オレに死ねと言ってんのか? ━検証!高額療養費制度改悪━ 第16回

大局的な視野に立って高額療養費制度〈見直し〉を捉える必要がある【後編】

―二木立氏との一問一答
西村章

現在進む制度改革の議論をどう評価するか?

――制度改革という面では、保険が変わると高額療養費の多数回該当がリセットされてしまうという現行制度上の問題は、専門委員会でも再三指摘されてきました。

二木:制度上困難、というのはできないということではないんですよ。理屈は後からいくらでもついてくる。ただし、これは力関係の問題だから、どうなるのか私には予測はできません。

――高齢者の金融所得を把握して窓口負担や保険料率の算定基準に反映させる、という方向の制度改正議論も進んでいます。

二木:金融所得の把握については、私は以前から賛成です。本来は全世代でやるべきだと思いますが、高齢者に限定しているのは、技術的に手続きが簡単であることと、今は勤労世代が負担増になる政策提案を避けたいという政治的判断の両方だと思いますね。
 高額療養費制度の高齢者外来特例(※7)も部分的に縮小する程度で、一気に全面廃止するようなことにはならないでしょう。介護保険料や自己負担の見直しなども議論されているので高齢者の負担だけが大きく増えないように調整すると思います。高市総理自身が総裁選の政策アンケートで「高額療養費の自己負担を引き上げるべきではない」と言った以上、大きな負担増にはできないでしょう。
 自維連立合意書では、社会保障政策の中で高額療養費にひと言も触れていませんでした。12月2日の財務省財政制度等審議会の冬の「建議」でも、社会保障・医療の項で医療費抑制や給付範囲の縮小について様々な提案をしているなかで「高額療養費制度の見直し」についてはまったく触れていません。2024年冬の「建議」では「高額療養費制度の見直し」について以下のように書いていたのと対照的です。

オ)高額療養費制度の見直し
高齢化や医療の高度化により医療費が増加しているが、高額療養費制度により患者負担が抑えられてきたことなどにより、患者の実効負担率が低下している。 高額療養費制度については、世代間・世代内での負担の公平化を図り、負担能力に応じた負担を求めることを通じ、現役世代をはじめとする被保険者の保険料負担の軽減を図る観点から、物価・賃金の上昇など経済環境の変化も踏まえ、必要な見直しを検討すべきである。あわせて、高額療養費制度の意義や仕組みについて、国民に分かりやすく周知することも徹底すべきである。〔資料Ⅱ-1-74参照 〕(P49)

 「建議」は、来年度予算編成に向けた財務省の「最大限要求」で、現実の政府の医療政策は「建議」の枠を超えて進むことはないので、このことは、少なくとも2026年度の「高額療養費制度の見直し」は、外来特例の部分的見直しなどのごく部分的なものにとどまることを示唆しています。
 これは論文(※8)にも書いたことですが、2024年末の原案は患者の自己負担を段階的に大幅に引き上げる内容で、高額所得者に至っては1ヶ月の負担が25万2600円強から44万4300円強へと、19万1700円(75.9パーセント)もの負担増でした。それがそもそもの失敗です。そしてその諸悪の根源は、子ども子育て支援加速化プランの財源確保のために1.1兆円を減らすのが至上命令だったことです。それがなければ、せいぜい10パーセント程度の穏やかな引き上げ幅提案ですんでいたかもしれません。
(※7)年間所得が一定額以下になる70歳以上の高齢者は、外来診療で支払う1年間の自己負担限度額を低く抑えられる制度
(※8 二木立「私が高額療養費制度の患者自己負担増に強く反対する理由」:『文化連情報』2025年4月号 28-37P)

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プロフィール

西村章

西村章(にしむら あきら)

1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。

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