大江千里のジャズ案内 「ジャズって素敵!」 Vol.6

僕のジャズには歌がある

大江千里

メロディは歌詞とともに

僕はジャズを学ぶ学生だった頃、クラスで作曲の課題があると、必ずと言っていいほどまず歌詞のついた曲を作り、そこから歌詞を抜いてメロディだけにして、クラスへ持って行っていました。シンガーソングライターだったときから、曲を書くときには必ずと言っていいほど「歌詞とメロディを一緒に作っていた」からです。

それがジャズを作曲するときにも、自然となんらかの言葉がメロディと一緒に出てくるんです。不思議なものでそうやって出てくるメロディと言葉の組み合わせによって、景色が鮮やかに目の前に浮かび、その景色が次のメロディを引っ張ってくるのです。

具体例を紹介しましょう。ポップス時代に作った「格好悪いふられ方」などまさにその典型例です。まず歌の最初に曲の主題(格好悪いふられ方)を提示します。すると「2度と君に会わない」のフレーズが導き出される、つまり曲が動き出すのです。

歌ってみるとわかりますが、俳句のように一息で歌えるここまでをワンフレーズとすることで、メロディの抑揚がしっかり決定されます。

すると今度は全く同じメロディラインを使って「大事なことはいつだって、別れて初めて気がついた」とくるわけです。なかなかこうして自作の「からくり」を明かす機会もないので面白いでしょう。

これは先ほど出した「Lullaby of Birdland」「In A Sentimental Mood」と同じ論理、つまり「メロディは強力な歌詞により節を持つ」のと、「主題をまず曲頭で歌う」という観点から作られていることにお気づきでしょうか。ポップスとジャズ、遠いように見えて、歌詞という視点を導入すると、案外近いような気がしませんか?

インストゥルメンタルでも歌詞をつける作曲には、歌詞の言葉によって、曲の本質が見えやすくなるという利点があります。

さまざまな曲の書き方があって然るべきですが、メロディを先に譜面に書き込んで作曲をする場合と、歌詞と一緒に同時に作る場合とでは、メロディの抑揚、休符の入り方が全然違うのです。

ちょっとここは大事な部分なんで、深掘りしながら進めますね。例えばどんなフレーズでもいいのですがシンプルに「君のことが好きだよ️」、この言葉が最初にあるとします。どんな譜割りが浮かびますか? 

ロックであれば「き、み、のことが、す、き、だよ」ってのもありだし、「きみの、こ、と、が、すーき、だよ」もいいですね。ビートを強調する感じです。フォークであれば一気に早口で「きみのことがすき、、、、、、、、だよ」とか「き、み、のことがすきだ、、、、、よ」もありかも。

まずどんな曲調かを決めるのです。よし、ロック調でU2みたいにいこう、いやいやビートルズの「イエスタデイ」はどうだろう、もしかしたらちょっぴりモータウンっぽくしてもいいかも、などなど。このリズム的アプローチで、

ロック調(長調で):

「き、み、のことが、す、き、だよ」を「ソ、ソ、ソフェミド、レー、ソ、ファミ」

フォーク調(長調で):

「きみのことがすき、、、、、、、、だよ」を「ソソソソソソソラー、、、、ソソ」

随分ざっくりですが歌うイメージができました? 実際に歌って確かめてみてください。

じゃあ、これをジャズでやるとどうなるかみてみましょう。ジャズで肝になるのは半音、休符、3連符、アンティシペーションなどを使って「粋」な出だしにしてみることです。

出だしを考えたら、次はジャズシンガーのイメージは誰にしましょうか。カーメン・マクレー? エラ・フィッツジェラルド? サラ・ヴォーン? それともナンシー・ウィルソン?

じゃナンシーで行きます。ナンシー・ウィルソン&キャノンボール・アダレイ「The Old Country」の曲調で、「きみの、ことが」と歌ってみます。短調で「ドレ♭ミ、ソソファ」次の「すき、だよ」を「レファ、レ♭ミ」。そっくりそのまま「The Old Country」の出だしを使っちゃいましょう。

試作品はこうして先輩のいい作品を真似てスタートするのがとても肝心です。恥ずかしがってはいい曲はできません。リスペクトを込めて丁寧に! その代わり、次の部分は自分で編み出しましょう。

歌詞は「瞳の影も、俯く癖も」なんてどうでしょうか? じゃこれを「瞳の、影も」を「ドレ♭ミソ、♭シラ♭ラ」。「俯く、癖も」を「レ♭ミファ♭ラ、♭ラソソ」。

ジャズ調(短調で):

「きみのことが、すきだよ、瞳の影も、俯く癖も」を

「ドレ♭ミソソファ、レファレ♭ミ、ドレ♭ミソ♭シラ♭ラ、レ♭ミファ♭ラ、♭ラソソ」

こうして景色の中に自分が主人公になったつもりで曲中に置いて、メロディを作るのです。慣れてくると半音や休符を活かしながら、インパクトのあるジャズっぽい出だしを模索するわけです。

メロディだけで作ろうとすると、どうしてもコード(和音)の響きの中でメロディの音を探してしまいますので(いわゆる手癖)、聴く人が先の展開を予測しやすくなる危険性が出てきます。なのでこうやって言葉がメロディを一緒に牽引すると、より幅広いメロディを得ることができます。

どうですか? 若干、難しかったですか? もし分かりづらかったらごめんなさい。でももし「言葉とメロディが一緒だとシーンがイメージしやすく」「より覚えやすいメロディを作る」ことが伝わっていれば僕としては嬉しいです。

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最終回  

プロフィール

大江千里

(おおえ せんり)

1960年生まれ。ミュージシャン。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」などヒット曲が数々。2008年ジャズピアニストを目指し渡米、2012年にアルバム『Boys Mature Slow』でジャズピアニストとしてデビュー。現在、NYブルックリン在住。2016年からブルックリンでの生活を note 「ブルックリンでジャズを耕す」にて発信している。著書に『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』『ブルックリンでソロめし! 美味しい! カンタン! 驚きの大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(ともにKADOKAWA)ほか多数。

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