韓国カルチャー 隣人の素顔と現在 第1回

またしても世界的な大ヒット、ドラマ『今、私たちの学校は…』

しかし韓国国内の評価は分かれる。そしてホラーは苦手な人への特別解説
伊東順子

「このドラマは韓国社会の縮図」だという

 

 このドラマの最大テーマは、なぜゾンビが「高校」に出現したのかである。「学校というのは社会の縮図だから」という一般論はもちろん有効だが、それが小学校でも大学でもなく高校であったことには意味がある。それについて言及する前に、韓国の人々の感想を紹介したい。「このドラマは韓国社会全体の問題を映し出すもの」とする以下のような記述は、多くの視聴者に共通する思いのようだ。

 

 ついに期待していたネットフリックス今私たちの学校は開封! 金曜日の夜、部屋の灯りを消して妻と一緒に鑑賞開始ww。まずは3話まで見ましたが、テンポの速い展開と緊張感で満足できますww。3話まで視聴して思ったのは、学校を舞台にしながら社会全体の問題を扱っているということ。

  1. 住む場所による貧富の格差 – 賃貸アパートvsリッチな高級マンション
  2. 学校暴力問題
  3. 学校暴力の問題を隠蔽しようとする学校の態度

(ミステリアン 30代 https://blog.naver.com/yellbs/222634338483

 

 まず、1の「住む場所による貧富の格差」というのは、予告編の短い動画でも示唆的に挿入されている。遅刻しそうな男子学生たちが、学校への近道にある高級マンションの塀を越えるシーンだ。マンションには「部外者の立ち入り禁止」となり、その学生たちは守衛に怒られることになる。また、その時にマンションで暮らす女子生徒が二人登場しており、予告編は文字通りドラマの伏線の1つに「住む場所による格差」があることを予告している。

 格差や差別は世界中に存在するが、韓国では特に「住まいの格差」が深刻であることは、韓国ドラマや小説などのファンの間では周知のことだ。人々がどれほど敏感かといえば、ドラマの放映直後からネット上に「あの高級マンションの実際の場所はどこ?」という質問が並ぶと同時に、またたく間に信欄が埋められていったほどだ。

 もちろん映画やドラマがヒットすれば、そこに登場するロケ地が話題になり、皆が「聖地巡礼」に出かけるのは普通のことだ。このドラマの舞台となった高校や生徒の両親が経営するフライドチキン店など、さまざまな「ロケ地情報」が写真入りでアップされていた。でも、それらと高級マンションの取り扱いは微妙に違うのだ。築年数や分譲価格、さらに現在の推定価格とか、まるで不動産広告のような情報が共有されていた。さらに違和感があったのは、このマンションを扱ったブログの1つが、同じ流れで「賃貸アパート」についても紹介したくだりだった。

 「こちらもロケ現場はつきとめました。でも公開はしないので、知りたい方は個人的にメールをください」

 「賃貸アパート」というのは、韓国では「主に低所得層向けの公営住宅」を指す言葉だ。ドラマの中では主人公のウンジや幼馴染のチュンサンが暮らすアパートとして登場している。高級マンションについては住宅価格まで晒しながら、賃貸住宅は公開しないという「配慮」からは、むしろ問題の深刻さを感じる。正直、気が重くなってしまった。

 それで思い出したのは、10年ほど前にソウルのある地域の小学校に入学した人から聞いた話だ。巨大なマンション団地の真ん中にある小学校には校門が4つあり、どの校門を利用するかでその子の家族のステータスがわかるというのである。また小学校の子どもたちが「おまえの家は何坪?」とマウントをとりあうのは、私自身も聞いたことがある。小さな子どもたちほど、親や周囲の大人の影響を受けやすいのだろう。

 でも高校生は違う。この年頃の子と親の関係は微妙だ。かつて全能だった親は弱点を見抜かれる存在となり、同時に大人たちの欺瞞や社会の不正は嫌悪の対象となる。彼らは友人を大切に思い、戸惑いながらも純粋に誰かを好きになる。高校を舞台にすることで、大人たちもかつてのピュアだった自分自身を思い出すかもしれない。

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プロフィール

伊東順子

ライター、編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。著書に『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』(集英社新書)好評発売中。

 

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