メロディと歌詞の幸福な結婚とは?
ジャズの歌詞には、成熟した男女のロマン、というシンプルな世界観が多いのが特徴です。そこが素敵なんですね。
例えば、卑近な例ですが僕の4枚目のジャズアルバム『Answer July』でジョン・ヘンドリックスに作詞をしてもらった曲を例にとってみます。
僕には日本語の歌詞のイメージがぼんやりあるので、まずその内容をジョンに説明します。彼はそれを理解した上で僕の隣で何度も言葉とメロディを一緒に歌って出す作業をします。それを僕が紙に言葉を書き出して、彼にチェックしてもらいます。そうやって、この曲のサビができました。
ちょっとのワイン それだけがきみの望むもの
だから人類は葡萄を植え 種を刈り取る
そしてもうひとつ 時間が熟成をくれる
ただ それだけこそがワイン
ただ ささやかなりのワイン
(大江千里・意訳)
手書きでぐちゃぐちゃに書いては消してを繰り返した紙の上に、ジョンの口から飛び出す新しい言葉を書き足します。韻を踏む単語をいくつか並べてみて、いいものに丸をして。もう一回歌ってみて。
こうして先に作ったメロディの作者が横にいて、歌詞の世界観を作詞家に直に伝えつつ、ジョンは作詞家であると同時に偉大な歌手でもあるので、歌いながらメロディと言葉をマリアージュさせていくわけです。
プロフィール
(おおえ せんり)
1960年生まれ。ミュージシャン。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」などヒット曲が数々。2008年ジャズピアニストを目指し渡米、2012年にアルバム『Boys Mature Slow』でジャズピアニストとしてデビュー。現在、NYブルックリン在住。2016年からブルックリンでの生活を note 「ブルックリンでジャズを耕す」にて発信している。著書に『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』『ブルックリンでソロめし! 美味しい! カンタン! 驚きの大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(ともにKADOKAWA)ほか多数。