ガザの声を聴け! 第35回

第2のナクバ(大災厄)

清田明宏
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ある若い人はFacebookで、全く当たり前のように、アマルさんに同意した。

彼は「新たなナクバ」という言い回しをして、それがこのままだと起こりうると言った。ガザからラファを通って出国する場合、許可が必要なのだが、彼いわく、今現在、3万人が申請し、許可が出るのを待っているそうだ。この数値を確認はできなかったが、全人口が194万人しかいないガザでは、3万人というのはすごい数だ。

ガザのことをよく知り、ごく最近までガザにいた外国人の保健医療の専門家にも聞いてみた。私の話を聞いた後、しばらく考え、この様に言った。

「今、ガザの社会は崩壊(disintegrate)しようとしている。もともと、結束は強く、ネットワークもあり、お互い支え合い、ガザの人は生きてきた。それが今、崩壊しようとしている。ガザの人は今、自分のことで精一杯だ。他人のことを考える余裕がどんどんなくなっている。もし、ラファが開き、人々が本当に自由に移動できるようになれば、大量の人がガザを出るかもしれない。ナクバという言葉が適切かどうかはわからないが、大規模の避難民が出る可能性があると私も思う」

2018年は1948年のナクバから70年になる。70年前、パレスチナの地から追われ、ガザ・ヨルダン川西岸・ヨルダン・レバノン・シリアに散り散りとなって逃げたパレスチナ難民。数週間の避難のつもりで家に鍵をかけ、家族で避難したパレスチナ難民。それから70年、全く何の解決もなかった。彼らは依然難民だ。彼らの子孫を含めると、すでに500万人を優に超す。国際社会は彼らの問題を何も解決していない。パレスチナ難民の心にあるのは大きな怒りと絶望だろう。

その、ナクバから70年の今年、問題が解決されるどころか、第2のナクバがガザで起こる可能性があると多くの人が感じている。

過去10年間の封鎖により、経済が麻痺し崩壊寸前。大きな戦争が3度あり、子どもたちは「戦争しか知らない」。

私は、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したことをどう思うか、とアマルさんに聞いた。

彼女はすぐに答えた。

「もともとアメリカのことを信頼していたわけではないので、トランプ大統領の発言でアメリカに対する思いが変わるわけではない。ただ、はっきりしたのは、この発言でパレスチナとイスラエルが共存する『2国家解決案』は完全に死んだ」

2国家解決案とは、パレスチナ国家を樹立しイスラエルとの共存共栄を図る、という中東和平交渉の国際的な原則である。それには、パレスチナ難民の帰還権の問題、ヨルダン川西岸に広がるイスラエルの入植地の将来、エルサレムの帰属、国境の画定など様々な問題の解決が必要だが、なにはともあれ、2国家共存が実現すれば、パレスチナ人が待ちに待った自分たちの国を持つことが出来る。パレスチナ人にとっては長年の夢であった。

実際には2国家解決案は遅遅として進まず、その実現性に疑問を呈する人は多くいたが、それでもやはりそれを信じる、あるいはそれを信じたい気持ちはあった。今回の米国の発言でそれが完全になくなった、とアマルさんは言う。

2国家解決案が完全に死んだと思うことと、第2のナクバが起こると思うこと、この二つは繋がっている。

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ガザの声を聴け!

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

プロフィール

清田明宏
1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。
 
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第2のナクバ(大災厄)

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