フィギュアスケートの2019-20年シーズンがもうすぐ本格的に開幕します。毎年、夏から秋にかけて、私は過去のレジェンドスケーターたちの名演技を見返す楽しみを享受しているのですが、今回はそれとは別に、何度も見返している映像があります。
今年5月から6月にかけて開催された『ファンタジー・オン・アイス』、その神戸公演のエンディングで羽生結弦が跳んだ4回転ルッツ! そして、着氷した瞬間のガッツポーズと万感の表情……。ほぼ2年ぶりに見た羽生結弦の4回転ルッツは、私にもさまざまな感慨をもたらしてくれました。
大きなケガの原因となったジャンプにもう一度取り組む。肉体面だけでなく、精神面でも越えなくてはいけない高いハードルがあったはずだと思います。
「恐怖や不安」と言葉にすると簡単になってしまいますが、それらと戦うことの重さは、「ケガ/病気」というカテゴリーの違いはあれど「それなりに大きな病の山を越えたかな」とようやく実感できている私にとって、非常にリアルな感覚だったりするのです。
ルッツが成功したことはもちろん素晴らしい。どんなに拍手をしても足らないくらいです。同時に、私は「成功したこと」以上に、「特に精神面での高いハードルに挑み続けたこと」に、ますます大きな尊敬の念を抱いています。
アイスショーのリンクは競技用のリンクより小さめです。つまりそれは「競技のときよりも、助走によるスピードを出しづらい」という側面もあります。そんな条件のもとで決めたルッツ。本当に素晴らしい!
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。