韓国カルチャー 隣人の素顔と現在 第1回

またしても世界的な大ヒット、ドラマ『今、私たちの学校は…』

しかし韓国国内の評価は分かれる。そしてホラーは苦手な人への特別解説
伊東順子

ホラーやゾンビ系が苦手な方へ

 

「韓国カルチャー」の連載を再開するにあたり、第1回は全世界で話題になった『今、私たちの学校は…』にしようと思う。「え、ソンビ映画は苦手なんです」って声はあちこちで聞いたけれど、それは私も同じ。残酷シーンは苦手で、以前から仕事に支障をきたしている。

 『イカゲーム』、『地獄が呼んでいる』と残虐シーン満載のヒット作が続いた2021年も大変だったが、忘れもしないのは今から10余年前、2010年8月に『アジョシ』(イ・ジョンボム監督)と『悪魔を見た』(キム・ジウン監督)が連続公開された時のことだ。ウォンビンとイ・ビョンホンという当時のツートップがそれぞれ主演ということで、日本のメディアも大注目したのだが、どちらもとんでもなく恐ろしい映画で、スクリーンはもう流血の大海原。

 それでも『アジョシ』の方はまだ時々目を覆う程度ですんだが、『悪魔を見た』なんかは、ずっと目を覆いながら指の隙間からスクリーンを見るような状態だった。試写会でそんなことやっている腰抜けライターは私だけだったと思うが、高所恐怖症のアルピニストもいるというから仕方ない。イ・ビョンホンは出演作を選ばないことで、昔からファンを喜ばせたり悲しませたりしてきたが、このときばかりは働き者の彼が憎らしかった。

 前ふりが長くなってしまったが、すでに当時から韓国のホラーやバイオレンス映画のレベルは高く、近年はその分野での世界的評価は決定的なものらしい。それについては各国の専門家にまかせるとして、ここではドラマで取り上げられている韓国社会の断面について書こうと思う。

・そもそもゾンビはなぜ高校に出現したのか?

・取り残された高校生たちはどうやってゾンビと戦うのか?

・韓国政府や大人たちは高校生を救うことができるのか?

 実際にドラマを見なくても、このあたりのテーマを考えてみるのは面白い。ただ世界的な大ヒットの一方で韓国での評価は殊のほか低いこと(映像関係の仕事をする若者の一人は「10点満点中の6.5点」と言っていた)、また韓国で問題になっている学校暴力のシーンに関しても、実際に視聴したほうが議論には参加しやすいとは思う。

 ホラー苦手な私でも一応、完走はできた。目をそらしたり伏せたり大変なのだが、物語の展開はスリリングだし、高校生役の若手俳優たちの演技も新鮮だった。

 「こういう奴、ぜったいにクラスにいるよな」

 そんなふうにドラマに感情移入できるのは、同じ東アジアで暮らす我々の特権だと思う。制服も日本にもよく似たスタイルだし、放送室や音楽室など学校の様子も構造にも馴染みがある。それでいて日本と韓国の教育制度はかなり違う部分もある。

 前半はホラーが見られない人のためにも、作品の内容を紹介しながら解説を加えたい。後半では似ているとはいえ、日本とは違う韓国の教育制度について、またこのドラマを見て「セウォル号事件を思い出した」という人も多いので、それについても書いておこうと思う。

 最後に、今回怖がらずに俯瞰してドラマを鑑賞する方法も習得したので、そちらもお伝えしたいと思う。

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プロフィール

伊東順子

ライター、編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。著書に『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』(集英社新書)好評発売中。

 

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