ガザの声を聴け! 第37回

なぜフェンスを目指すのか

清田明宏
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「なぜそう思うの?」と聞いてみた。

 

するとアマルさんはしばらく黙った。そして目に涙を浮かべ、こう話してくれた。

 

「あなたには難民の生活はわからない。難民生活がどういうものかわからない。難民キャンプはすでに70年経っているが、それでも難民キャンプであることには変わりはない。名前から未だに難民キャンプだ。家でも本当の故郷のベルシェバの話をよく聞く。ここはやはり仮住まいの避難の地だ」

 

彼女が涙を流すのを初めて見た。私に対して厳しい発言をするのも初めてだ。少しショックではあったが、彼女の真摯な態度、本当にありがたかった。彼女の言う通り、難民の生活を経験していない私には、難民が本当はどういうものかは、絶対にわからない。そう自覚しなければならない。

 

アマルさんが続ける。

 

「今回のデモは、ガザにいる若い難民の共通した強い思いの表れだ。確かに“八方塞がりの絶望感”もあるが、前向きな思いで参加している人もいる」

 

前向きな思いという言葉に、思い当たることがあった。

 

実は、その日の朝にシーファ病院で、デモに参加して負傷した患者に会った。彼は22歳の男性で、左のふくらはぎを撃たれて松葉杖で歩いていた。これから退院するとのことだ。その彼が思いを語ってくれた。

 

彼はパレスチナ難民ではなかった。ではなぜデモに参加するのかと聞くと、「知り合いのパレスチナ難民が多く参加している。彼らへの共感を示すために参加したのだ」と答えた。他の参加者と一緒にフェンスに向かった。そこで撃たれたのだ。

 

「フェンスに向かうとき怖くなかったのか」と聞くと、「全く!」と力強く答えた。

 

「我々はエルサレムに行くのだ。そのためのデモで、そのためのフェンス行きだ。エルサレムに行くということの前に、怖いものは何もない」と。

 

そして言った。

 

「今度あなたがガザに来たときは、私がエルサレムまで連れて行ってあげる」

 

彼の強い口調がとても印象に残った。

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ガザの声を聴け!

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

プロフィール

清田明宏
1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。
 
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