カマラ・ハリスを生んだアメリカ 第3回

「壁」を破るために進化する ミシェル・オバマ

津山恵子(つやま・けいこ)

2008年11月4日、歴史が変わった

2008年、オバマ大統領候補を追いかけていて多くの黒人の友人ができた。彼らとの話題の半分は、ミシェルのことだった。右端が筆者。(2008年10月4日、バージニア州ニューポート・ニューズ)

 ジャーナリスト人生で、過去に一番感動した出来事は何だったかと問われると、「2008年11月4日午後10時」に目にしたことだと答える。米イリノイ州シカゴ中心部の公園で、米大統領選投開票日のこの日、バラク・オバマ候補(当時)陣営が開いた集会だ。

 園内に設置されていた巨大スクリーンで、CNNの開票特別番組を見守っていると、突然、「オバマ、大統領に当確」の速報が映し出された。集まった20万人超の市民の歓声と熱気が、夜空に放たれた。周りにいた黒人が皆、地面に突っ伏し、声を上げて泣いていた。そんな光景を見たのは初めてだった。

 

 ある黒人カップルは地面から起き上がると、枯れた芝生を服からはらいながら、一眼レンズカメラを持っていた私に近寄り、こう言った。

「人生で一番幸福な瞬間にいるニガー(黒人の蔑称で禁句)の写真を撮ってくれる?」

 約1時間後、オバマとミシェル夫人、娘のサーシャ、マリアが軽やかにステージに現れた。ニガーと呼ばれて差別され、リンチで殺害さえされてきた黒人が、世界で最も権力を持つ首脳の地位を獲得した。

 そのオバマの横に立つミシェルも、圧倒的な存在感がある背が高い黒人女性だ。オバマは、彼女を「僕のベストフレンド、そして将来のファーストレディ!」と支持者に紹介した。「妻ではなく、ベストフレンドなのか!」と、別の興奮がさらなる歓声を呼んだ。シカゴの夜、見えない壁が崩されていく――そんな歴史的瞬間の最中にいた。

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カマラ・ハリスを生んだアメリカ

女性として、黒人として、そしてアジア系として、初めての米国副大統領となったカマラ・ハリス。なぜこのことに意味があるのか、アメリカの女性に何が起きているのか――。在米ジャーナリストがリポートする。

プロフィール

津山恵子(つやま・けいこ)

ジャーナリスト、元共同通信社記者。米・ニューヨーク在住。2003年、ビジネスニュース特派員としてニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。米国の経済、政治について「AERA」、「ビジネスインサイダー」などで執筆。近著に『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)がある。

 
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「壁」を破るために進化する ミシェル・オバマ