世界の都市はなぜ木を植えるのか~「都市の森」減らす日本 増やす世界~ 第2回

日本ではなぜ木が伐られるか? 神宮外苑伐採の現場から考える

大澤暁

わずか5日で出された樹木伐採許可

 2024年10月28日、大きな反対の声を押し切って、神宮外苑再開発による樹木伐採工事が強行的に開始された。現場では泣きながら伐採をやめるよう訴えている市民もいた。しかし、そんなことはおかまいなしに工事は行われた。

 樹木の伐採は急ピッチで進んだ。早く木を伐ってなくしてしまい、再開発に反対する市民を黙らせる狙いだろう。工事を強行し、市民を意気消沈させる、デベロッパーがよくやる方法だ。

 11月には神宮外苑の中でも創建時の木々がまとまって残されていた建国記念文庫の杜の伐採も始まった。12月には創建当初に植えられた、神宮外苑のシンボルツリーだった霞ヶ丘門のスダジイが伐採された。2025年1月には樹齢100年を超えるヒマラヤスギの大木が、工事車両の邪魔になるからという理由で伐採された。マス・メディアはその様子をほとんど報道しなかったが、現地で見ていると本当に心が痛くなる光景だった。

神宮外苑再開発の樹木伐採工事(2024年12月)

 神宮外苑は風致地区に指定されているので、樹木を伐採するには自治体の許可がいる。はじめに伐採が行われたエリアは、新宿区が伐採が始まる直前の10月25日に許可を出した。調べてみると、新宿区はわずか5日で許可を出していたことがわかった。それどころか、工事のために道路を使用する警察への申請などは、新宿区が許可を出した10月25日より前に出されていた。つまり、新宿区が25日までに樹木伐採の許可をすることは、あらかじめ予定されていたのだ。すべて出来レースで、樹木伐採の可否を真剣に検討することなどハナから考えられていなかった。

知らないうちに変わっていた風致地区

 私たちは、新宿区が行った神宮外苑の樹木伐採許可は違法であると、取り消しを求める訴訟を東京地裁で起こした。

 先にも述べたように神宮外苑は「都市の風致を維持する」という目的でつくられた風致地区条例によって、自然や景観が守られているエリアだ。さらに言えば、明治神宮の内苑と外苑は1926年に風致地区の第一号に指定された場所でもある(※)。そのような歴史的に見ても重要な樹木が、なぜ伐採されるのか?

提訴後に東京地裁で記者会見する筆者(撮影:川口真央)

 答えを聞くとあぜんとした。東京都の依頼を受けて、建物の高さ規制や緑化基準を緩和したS丙地域という新しい風致地区のカテゴリーを新宿区は設け、風致地区の中でも最も規制の厳しいA地域、B地域に指定されていた神宮外苑のエリアを、そのS丙地域に変更してしまったというのだ。

 これではいくら厳しく条例で木々を守っていても意味をなさない。例えて言うならば、窃盗を禁止する法律はあるものの、盗みたいものがある場所だけ法律を緩和して、窃盗を認めるような話だ。

 しかも新宿区はこの風致地区の変更を、区民に知らせず、議会にも専門委員会にも報告せず、秘密裡に行っていた。裁判の中でこのことを追及すると、新宿区は「区のHPで風致地区を変更したことは示していたので秘密裡ではない」と反論した。しかし実情は、新宿区HPのトップ画面から「くらし」「住まい」「建築」「東京都風致地区条例」と4つ下へ行った先に、変更した後の風致地区の図を1枚、何も言わずにアップしていただけである。

「風致地区の変更のお知らせ」といった案内がHPのトップ画面にあればまだわかるが、そういったこともなく、ただPDFが1枚、HPの深いところに何も言わずに出されたというだけだ。隠す意図があったとしか思えない。

新宿区がHPに出した風致地区変更を示す書面

 2023年9月に『Relay~杜の詩』という神宮外苑再開発についての想いを歌った曲を発表したサザンオールスターズの桑田佳祐氏は、東京都の指示を受けて新宿区が行ったこの風致地区の変更について、次のように語っている。

「そもそも風致地区といわれた神宮の杜なのに、いつの間にかその条例が変わっていて、それまでは建物の高さも15メートル以内という規制が、180何メートルものビルが計画可能なまでに緩和されていた。しかも地下40メートルまで掘られる想定で、ゆくゆく工事が始まっていく…。我々は遅ればせながらそのことに気づいたわけで、事前にもう少し話し合うことができなかったのかな、という想いを抱えることとなったんです(中略)森が伐採されたりすることなどへの違和感を、多くの人間が持っているのは事実だと思うし、だったら“失うもの”はこれだけで、“得るもの”はこれだけといったことなどを、穏やかにコミュニケーション出来ればいい」(「特別コラム 〜詩に込められた思い〜」

 まさに桑田氏の言う通りだ。私たちは「絶対に木を伐って建物を建てるな」と言っているわけではない。風致地区を変更して、木を伐って建物を建てるのであれば、事前にしっかりと情報を開示して、市民の意見を聞き、コミュニケーションを取った上で決定することが、民主的なプロセスとして必要ではないか、と言っているのである。区民にパブリックコメントを取るなどして意見を聴取し、その上で進めるなどいくらでも方法はあるだろう。新宿区のやり方はあまりに乱暴で、裁量権の濫用にあたると考える。

※1926年の風致地区第1号には、明治神宮の内苑と外苑をつなぐ参道が指定された。外苑一帯が風致地区になったのは戦後。

サザンオールスターズが神宮外苑再開発について歌った「Relay~杜の詩」の街頭ポスター
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 第1回

プロフィール

大澤暁

(おおさわ さとる)

テレビ東京で「WBS(ワールド・ビジネス・サテライト)」など報道番組の記者・ディレクターを担当。現在はジャーナリストとして活動。明治神宮外苑の再開発に近隣住民として反対し、新宿区に対する樹木伐採許可取り下げ訴訟の原告団長を務める。X(旧Twitter)フォロワー3.9万人「ミド建築・都市観測所」(https://x.com/Mid_observatory)を運営。早稲田大学第二文学部卒、京都大学公共政策大学院卒。1983年生まれ。

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