ガザの声を聴け! 第43回

2018年7月「なんのために苦労してきたのか」

清田明宏
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では、ダマスカス市内、その近郊は本当に普通の生活が戻っているのか。その判断は非常に難しい。確かに物理的な戦闘行為は見られなかった。以前の訪問時に耳にした砲撃の音、ダマスカス近郊から上がる噴煙等はなかった。本当に静かだ。

 

この状況は、長い7年の内戦の終わりの始まりだろうか。それともまだ始まりの終わりなのだろうか。そういう思いが心をよぎった。

 

第2次世界大戦の北アフリカでの激戦地にエジプトのエル・アラメインがある。1942年に、英国軍とドイツ・イタリア軍が激戦を続け、最終的に英国軍が勝った。第2次世界大戦はまだ初期で、この勝利は英国にとって重要だったが、この勝利が全てではなかった。

 

そのことを当時の英国の宰相、チャーチルは以下のような有名な演説で述べた。

 

「Now this is not the end. It is not even the beginning of the end. But it is, perhaps, the end of the beginning.」。

 

私訳だが、「これは終わりではない。終わりの始まりでさえもない。これはおそらく、始まりの終わりだ」という意味である。

 

この表現を使えば、ダマスカスやシリア南部の状況はもちろん、内戦の終わりではない。では、内戦の始まりの終わりなのか、それとも終わりの始まりなのか。もちろんシリアをめぐる国内外の政治状況は非常に複雑で、国際社会のシリアに対する対応も、千差万別だ。いつ何が起こるかわからない状況は続いている。

 

ただ、ダマスカスで会った人(シリア人)に現状をどう見るかを聞いてみると、大きな期待を込めて、「(内戦の)終わりの始まりだ」という人が多かった。「内戦の戦況という意味では、少なくとも首都ダマスカス周辺は、最悪の状況は切り抜けた」「これからは徐々に上向いて行く。そうなってほしい」との声もよく聞いた。

 

 

我々が泊まっているホテルの前に国立博物館がある。本館の建物はまだ閉まっているが、シリア各地の遺跡から出土した様々な像が配置されたとても綺麗な庭園がある。仕事が終わってから、ふらりと行ってみた。庭園を歩いていると、シリア人の女性が話しかけてきた。「日本人か?」と聞かれたので、「そうだ」と答えた。すると「私の娘は日本語が少しできる」と言った。彼女の娘さんもやってきて、日本語で、「あなたの名前はなんですか?」と聞いてきた。「清田です」と答えて、「なぜ日本語ができるのですか?」と聞くと、「アニメが好きでよく見ている。コナンが大好きだ」と言った。

 

 

「ダマスカスはどう?」と聞くと、「ようやく静かになった」と笑顔で答えてくれた。「状況はこれが底だと思う?」と聞くと、頷いた。シリア人は知らない人とは政治的な話はしない。それ以上質問するのはやめたが、彼女たちの弾けるような笑顔は印象的で、「終わりの始まり」であってほしいと願わずにはいられない。

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 第42回
ガザの声を聴け!

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

プロフィール

清田明宏
1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。
 
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2018年7月「なんのために苦労してきたのか」

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