれませんけど、さきほど古谷さんがおっしゃっていた、ケムール人とラゴンの歩き方や走り方の違い……そこまで意識して演じたからこそ、円谷御大らはウルトラマンという大役を古谷敏に任せても大丈夫だと思ったはず。古谷敏なら必ずやウルトラマンの内面も演じてくれるに違いない、その演技力が原動力となり、『ウルトラマン』を単なる子供番組という枠をも超越した、後世にまで語り継がれる科学空想番組になると確信したのではないでしょうか。ケムール人→ラゴン→ウルトラマンという一連の流れは、それこそ運命だったのかも知れませんけども、そこには古谷敏の役者としての熱き魂を感じることができます。

見よ、77歳にして白のスーツがピタッと決まっている古谷敏を。しかも、この格好に黄色いスニーカーがオシャレ

古谷 ありがたいですが、ちょっと気恥ずかしいかな(笑)。

やく たぶん、その事実を冷静に見つめ続けていたのがウルトラマンのメイン脚本家、金城哲夫さんだったと思います。つまり、ケムール人→ラゴン→ウルトラマンの流れが第9位のアントラー戦で紹介した金城さんの言葉「マスクを着けてスーツの中に入り、背中のチャックを閉めた瞬間、古谷敏はウルトラマンという宇宙人になる。だから、キミの動きがウルトラマンの動きだし、ウルトラマンの動きはキミそのものなんだ」に繋がっていくのですよ。

古谷 僕なりに顔が出なくても、ウルトラマンのスーツの中で役者魂らしきものをたぎらせていたのは本当です。全39回の戦いにおいて、怪獣が現われた、ウルトラマンが派手に登場し、パンチやキックを見舞い、最後はスぺシウム光線を決め、一件落着、空に飛び立つ――と形式的に考え取り組んだことは一度もありませんでした。戦いひとつひとつに、なぜ怪獣は現れたのか、この怪獣は単に人類を苦しめるためだけに地上に現われたのか、他に目的があるのか、だとしたら、攻撃を受け止める自分(ウルトラマン)はどのように戦えばいいのか。

 他にも、強い怪獣に対し、自分は何を信じ、何を願いながら戦うべきなのか。また、スぺシウム光線で怪獣を倒すことが本当の終焉、地球の救いとなるのだろうか――たった3分弱の戦いでしかありませんでしたけど、その3分弱に、僕は演じる者のプライドや心意気といったものを奮い立たせ、本編の脚本を踏まえた上で、もうひとつの自分だけのストーリーを作り上げてから、怪獣との戦いに臨んでいたんです。

やく・ホシノ なるほど。

次ページ   全39話中、最も火薬を使った命がけの戦い
1 2
 第5回
第7回  

プロフィール

古谷敏×やくみつる

 

古谷敏(ふるや さとし)
1943年、東京生まれ。俳優。1966年に『ウルトラQ』のケムール人に抜擢され、そのスタイルが評判を呼びウルトラマンのスーツアクターに。1967年には「顔の見れる役」として『ウルトラセブン』でウルトラ警備隊のアマギ隊員を好演。その後、株式会社ビンプロモーションを設立し、イベント運営に携わる。著書に『ウルトラマンになった男』(小学館)がある。

 

やくみつる(やくみつる)
1959年、東京生まれ。漫画家、好角家、日本昆虫協会副会長、珍品コレクターであり漢字博士。テレビのクイズ番組の回答者、ワイドショーのコメンテーターやエッセイストとしても活躍中。4コマ漫画の大家とも呼ばれ、その作品数の膨大さは本人も確認できず。「ユーキャン新語・流行語大賞」選考委員。小学生の頃にテレビで見て以来の筋金入りのウルトラマンファン。

集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル
プラスをSNSでも
Twitter, Youtube

俳優は命がけ!火焔地獄の戦いでみせた円谷プロの特撮魂