韓国カルチャー 隣人の素顔と現在 第1回

またしても世界的な大ヒット、ドラマ『今、私たちの学校は…』

しかし韓国国内の評価は分かれる。そしてホラーは苦手な人への特別解説
伊東順子

あらすじ「ゾンビウィルスは新たな感染症」

 

 まず、未見の人や見るつもりのない人のためにも、ドラマの「あらすじ」を簡単に書いておきたい。ネタバレのないように、以下の内容は公式の予告動画に沿っている。

 ドラマの舞台となっているのは韓国の地方都市にある平凡な高校だ。柔らかな日常風景から物語はスタートする。誰もマスクをしていないし、部活の遠征試合も行われている。食堂や教室での風景もまるで「コロナ前」なのだが、人々の台詞などから時代設定は新型コロナによるパンデミック収束後であることがわかる。おそらく撮影が始まった2020年の段階では、制作陣もコロナはすぐに収束すると思っていたのだろう。その後2年も続くとは、当時は誰も予測しなかった。ドラマの中でゾンビウィルスは、新型コロナから数年後に、一地方都市で発生した「新たな感染症」と語られている。

 その「新たな感染症」=ゾンビウィルスの発生源は、高校の科学室(理科実験室)である。そこで飼われていたハムスターに指を噛まれた女子生徒が、学校内での最初の「感染者」となる。感染者はゾンビとなり、それに噛まれた人はまたゾンビになる。そうやって感染はあっという間に拡大し、ゾンビとなった感染者たちは次々に生徒や教員に襲いかかり、校内はまさに阿鼻叫喚の世界となる。

「どうした?」 

「ソンビ……」

「ゾンビがどうして学校に出るんだ? 映画の中の存在だろ」

 当初は目の前で起きている光景が信じられない生徒たちだが、とにかくゾンビから自分とクラスメートを守ろうと必死になる。その攻防戦の中で発揮されるそれぞれの特技、また高校生特有の正義感や友情、さらにぎこちない恋愛感情なども描かれていて、ドラマを身近に引き寄せる。

 また、このゾンビウィルスの性質についての謎解きも、見どころの1つとなっている。

「ウィルスに感染した人間は極限の恐怖を感じたのちに、ただ生きるために相手を攻撃する。人として死ぬよりも、怪物になっても生き残ってくれと」

 こう語るのは、ソンビウィルスを開発した科学教師である。これを演じるのはドラマ『SKYキャッスル』の超教育パパ役、キム・ビョンチョルである。予告動画に彼が登場した瞬間、あの『SKYキャッスル』の狂気が進化した結果ついにゾンビに!? と思うような名演技なのだが、理科室に残された彼のノートパソコンに、ウィルスとの戦いに勝利する秘密が隠されているのだという。

 高校から始まった感染は、その日のうちに地域社会全体にも広がり、政府は軍を動員して市全体を封鎖してしまう。ゾンビから逃れてきた市民は封鎖のバリゲードを突破しようとするが、政府は検査と長期の隔離を命じるわ、市民は感染地域からの人流を阻止しようとデモするわ、現実社会とドラマの内容は交差する。その間にもウィルスは「変異」を起こし、そこから生まれる「無症状感染者」や「特殊抗体保持者」など、ウィルスとの戦いを左右するキーワードも出てくる。

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プロフィール

伊東順子
ライター、編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。著書に『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』『続・韓国カルチャー 描かれた「歴史」と社会の変化』(集英社新書)好評発売中。
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