「Let Me Entertain You」と「天と地と」についても詳細を聞いているが、それらについては世界選手権後に綴る。次回に、だ。
ここでの最後は、大舞台に向けた言葉を紹介しておきたい。
「今、日本には羽生のように総合的にまとめられる選手はいません。世界でもそうだと思います。右に出る者はいません。
ただ、ジャンプ構成で言うとネイサン・チェンがいます。ネイサンが持っている4回転をすべて成功させた場合、どちらが勝るのか。
ジャッジがどう評価するかですが、バリューだけで言えば、非常に厳しい状況になるのはたしかでしょう。
でも、こうしたことは、羽生自身がいちばんわかっていると思います。すごく賢い男ですからね。
勝負では、危機感を忘れてはいけません。その危機感を、羽生は十分に感じていると思います。自分の戦う相手がどういう相手なのかをよく理解している。
相手を意識する上で、戦う上で、現状をどこまで変えてくるか。何をプログラムに加えてくるか。
精神的にも非常に高いレベルで競う試合になると、私は思っています」
羽生結弦が「もっともっと」良くなるのなら、誰にも負けないだろう。少なくとも、私は彼の勝つ試合を見る気でいる。
羽生の烈しさは、とんでもなく美しい。長野でそれを、見た。ちょっと忘れられない。ストックホルムでも見たいと思う。
世界選手権は、3月24日から始まる。
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ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。
プロフィール
宇都宮直子
ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』『三國連太郎、彷徨う魂へ』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また2022年12月には『アイスダンスを踊る』(ともに集英社新書)を刊行。