得られる効果は小さい一方、患者にとっては非常に大きなリスクを伴う改革
12月25日には、第9回の高額療養費制度の在り方に関する専門委員会が上部委員会の医療保険部会と合同で開催された。上記〈見直し〉案の金額などについても、その場で厚労省担当者から資料に沿った説明が行われた。
この説明に対して、全がん連・天野委員は共同声明にもあるとおり、金額案が充分に抑制的ではないとして以下のように指摘した。
「多数回該当の据え置きと年間上限の新設により、長期にわたり継続して治療を受ける患者の年間での負担軽減を着実に実行していただくことは重要と考えますが、一方で月ごと の限度額については現状でもまだ十分に抑制されていないと考えますので、引き続き治療 断念や生活破綻につながることがないように、さらなる抑制を検討していただきたいと考えております」
「月ごとの限度額については、いわゆる現役世代がすでに高い社会保険料負担をしている現状がある中で、応能負担に基づいて負担が大きくなっておりますので、特段の配慮が必要と考えます」
また、JPA・大黒委員も、自己負担上限額の引き上げによって患者の治療断念が生じる危険性を指摘したうえで、以下のように述べた。
「今回の見直しは、増大する医療費の抑制や現役世代の保険料負担軽減を目的としています。しかし、高額療養費は医療費総額の約6.8%にすぎず、見直しによる医療費抑制効果は限定的だと思います。また、保険料への影響も小さく、見直しによる一人あたりの保険料軽減額は平均で月100円から200円程度にとどまると考えられます」
「高額療養費の見直しはその性格上、得られる効果が小さい一方で、患者にとっては非常に大きなリスクを伴う改革であるといえます。よって、今回掲げられている目的を達成する手段としての高額療養費制度見直しは必ずしも適切とは言えず、見直しは限定的にとどめるべきだと考えます」
そもそも昨年(2024年)12月の政府予算案で高額療養費の大幅な自己負担引き上げが盛り込まれた理由は、岸田政権時代に「予算調達に新たな増税をしない」と大見得を切った〈こども未来戦略〉加速化プラン用の資金繰りであったことは、当連載でも何度も指摘してきたし、3月に一時凍結された際の各メディア報道でもさんざん言及された。国会論戦などの際に「国民医療費を上回るスピードで高額療養費が上昇している」「超高額薬剤が年々増加している」等々、政府関係者が挙げた理由は、いわば後付けのようなものにすぎない。さらにいえば、社会保険料を軽減するために高額療養費の自己負担上限額を引き上げる行為は、健康な現役世代の負担を疾患当事者の治療費支払いで埋め合わせようとするコストシフティングであることも、すでに述べたとおりだ。
昨年の政府案は、世間の全方面的な反対で一時凍結となった。そして、その後の仕切り直しで、充分とはいえないまでもそれなりの時間と回数をかけて議論を経た結果、今回の〈見直し〉案が政府によって示された。この新たな〈見直し〉案と、それを受けて当事者団体から発表された声明や専門委員会での意見を、世の人々ははたしてどのように受け止めるのか。
この新たな〈見直し〉案は、冒頭にも記したとおり、財務相と厚労相の閣僚合意を経て、12月26日に2026年度予算案として閣議決定された。その結果、議論の場は2026年1月23日に召集される通常国会の予算委員会に移る。
民意が、そこでふたたび験される。
プロフィール

西村章(にしむら あきら)
1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。


西村章





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