ウルトラマン不滅の10大決戦 完全解説 第6回

俳優は命がけ!火焔地獄の戦いでみせた円谷プロの特撮魂

古谷敏×やくみつる

やく ではそろそろ、第6位の発表を。

ホシノ 第6位は……。

やく ザンボラーとの焔の決戦です。

ホシノ その戦いをプレイバック!

森林を伐採し造成中の工事現場から出現したザンボラー。自然を壊す人類に復讐するかのように烈火の如く暴れ回った。その警告を1960年代、高度経済成長期に行っているウルトラマン製作陣がすごい

不滅の10大決戦 第6位

灼熱怪獣 ザンボラー

身長40m・体重2万t

【バトル・プレイバック】

 科特隊&自衛隊の激しい攻撃をものともせず、山を焼き尽くすザンボラー。変身したウルトラマンが山の斜面に立ち、登ってくるザンボラーに対し、強烈無比な左足でのキック一閃。ザンボラー、たまらず横回転しながら斜面を転げ落ちる。てめえ、やりやがったな、といわんばかりにザンボラーが背中の火焔爆弾攻撃を仕掛けると、うわっとウルトラマンが叫ぶ間もなく命中。これはマズいと思ったのか、ウルトラマン、斜面を前方回転で転げ逃げる。火焔爆弾は食らわないぞ、という強い決意のもと、低い態勢のまま突進、滑り込むようにザンボラーの腹に潜り込んだウルトラマンは勢いよく相撲技の “居反り” を見せ、後方に投げ飛ばす。

 それでもメゲないザンボラーは素早く態勢を整えると、四足怪獣の専売特許の技、後ろを向いての尻尾叩き攻撃をウルトラマンの足元目がけて繰り出し、モロに食らったウルトラマンは転倒。勝機と見たか、ザンボラーは全体重をウルトラマンに浴びせようとするが、左足のキックをブチ込まれて不発。今度は逆にウルトラマンがザンボラーに飛びかかるものの、あえなくスカされ、無防備に倒れるという隙を見せてしまう。そこを逃さずザンボラーがボディプレスを狙うも、これまたスカされ不成功。この時点で両者ともに、相手の攻撃をまともに食らわず。次第に持久戦の様相を呈してくる。

 しかし、その空気感を一変させたのが、ザンボラーの尻尾叩き攻撃。気合いとともに放つと、これが見事にウルトラマンの顔面にヒット。意識が遠のくウルトラマン目がけ突進するザンボラー。その突進を低姿勢でガシッと受け止めたウルトラマンは左にひねり、ついにザンボラーをうつ伏せにする大チャンス到来。足をバタつかせるザンボラーの顔をつかみ、顔面尻尾叩きのお返しとばかりに2、3度地面に叩きつける。今度こそ、決定的なダメージを、と決意のウルトラマン。下腹部にまたしても潜り込み、えいやっと両手でザンボラーを持ち上げる強引な力技を披露。そのまま半回転し、NWA世界王者時代のハリー・レイスをトップロープから投げ落とす、往年のジャイアント馬場を彷彿とさせるデッドリードライブで豪快に投げつける。

 この一撃で完全にグロッキー状態となるザンボラー。四足に力が入らないところに、ウルトラマン、一歩スウェイバックしてからの必殺スぺシウム光線。ツノ部分にモロに命中、全身が白い煙で覆われるザンボラー。そして、ついに火花をまき散らしつつ大爆発!

 

古谷 改めて見直してみても、凄いよねえ、火の迫力が。

やく 本当は第6位にゲスラをランクインさせていたんですよ。

古谷 ほうほう、ゲスラを。

やく はい、そのゲスラ戦で水中決戦の怖さや撮影時のご苦労などを縷々伺おうと思っていたのですが、図らずも7位のギャンゴ戦で、そのあたりは明らかになりましたし、単純ですけど、水の次は火の怖さ、辛さ、厄介さ、当時の撮影所における火の取り扱いの苦労話をお訊ねしたくなりまして、急遽ザンボラーを第6位にランクインとなりました。

古谷 そうでしたか、わかりました。

ホシノ それと、やくさん。技的にも、このザンボラー戦でウルトラマンが相撲の居反りを見せているんですよね。

やく そうなんですよ。この居反りという技、本場所でもめったに決まらない大技なんです。わかりやすく説明すると、相手力士の懐に潜り込み、そのまま後方に投げ飛ばす技で、豪快な分、非常に決まりづらい。相手も動いていますし、投げられまいと踏ん張ったりするため、決める前に潰されてしまったり。

古谷 僕も大相撲中継で観たことはありませんねえ。

やく だと思います。なにせ幕内に限っていえば、平成期には見られず、十両でも先の11月場所で宇良が旭秀鵬に決めたのが約28年ぶりという珍しい大技です。もっとも先日の宇良のは正しくは「伝え反り」という、居反りと似た別の技でしたけれど。ただ、居反りについていえば、幕下以下だと聡ノ富士という小兵力士が16回(2020年九月場所現在)決めていますが。

ホシノ アマレスにも居反りに近い技があって、ダブルリストアームサルトというのですけど、技の形態はやくさんが説明したのとほぼ一緒。アマレス出身の長州力が得意にしていましたね。長州はゴングが鳴り、対戦相手とリング中央でロックアップ(組み合い)後に、スルリと相手の懐に潜り込み、自ら体勢を低くして後方に投げ飛ばす。動きが止まった相手の足を素早く絡めとり、さそり固めに移行するのが常勝パターンのひとつでした。

やく その居反りを別に意識してザンボラー相手に繰り出してはいないですよね。

古谷 ええ、意識も何も、いま初めて居反りの詳しい話を聞いたところですから(笑)。まあ、意識というより、戦う本能に素直に体が反応し、従っただけだと思うんですよ。

ホシノ 本能?

古谷 そうです、本能ですね。まずウルトラマンがザンボラーと対峙する。このとき、瞬間的に何を思うか。

やく 戦いづらい?

古谷 その通り。8位のケロニア戦でも語りましたが、人型はいいんですよ、戦いやすい。相手をつかみやすいし、結果、投げやすい。でも、四足の怪獣は真っ先に重いというイメージが先行します。重い=投げづらいと判断し、じゃあパンチやキックを放とうかと思っても、ザンボラーは見ての通り、表面はゴツゴツしているし、背中の尖った巨大なひれは高熱波を放射する。うかつに打撃を叩き込めないし、ましてや、またがってパンチも繰り出せない。となると、本能的に四足動物はお腹が弱点だと察知する。動物の弱点は怪獣の弱点にも繋がるだろうという判断のもと、素早くザンボラーの下に潜り込み、勝機を見い出そうとする。そのうち、押し潰されまいとザンボラーの体をはねのける。それが結果的には居反りになった――ということだと思うんですね。

高熱波を発する背中の透明のひれに触れぬようしてチョップを叩き込もうとするウルトラマン。しかし、さほどダメージを与えられず、攻撃の手詰まりに焦りを抱く

やく・ホシノ なるほど。

古谷 相手は四足なんでね、下に潜り込むといっても、本当に低いタックルを仕掛けなきゃいけなかったので、けっこう大変でした。

やく そんな話を伺った後に、大変申し訳ないのですが。

古谷 ん?

やく このザンボラー戦は実は “凡戦” だと思うんです(キッパリ)。

ホシノ 第6位に選んでおいて!

やく (無視して)ウルトラマンも居反りは繰り出していますけど、他に特筆すべき技を出していませんし、躍動感ある動きを見せているかといえば、どちらかというと戸惑い? 手探りの印象がある。それに苦戦していないんですよ、ウルトラマン。最後もプロレス技のボディスラム一発でザンボラーは、ほぼグロッキー状態になり、すかさずスぺシウム光線を決めている。つまり、ウルトラマンは勝負を急いでいた……。

 これは私の私見になりますけど、凡戦になった最大の理由は炎だったのではないでしょうか。炎の勢いが凄まじくて、技を仕掛ける云々よりも、大事故にならないような配慮が古谷さんにも、ザンボラーのスーツアクターだった鈴木邦夫さんにもあったのではないかと。

古谷 はい、火の勢いがありすぎて、戦うどころの騒ぎじゃなかった、というのが正直なところです(笑)。

やく ウルトラマンやザンボラーの「皮膚」は耐火性に問題ありそうですもんね。

古谷 ザンボラー戦では、いやもう、とんでもない量の火薬を使用していましたからね。ガソリンも使っていましたし。

ホシノ ガソリンも!

やく もしかしたら、湾岸のコンビナートでの戦いが印象的だったペスター戦より、火薬量が多かった?

古谷 はい。ペスター戦は計算された上での火の使用といいますか、爆発でも暴発ではなく、ちゃんときれいに燃え上がっているんですね。ですが、ザンボラー戦は繰り返しになりますけど、そこらへんはむちゃくちゃでした(笑)。全39話中、最も火薬とガソリンを使ったのが、このザンボラー戦なんですよ。

全39話中、最も火薬とガソリンの量が多かったザンボラー戦。燃え盛る炎の先に特撮番組の黎明期を支えたスタッフたちの反骨精神が垣間見える

やく あれだけの凄まじい爆発シーンですから、スタジオの外に消防車を待機させないまでも、それなりの消化の準備はしていたのですか。

古谷 いえ。水の入ったバケツがいくつか用意されていたくらいじゃなかったかなあ。

やく 時代劇の水桶みたいに!?

ホシノ 特撮、いやテレビの番組製作の黎明期ならではのエピソードですよね。今では絶対にコンプライアンス的にも許されませんもん。その前に消防法で撮影許可が下りない。

古谷 でしょうね。

ホシノ そもそも、なぜに火薬が盛大にドッカンドッカンと暴発したのですか。

古谷 たぶん、火薬の特機(特撮における特殊機材)のオペレーターが、勢いに任せてバンバン爆発のスイッチを入れてしまったからでしょう。

ホシノ わちゃちゃ。

古谷 撮影後、スタジオの東京美術センターの偉い人たちから怒られたという話は聞きました(笑)。

ホシノ わちゃちゃ。

古谷 でもね、オペレーターの連中も使命感にかられての結果だったと思うんです。当時はまだ、映画のほうが格が上といいますか、どうしても「どうせテレビだろ」とか「テレビの子供番組じゃないか」といった、少し蔑む風潮があったことは確かなんですよ。だけど、現場の人間たちは毎回、凄い作品を創ろうと必死だったんです。絵的にも決して映画には負けない迫力のものを作り上げたい……そんな裏方のみんなの想いが一気に炸裂したんじゃないですか。

ホシノ そうはいっても、火焔地獄にはまり込んでしまったのは古谷さんと鈴木さんだったわけで。

古谷 まさに火焔地獄でした。ギャンゴ戦で火より水が怖いと言いましたが、火も十分に怖かった(笑)。あれだけの火薬が爆発すると、一瞬、火が竜巻のように襲ってくるんです。海外の巨大な山火事のニュース映像を観ると、炎が竜巻のようになって空に吸い込まれるシーンを目にすることがありますけども、僕が体験したのは、そのスモール版でしたよね。火と熱風がビュンと竜巻のようになってマスクの目の視界を守る小さな穴に飛び込んでくる。

ホシノ わちゃちゃ。

古谷 それでも僕は顔を背けながら逃げればよかったのでマシでしたが、大変だったのは鈴木さんです。

やく 四足ですから、顔の位置がモロに爆発の影響を受けてしまう。

古谷 同時に熱風も。あのとき、鈴木さんはスーツの中で酸欠状態だったのではないですかね。撮影中、あまりの熱さにザンボラーが我慢できず、立ち上がちゃったくらいですし。

ホシノ 四足怪獣なのに、二足歩行のように立ち上がった?

やく 設定的にも台本にも、ザンボラーが立ち上がるというのは?

古谷 なかったです。立ち上がってはいけないんです、ザンボラーは。なのに、何度か立ち上がってしまったのは四足での顔の位置が熱くて限界を超えていたのだと思います。

壮絶な炎と熱風がザンボラーのスーツアクターだった鈴木邦夫氏を襲う。あまりの苦しさに思わず立ち上がってしまう四足怪獣のザンボラー

ホシノ いくら特撮の黎明期の話だといっても、凄まじい話だ……。

古谷 こうなると、戦うどころの話じゃなくなります。序盤戦に僕が山の中腹でザンボラーを蹴り上げ、叩き落すのも、火の威力から鈴木さんを助ける意味もあったんです。

やく その話をお聞きして腑に落ちました。どうしてザンボラー戦ではビートルの攻撃がやけに長かったのか。他の回と比べても、ビートルの活躍の時間がこれでもかというくらい長かったんです。それはきっと、本来のウルトラマンとザンボラーの戦いを長引かすことができなかったため、編集でそうせざるを得なかったからなんですね。

古谷 そうでしょう。

やく となると、このザンボラー戦は “必然の凡戦” とも言えます。必然の凡戦だからこそ、私たちは特撮を超えた、限界ギリギリのリアルな一戦を目撃することができた。全39戦の中でも、異質な戦いであり、その点から考えても、ザンボラー戦の6位は必然だと思います。

 

(第5位は11月30日に発表予定)

司会・構成/ホシノ中年こと佐々木徹

撮影/五十嵐和博

©円谷プロ

誕生55周年記念 初代ウルトラマンのMovieNEX 11月25日発売!

https://m-78.jp/movie-nex/man/

1 2
 第5回
第7回  

プロフィール

古谷敏×やくみつる

 

古谷敏(ふるや さとし)
1943年、東京生まれ。俳優。1966年に『ウルトラQ』のケムール人に抜擢され、そのスタイルが評判を呼びウルトラマンのスーツアクターに。1967年には「顔の見れる役」として『ウルトラセブン』でウルトラ警備隊のアマギ隊員を好演。その後、株式会社ビンプロモーションを設立し、イベント運営に携わる。著書に『ウルトラマンになった男』(小学館)がある。

 

やくみつる(やくみつる)
1959年、東京生まれ。漫画家、好角家、日本昆虫協会副会長、珍品コレクターであり漢字博士。テレビのクイズ番組の回答者、ワイドショーのコメンテーターやエッセイストとしても活躍中。4コマ漫画の大家とも呼ばれ、その作品数の膨大さは本人も確認できず。「ユーキャン新語・流行語大賞」選考委員。小学生の頃にテレビで見て以来の筋金入りのウルトラマンファン。

集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル
プラスをSNSでも
Twitter, Youtube

俳優は命がけ!火焔地獄の戦いでみせた円谷プロの特撮魂