宇都宮直子 スケートを語る 第19回

八分の一

宇都宮直子

 私は都築章一郎と話をしている。

 2021年3月に、スウェーデンのストックホルムで世界選手権が行われた。その結果についての話だ。

「残念ではありましたが、羽生の銅メダル獲得は凄いことだったと思います。

 あのレベルのものを自分でコントロールして、試合に持ってくるというのは、誰もができることではありません。

 日本では今まで見たことがないですし、世界を見ても、(世界選手権に)ひとりで会場入りする選手はあまり聞いたことがない。

 約一年ですよ。約一年、羽生はひとりでやってきました。

 そうした中、自分を維持し、挑戦できる状態に作りあげるというのは、ほんとうに大変な作業であったと思います」

 羽生結弦は、特別な存在だ。彼に匹敵する選手はいないと思っている。ストックホルムの前も後も、その印象は変わらない。

 都築の歯に衣着せぬ物言いは、この日も健在だった。得点について訊いたときは、こう言った。

「フリーはミスが出たので、まあ仕方がないとしても、ショートの得点はもっと出てもおかしくなかった。

 羽生のショートは魅力的でした。彼のジャンプには、人を魅了する力があります。そのあたりが、もう少し得点に反映されてもいいと思います」

 こうした類いの話を誰かから聞くたびに、私は悔しい。

 羽生結弦に限らず、この大会に限らず、シングルに限らず、私は得点の出方に納得がいかないでいる。

「今」は、ずいぶん改善されたと耳にする。だが、「過去」を知らない分、まだまだ不公平を思わせる。

 都築は言う。

「昔、虐げられていたのは事実です。思うようには、得点も出ませんでした。今は変わってきていますが……」

 日本のフィギュアスケートは、いつまで耐えればいいのか。取材を重ね、いつか本をしたためたいと思う。

 私にはそれしか手段がないし、選手を誇りに思っているので、書きたい。

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宇都宮直子 スケートを語る

ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。

関連書籍

羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程

プロフィール

宇都宮直子
ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』『三國連太郎、彷徨う魂へ』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また2022年12月には『アイスダンスを踊る』(ともに集英社新書)を刊行。
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