ジャズに日本語は乗せられるのか
先述のジョン・ヘンドリックスは作詞家として、「ボーカリーズ」という器楽のフレーズに全て歌詞を乗っける、トリッキーな手法を編み出したオリジネーターです。
これは特にビッグバンドで行われるのですが、わかりやすい例で言うと、マンハッタン・トランスファーの80年前後の作品が、この手法で大成功しています。『ボーカリーズ』という素晴らしいアルバムが出ていますので、ぜひご一聴おススメします。
このアルバム、セールス的にもマイケル・ジャクソンの「スリラー」をチャートで2位に追い落し、加えてその年のグラミーで12部門にノミネートしたモンスターアルバムでもあります。つまり、ジャズの手法で作られたアルバムがポップスを乗り越えた瞬間でもあったわけですね。
その中に「I Remember Clifford」という曲があります。25歳で急逝したクリフォード・ブラウンへ捧げられ、テナーサクスソフォニストのベニー・ゴルソンが作曲しています。1957年にトランペッターのドナルド・バードにより録音されています。
この切ないバラードにジョンが歌詞を作って乗せています。今回は歌詞とメロディの幸福な結婚に成功している、この名作で締めたいと思います。拙作ですが僕が意訳を試みます。きっと皆さんの心にそれぞれの素敵な日本語の歌詞が浮かぶといいなあと、願いを込めて。
クリフォードを忘れない
クリフォードが忘れ去られるなんてないことわかってる
今も鳴り響くあのメロデイ
彼こそが無冠のキング
全ての王に王冠が与えられるわけじゃない
そうずっと忘れはしない
いつだって
温かいの
彼の音は温かい
包まれるみたいに
ずっと長いことまだすぐそこ近くにいると思う
聴いたことがある人は
何度も何度も再び繰り返し聴いて
まだ忘れないこの先もきっとずっと
永遠に一番近い音
賞賛に満ち満ちていて
宇宙全体に響き渡り
数えきれないほどの無限の時間のため
日ごと
かなり小さな刺激的なあの通路
クリフォードが演じた
そのジャズは今もここに
私たちと一緒に
どんなに辛い時も
乗り越えられるって思わせてくれる
時間と神聖な状況こそ許せば
そうよ 曲たちは永遠に生きる
ああ、そう 今もクリフォードを思い出す
クリフォードの精神を感じてるみたい
なんかわけもなく揺さぶられて
覚えてる
毎日 その日その日
愛すべきトランペットの音色が聴こえる
あんなに絶妙に歌ってる
トランペットの筒 全てが鳴っている
そう全てその筒そのものがね 誰かその方法を教えて
どうすれば確実にあんなふうに吹けるのか
クリフォード·ブラウンが吹くみたいに
本当に彼は消えたって言われることだってあるけど
私には今も確実に聴こえる
彼はいつだってそこにいる
信じないとねクリフォードはまだ、そう彼の奏でる音はまだ
この先だってクリフォードを忘れない
クリフォード·ブラウンを忘れない
クリフォード·ブラウンを忘れない
(大江千里・意訳)
プロフィール
(おおえ せんり)
1960年生まれ。ミュージシャン。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」などヒット曲が数々。2008年ジャズピアニストを目指し渡米、2012年にアルバム『Boys Mature Slow』でジャズピアニストとしてデビュー。現在、NYブルックリン在住。2016年からブルックリンでの生活を note 「ブルックリンでジャズを耕す」にて発信している。著書に『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』『ブルックリンでソロめし! 美味しい! カンタン! 驚きの大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(ともにKADOKAWA)ほか多数。