平成消しずみクラブ 第2回

いいんだヨ、これで

大竹まこと

「知仁」
「オー、マコトか」
「やってるね」
「本当に来てくれたんだ」
「当たり前だろ……」
「……」
「……」
「お前、たまにテレビで麻雀やってるね」
「……」
「又、昔みたいに麻雀やろうか」
「うん、本当か」
 四十年前、私達は仕事もなく、毎日麻雀ばかりしていた。斉木の誘いで風間も私も、銀座のラーメン屋の出前のアルバイトをしていたのだが、そこは日銭で金を払ってくれた。だから深夜の二時まで働いて、それから朝まで麻雀になる。負けた者は、次の日もバイトに向かい、勝った奴は、一日を優雅にすごす。
 優雅といっても、ゆっくり起きて、喫茶店のモーングセットで腹を満たし、パチンコに向かう。一体、どこが優雅なのか。
 風間と二人、高田馬場のフリーの雀荘に麻雀を打ちに行ったことがあった。
 朝まで打って、スッテンテンにされて、電車賃しか残らなかった。
 朝の八時頃、私達は駅に向かう通勤客とは反対に、トボトボとアパートに歩いた。
 何人もの学生やサラリーマンとすれ違った。その坂道で私は誰にもなく、つぶやいた。
「毎日がこんなんだなあ。俺たち、どうすんだろ」
 しばらくたって、今度は風間が風に向かって言った。よく聞こえない。
「何か言ったか」
「これでいいんだ」
「……」
「いいんだヨ、これで。大竹」

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平成消しずみクラブ

連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。

プロフィール

大竹まこと

おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。

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