特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第10回

世界選手権フリー。羽生結弦が、すべての選手が与えてくれた「新しい幸せ」をかみしめる

高山真
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 フィギュアスケートの世界選手権、3月23日はアイスダンスのフリーと男子シングルのフリーがおこなわれました。強力なチケット運を誇る知人のご相伴にあずかる形で現地観戦できましたが、会場ではもちろん、帰宅してからもずっと興奮状態と虚脱状態がミックスしたような、不思議な感情に支配されています。とにかく、凄い試合でした。
 世界選手権が開幕する前、私はこの連載で、
「羽生結弦から『新しい形の幸福』を見せてもらえることになる」
 という意味の言葉を何度か書いてきました。
 3月21日のショートプログラムが終わったとき、私は羽生結弦があらわにしていた「自分自身への怒り」に対し、新鮮な感動を覚え、こう書き記しました。

 

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「ああ、羽生結弦というスケーターは、これだけの結果を残してもなお、競技の世界ですべてを出し尽くさずにはいられないのだ」
 と感じ入った、と言いますか……。それはもしかしたら、「幸せ」に近い感覚だったかもしれません。
 2012年に世界選手権に初出場した羽生結弦は、すでにフィギュアスケートの世界ではベテランともいえる存在です。それだけのベテランで、かつ「すべてのタイトルを手にした」と言ってもいい実績がありながら、まだ新人のような向上心や闘争心を持っている。私はそこに感動し、思ったのです。
「まだまだ、続けてくれるんじゃないか」
 と。

(中略)

「いま、競技生活を続けてくれていること自体、ものすごく有難いことなのだから、羽生結弦がいつ競技生活に幕を引こうと、仮に『そのとき』がわりと早くにやってきたとしても、ただただ感謝の気持ちだけを持っていよう」
 もちろん、その思いは今でも変わりません。変わりませんが、今日のショートプログラムを見た後で、「もしかしたら、『そのとき』はもう少し先の話になるのかもしれない」という希望が私の中で生まれたのも、事実なのです。
 勝負することが何よりも好き。どんなに「勝ち」を積み重ねても、勝負好きな面が摩耗しない……。それはアスリートにとって、もっとも大切な精神面の才能かもしれません。羽生結弦の中には、「オリンピック連覇」という大偉業を成し遂げた後でも、眠らせることのできない「何か」がある。それを感じ取ることができた、今日のショートプログラム。私にとっても新しい感受性が刺激された試合になりました。
 ショートプログラム後の記者会見で、羽生は、
「悔しい気持ちでいっぱい。一生懸命にできること、やれることを積み上げていきたい」
 とはっきり口にし、
「強い選手と戦うことはやっぱり楽しい。それがいちばん『スケートがもっとうまくなりたい』というモチベーションになる」
 と語っていたそうです。
 フリーは3月23日に開催されます。中1日で、羽生結弦はどのように覚醒をしていくのか。それが今から楽しみでなりません。それは、私にとっても「新しい楽しみ」なのです。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

 
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